かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:チョン・キョンファとコンドラシン、ウィーン・フィルによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を収録したアルバムです。ヴァイオリンはチョン・キョンファ、キリル・コンドラシン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。

あれ?かんちゃんさん、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ってチョン・キョンファですでに持っていますよね?というア・ナ・タ。鋭いですねえ。かなり古参の読者様ですね!おっしゃる通りです。すでに、チョン・キョンファベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はブルッフのとカップリングされたものを持っております。

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このエントリを立てたのはまだヤプログの時代でした。年月が過ぎるのは早いものです。光陰矢の如しとはよく言ったものだと最近思います。

さて、このCDを持っておきながらなぜ今回ご紹する音源を借りてきたかと言えば、実はチョン・キョンファベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲と言えば、そのCDが出る以前は今回ご紹介する音源が名演とされていたから、です。CDのブックレットでも、実はこの演奏と比較されて言及があります。そのため、図書館の棚で見つけた時、興味を持って借りてきた、というわけです。

この演奏を聴きますと、確かに、私が持っているCDが出た当時、話題になったわけだと思い知らされます。この演奏ですでにチョン・キョンファの演奏は円熟に達しているからです。この演奏が録音されたのは1979年。私が持っているCDは1989年と1990年。私が持っているCDの方を聴いても、本当に円熟味というか、表現の幅のすばらしさにほれぼれしますが、ほとんど同じような、生命力あふれる演奏がこの演奏でも感じられるのです!

この演奏の時、チョン・キョンファは31歳。私が持っているCDの時で41歳もしくは42歳。この間に、チョン・キョンファは結婚して子どもを設けています。その出産の影響も、CDが出た時には心配されたそうなのですが、確かにほとんどと言っていいほど変わっていませんし、むしろさらにパワーアップして1989年のCDの時には戻って来たという印象があります。確かに、チョン・キョンファはすごいヴァイオリニストだと言えるでしょう。すでにこの録音の時ですら、ヴァイオリンは歌い、踊り、表現豊かです。

オーケストラはこの演奏はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ですが、では私が持っているCDのほうのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団はダメなのかと言えばそんなことはなく、どちらも素晴らしいサポートをしています。この演奏はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団なのでクラリネットがウィーン式。その音色を好むか好まないかで評価が分かれるかなあと思います。私は別に嫌いませんしウィーン式を使うのはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の個性だと思っていますので、何とも思いませんし、またウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の方が至上であるとも言いません。どちらも個性あふれる、喜びに満ちた演奏です。

そして、カデンツァはいずれもクライスラーの物を採用しています。この点もチョン・キョンファがブレていないと思います。時に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は冗長だとも言われますが、古典派らしいくりかえしがアクセントとなり、段々盛り上がっていくさまはベートーヴェンの中期の作品の充実ぶりを示すものです。その充実した部分を、チョン・キョンファが存分に味わっているのも素晴らしいです。考えてみればこの時チョン・キョンファは31歳だったわけで、若手とは言えそれなりに人生経験を積んでいるんですよね。しかも、チョン・キョンファが生まれた家庭は決して裕福とは言えない家でした。チョン・キョンファの母親は食堂を経営し、公務員だった夫を支えた人です。そんな両親の姿を見て育ったことが、演奏に反映されているような気がするのは私だけなのでしょうか・・・

チョン・キョンファの人生や家庭環境が反映され、そこにさらに自らの視点が加わり、古典派の様式美の中でベートーヴェンの内面へと至る演奏は、私にいろんなことを思い起こさせ、考えさせます。こういう音楽、そして芸術に触れることは、まさに「模範的なヤツばかりが評価されるこの時代、くだらない不寛容社会から、個性と自由ではみ出していく」という、新しい学校のリーダーズが掲げる文言にも通じるものです。彼女たちがなぜセーラー服を着つつもこの文言を掲げ、活動しているのか・・・そこには、クラシック音楽の伝統が息づいているようにしか私には見えません。そして、チョン・キョンファもまた、クラシック音楽の伝統の中にいつつも、自らの経験をそこに投影し、表現する姿勢が見えます。くだらない模範的な姿勢ではなく、もっと柔軟な姿勢でスコアリーディングから表現を紡ぎ出す・・・その素晴らしい結果が、31歳という段階で実現されていること。そしてその基礎を持って、1989年の録音に臨んだということ。その果実を私たちは受け取り、いかにして自らの人生に生かしていくのか。そこに芸術に触れる意味、すばらしさを感じざるを得ないのです。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
チョン・キョン・ファ(ヴァイオリン)
キリル・コンドラシン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。