かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:グールドがピアノを弾くヒンデミットの金管ソナタ1

東京の図書館から、新年第1回目は、府中市立図書館のライブラリである、ヒンデミット金管楽器のためのソナタ集の第1集を取り上げます。2回シリーズになります。

ヒンデミットと言えば、20世紀に活躍した作曲家ですが、実に興味深い作品を書いています。その一つが、この金管楽器のためのソナタです。ソナタと言うと、大抵ヴァイオリンやピアノ単独などを想起するかと思います。ところが、20世紀という時代において、まるでバロックの編成?と思うようなソナタヒンデミットが書いているのです。思わず借りました。

そして、もう一つ借りた理由が、そのピアニストがグレン・グールドだった、という点です。グールドは、あまり群れない人だったと言われますが、なんとソナタのピアニストを務めてもいたのです。そのうえ、演奏するのはヒンデミット。私たちはベートーヴェンなどの古典派や、バッハなどのバロックの演奏を想起しがちですが、実はこんな「20世紀音楽(当時の前衛音楽)」も演奏していたというのですから驚きです。

この第1集に収録されたのは、トランペット・ソナタとホルン・ソナタ。20世紀という時代ですから、金管楽器ソナタは目を引く存在です。しかし、ヒンデミットソナタも数多く書いていますが、弦楽器のためと同じかそれ以上、実は管楽器のためのソナタを書いています。

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それぞれ1939年の作曲です。ちょうどナチス・ドイツ第二次世界大戦を開始した年です。その前年にヒンデミットはスイスへ亡命しています。この二つの作品はスイスで作曲されたものということになります。自身が自由に創作をする場として、永世中立国だったスイスがちょうどよかったものと想像されます。時代において保守的なものというのは変化します。ヒンデミットが生きた時代であれば、むしろ弦楽器とピアノのためのソナタのほうが保守的であり、管楽器のためのソナタは革新的です。革新的だと批判をされ、下手すれば命が取られかねない状況では、永世中立国であるスイスへと逃れるしか方法がなかったことでしょう。永世中立国ということは、むしろナチスと敵対する用意があるということを意味しますので(故にスイス軍は現在でも強力です。特に空軍は)。

そういった背景を知っての上なのか、グールドのピアノは、実に実直かつ歌っています。管楽ソリストと息を合わせ、二つで一つになっています。そのうえで、それぞれの個性も現れており、グールドが我先にという演奏ではないです。グールドの繊細な表現を保ったまま、テンポはあくまでも管楽ソリストに合わせています。20世紀音楽特有の不協和音を伴った和声であるにも関わらず、味わい深い演奏がそこに存在します。

そういえば、バッハにおいては、決してテンポを上げることなく、淡々と演奏するグールドがあったことを思い出します。以前取り上げたバッハのゴルトベルク変奏曲は、実直にしかしゆっくりと、かつ生き生きとした部分では思い切りテンポアップして演奏していました。グールドの演奏がベートーヴェンの「田園」のピアノヴァージョンだけで判断するのはとても危険であるとその時悟りましたが、その判断はまったくまちがっていなかったと、この演奏を聴いても思います。まるでグールドがヒンデミットに共感し、味わい尽くしているかのよう。

私自身も、ヒンデミットにこのような作品があったのか!と目を見開かされます。こういう演奏こそ、プロのあるべき姿だとおもいます。人間はどうしても慣れ親しんでいる演奏で感動を得ようと思いますが、感動して涙を流すことだけが、私たちの精神世界ではないはずだと、私は思います。ヒンデミットが目指した芸術が人間の内面を表現することであれば、19世紀のような壮大な音楽だけでなく、もっと個人の心象風景を切り取るような作品があってもいいという姿勢には、完全に同意します。まさにグールドも、その精神に完全に同意する一人だったのではと、この演奏を聴いても思うのです。

 


聴いている音源
パウルヒンデミット作曲
トランペットとピアノのためのソナタ
ホルンとピアノのためのソナタ
フィラデルフィア金管アンサンブルのメンバー
 ギルバート・ジョンソン(トランペット)
 メイソン・ジョーンズ(ホルン)
グレン・グールド(ピアノ)

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