かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:第10回「真夏の第九」The Last Concertを聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年8月13日に聴きに行きました、「真夏の第九」を取り上げます。

真夏に第九って、いったいなんで?と思う方もいらっしゃると思います。夏になにかちなんだものではなく、実はこのコンサートは東日本大震災の復興支援として、2013年から行われていたものです。そのきっかけが学生だったということで、おそらく夏休み期間でということではないかと思います。ちょうど同じ時期に甲子園球場全国高校野球選手権が行われているように・・・・・

実は、私は震災2年後の2013年に、石巻と女川で支援をしていた経験を持ちます。その時期では泥だしとかはなく、被災者の心のケアを主に行い、炊き出しを行っていました。あの当時はまだ津波の爪痕があちこちに残り、すっかり自然へと還ってしまった女川駅周辺は今でも目に焼き付いています。その後の女川駅の復興は鉄道ファンでもある私には夢のようです。

その経験から、実はもし石巻で第九が歌われることがあれば駆けつけたいとずっと心に刻んていたのです。ですがその様子はなかなかないようで、その代わりに毎年8月にこのイベントが行われていたようです。もう少し早く知っていれば、私も舞台に立っていたかと思います。このイベントは石巻ではなく岩手県大槌町の方々が中心になって行われていたようです。いずれにしても、ベートーヴェンの第九、そして震災復興支援ということで、是が非でも駆け付けたい!と思いチケットを取った次第です(このチケットを取った後に母校が1回戦を突破したので、何とか予定を詰め込んだというわけでした)。

そして、このイベントも今年で最後とのこと。あるところで区切りはつけないといけないだろうと思いますが、これを最後にするにはもったいないと思うような、素晴らしいコンサートでした。プログラムは以下の通り。

ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲と大行進曲
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」

いやあ、合唱団初めから歌うのか!と驚きました。まるでコア・アプラウス・・・・・え?大行進曲だからオケだけじゃないのという。ア・ナ・タ。タンホイザーの大行進曲と言えば、中盤のヴァルトブルクの歌合戦に歌い手や聴衆が集まり、ヘルマンをたたえる大合唱がある場面です。なので合唱があるわけです。しかも今回、序曲とその合唱をつなげるという荒業!それもまた自然なんですね。誰の編曲なのかはわかりませんが見事でした。ちょうどその日は翌日に甲子園へ母校の応援に駆け付ける予定だったので、思わず「熱闘甲子園」でタンホイザーが使われたことを思い出してジーンときてしまいました。

そして第九ですが、翌日に甲子園に母校の応援へ駆けつける予定があったことから当日の予定が詰まっており、開始直前に着席。しかも2階最後部席。そのためかプログラムをあまりよく見ていなかったのですが、よく見るとティンパニが2つあり、管楽器は4管編成・・・・・あれ?もしかするとマーラー版?と思い某SNSへ投稿しましたら団員の方から「その通りマーラー版です」との指摘がありました。翌日甲子園から帰宅した後に確認しましたら、しっかりプログラムに記載がありました。

ではなぜマーラー版とわかったかと言えば、実はこのブログでも録音を取り上げているからです。

ykanchan.hatenablog.com

団員の方からは「合唱部分も変更がありました」とあったのですが、正直合唱部分はあまり気になりませんでした。オーケストラの部分はかなり通常とは違う響きがあったため、ほぼ間違いないだろうと予想したというわけでした。おそらくバリトン・ソロだと思うんですよね。そしてそれとの整合性を取るために指揮者が合唱にも変更を要求した可能性はあると思います。

オーケストラはおそらくアマチュアだけでなくプロの方も交じっているのではないかというくらい、やせた音もなかったですし(実際コンサートマスターの方は日フィルの元団員)、さらに素晴らしいのは、合唱。合唱団は舞台の後ろの席に陣取ったので音が塊で飛んでくるかと思いきや・・・・・なんと!しなやかでまるで天井から音が降りてくる感じではないですか!コア・アプラウスでは塊で飛んできたのとは大違いです。合唱指導は今井円香さんという今回メゾ・ソプラノのソリストの方なのですが、只者ではないです・・・・・おそらく、毎年参加される方がいて、気心しれているんだろうなと思います。どうししても声を上へいったん飛ばすなんてことは難しいんです。舞台へ降りればできる団体はあります(中央大学混声合唱団のように)。しかし、座席という高い場所からとなるとなかなか難しいんです、これ。どうしても天井までの距離が短いからです。それをしなやかかつ力強い合唱にしてさらに音が天井から降りてくるように発声させるのは合唱団員のレベルが合唱指揮者の要求にこたえうるだけの実力を持っていないと無理なんです。よく「感覚だけは声を頭の上から出すように」といわれますが、愚直にそれができてしまう合唱団は素晴らしいの一言です!

さらには、思いが強いのか、私が常に取り上げる第4楽章Vor Gott!の部分は、Vor1拍に対してGott!が7拍・・・・・はい、変態演奏です!なのにそれが自然に聴こえてしまいます。名演と言って差し支えないレベルです、これ。ティンパニも2つあるにも関わらず思いっきりぶっ叩いてくれますし、レベルが高すぎます・・・・・最後、思わずブラヴォウ!をかけてしまいました。

さらにこのコンサートで印象に残ったのは、ソリストと合唱団の登場の仕方です。第4楽章が始まっても合唱団は入ってきませんし、ソリストの姿もありません。しかしオーケストラのユニゾンが始まるところで合唱団が入りまして、しかしそれでもソリストの姿はなし。しかし明らかに1階からバリトン・ソロが聞こえてくるではありませんか!え?どこにいるんだ?と思ったらなんと!客席から歌いながら登場!まるでオペラです。オルフ祝祭合唱団さんが第九をバレエとして演奏したのは見たことがありますが、第九をオペラにしてしまうとは!これも舌を巻きました。しかも心に刺さります。見事です。最後だなんて、本当に残念ですが、これもまた新たな出発なのでしょう。もし大槌町で開催されることがあれば、歌いに行きたいと思わせる「名演」でした!

追伸:

アンコールでは、第九の第4楽章練習番号Mの部分(いわゆるユニゾンの部分)と「ふるさと」が歌われましたが、「御一緒に!」というので、思い切り歌わせていただきました。第九はもちろん、テノール・パートを。その部分だけでも参加できて、幸せでした!大槌町の皆さんや参加された皆さんに幸あらんことを!


聴いてきたコンサート
第10回「真夏の第九」The Last Concert
リヒャルト・ワーグナー作曲
歌劇「タンホイザー」から序曲と大行進曲
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
加藤千春(ソプラノ)
小谷円香(メゾ・ソプラノ、合唱指揮)
渡辺大テノール
増原英也(バリトン
阪本正彦指揮
真夏の第九オーケストラ
真夏の第九合唱団

令和5(2023)年8月13日、東京杉並、杉並公会堂大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。