東京の図書館から、6回シリーズで府中市立図書館のライブラリである、朝比奈隆指揮大フィルによるベートーヴェンの交響曲全集を取り上げていますが、今回はその第5回、第5集を取り上げます。
第5集には交響曲第6番「田園」が収録されています。え?その1曲だけ?って思うかもしれませんが、はい、その1曲だけです。田園が収録されるときってかなり田園だけということはほかの全集でも多いのですが、3曲続けて1曲だけにしている(実は次の第6集も1曲だけなのですが)と、ちょっと驚いてしまいますよね。
驚きはそれだけではありません。総演奏時間が約43分。これ、拍子抜けしてしまいます。あれ?朝比奈節どこ行った?ベーム指揮ウィーン・フィルのほうがもっと遅くなっていたはずだ、と。
ええ、この演奏、あまり朝比奈節を感じられない、稀有な演奏となっています。ですがところどころ細かく朝比奈節が見え隠れはしているので全くないということはないんですが、ほぼ朝比奈節を捨て去ったかのような演奏になっていることは確かです。
で、それじゃあダメなのかと言えば、これがとても心地よい演奏なんです!オケを存分に鳴らして歌わせた演奏は、まさにベートーヴェンが田舎に来たその喜びを表しているかのようです。素晴らしい!
多分、私の美意識と朝比奈さんの美意識が限りなく近づいた演奏はこの第6番「田園」の演奏であると言えるでしょう。違和感が全くなく、むしろとても心地いい演奏は好きな部類に入ります。多少朝比奈節が見え隠れはしますがそれは許容範囲内。全く問題ありません。朝比奈さんって時としてこういう解釈、そしてタクトになることがあるので、不思議な人です。ですがブレてもいない。朝比奈節は細かいがしっかり存在している。ほんと素晴らしい演奏だと思います。
こういう驚きは大歓迎です。これぞプロオケを聴く醍醐味ですから。これは名演と言っていいと思います。むしろ朝比奈節はこういったゆったりとした作品にこそ合うのだと思います。それが全く違和感ないということにつながっているのでしょうし。
本当にいつまでも聴いていたいと思わせる演奏で、さすがプロと言わざるを得ません。第4楽章のティンパニもぶったたいてくれますし、非の打ちどころがない演奏です。これだけの演奏をするオーケストラに対して誇りが持てず、演奏する団員にチラシ配りをさせる大阪府あるいは大阪市というのは、私は芸術の何たるかがわかっていない人たちだと断言せざるを得ません。そしてそれに喝采を送った市民たち。この人たちも芸術に対して無知な人たちであると断言できるでしょう。それは事務局の仕事であり、大フィルの事務局の怠慢を批判しなければいけないのに、橋下氏の小劇場の劇団員を持ち出したことに何も批判できるだけのものを持ち合わせていなかった、ということになるわけですから。小劇団に事務局などあろうはずがありません。だからみんなでやるんです。ですが事務局がある団体であればまず事務局でやり、やりきれないときにオケの団員に頼む、というのが筋です。
なぜなら、プロのオーケストラは基本分業だからです。団員たちは自らの技量を高めていい演奏をすることが仕事です。一方事務局はそのオーケストラにいかにお客を呼ぶかが仕事になるのです。この分業体制がわかっていないと、おかしなことになります。どんな赤字の会社であろうとも、まず営業部門にメスを入れてテコ入れします。オーケストラにおいてその営業部門とは事務局です。団員はそのお手伝いで口コミをしたりするのが普通です。それがわかっていない知事、そして市長の存在が大フィルの演奏力を削いだのだとすれば、それは補助金を出す意義から外れています。それでいいと考えているのであれば、大阪の凋落を止めることは不可能だと断言します。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
朝比奈隆指揮
大阪フィルハーモニー交響楽団
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