かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:東京クァルテットによるベートーヴェン弦楽四重奏曲集3

東京の図書館から、6回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、東京クァルテットによるベートーヴェン弦楽四重奏曲集、今回は第3集を取り上げます。

第3集には、第9番と第11番「セリオーソ」が収録されています。番号順ではないのがこの曲集の特徴なのですが、比較的若い順に並んでいるので、おそらく収録時間の関係だとは思いますが、アルバン・ベルク四重奏団が番号順のものも出していますから番号順でもいいとは思いますが、録音が1989年とかなので、アルバン・ベルク四重奏団の新しい録音のほうを念頭に置いて番号順ではないのかもしれません。

アルバン・ベルク四重奏団は、ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集を2回録音していますが、2回目では番号順で出版されませんでした(ちなみに、1回目は番号順でこのブログでも取り上げております。「神奈川県立図書館所蔵CD」のコーナーでした)。その2回目は1970年代後半から1980年代にかけての録音。伝説的なその録音を意識してもおかしくはないでしょう。綺羅星のごとくあるクァルテットのなかでも、アルバン・ベルク四重奏団は飛びぬけて実力もあり有名かつ近代的な演奏をしたアンサンブルです。

第9番にしても第11番にしても、弱奏と強奏のコントラストがはっきりしており、かつ繊細で一見すると弱弱しさすら感じる演奏になっているのがこのアルバムです。ある意味、伝統的な演奏と近代的な演奏の中間と言ってもいいもので、強奏の部分のアインザッツは明らかにアルバン・ベルク四重奏団を意識しているように聴こえます。かといって真似のようにも聴こえず、しっかりとした自己主張が演奏から聞こえます。まるでベートーヴェンの魂の叫び。気の置けない仲間たちだからこそ吐露できたベートーヴェンの心情が反映されたともいわれる弦楽四重奏曲ですが、その核心をついた演奏になっているかのようです。ベートーヴェンというと、何だか強さが言われるのですが、本当はベートーヴェンも弱い人間だったはずです。残された資料からは、ベートーヴェンが一人の人間として苦しみぬいている様子しか出てきません。強さはその行きついた結果でしかありません。つまり、ベートーヴェンが見せる強さはある意味弱いので強がっていると言えるでしょう。その内面性と繊細さに、東京クァルテットは十分迫っていると言えます。アルバン・ベルク四重奏団の演奏は確かに私自身最も好きなベートーヴェン弦楽四重奏曲の演奏ですが、ともすればそれはベートーヴェン「神話」に基づいており、ベートーヴェン神格化の結果だとも言えます。一方、東京クァルテットのメンバーは多少若いがため、最新の欧州における臨床心理学の結果を反映して、一人の人間としてのベートーヴェンの姿を表現したとも言えるでしょう。その観点で、私はこの東京クァルテットの演奏も十分評価できます。

むしろ、その「人間ベートーヴェン」という最新の研究成果を、日本人が反映させたところに、私は驚くとともに称賛するところです。特に、この録音では第1ヴァイオリンがピーター・ウンジャンだったということも、演奏に反映されていると考えてもいいのではないでしょうか。どうしてもある一定の年齢以上の人だと、ベートーヴェンを神格化する傾向があり、それは今でも日本のクラシックファンの間では顕著です。その視点から考えても、なぜ東京クァルテットのメンバーが日本に戻らず、アメリカに本拠を置いたのかも、わかるような気がするのです。正直、日本の臨床心理学はアメリカよりも70年は遅れていますので・・・・・最近、中野女史などようやく先進の臨床心理学に基づいた著作やコメントを述べる学者が増えてきましたが、まだまだキャッチアップ出来ているとは言えない状況です。正直、某芸能事務所の問題においても、私は報道などを見て痛感しております。確かに被害者救済は大事なのですが、そのケアという視点が全く抜けており、記者も質問しませんしメディアも指摘しません。被害者救済と企業ガバナンスだけが報道され、最も重要な残ったタレントや被害者のケアは報道されていません。

様々な資料から私は、ベートーヴェン機能不全家族に育ち、心に傷を負っていたはずで、その傷が創作の原動力になっていると言い切ってもさしつかえないと思っておりますが、その視点で表現する演奏家は、しばらく日本にはほとんどいませんでした。最近になって続々と出てき始めています。クラシック演奏の世界では明らかに地殻変動が起きており、今後我が国において欠くことのできない存在になっていくだろうと思っています。そのきっかけを作ったのは、この東京クァルテットの演奏なのかもしれないと、私は勝手に思っております。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3番」
弦楽四重奏曲第11番ヘ短調作品95「セリオーソ」
東京クァルテット
 ピーター・ウンジャン(第1ヴァイオリン)
 池田菊衛(第2ヴァイオリン)
 磯村和英(ヴィオラ
 原田禎夫(チェロ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。