かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:ブリテン 春の交響曲ほか

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ベンジャミン・ブリテンが作曲した「春の交響曲」ほかを収録したアルバムをご紹介します。

ブリテン交響曲を書いていたの?とびっくりされる方もいらっしゃるかもしれません。ブリテンと言えばシンフォニストのイメージ、ほぼないですから。しかし交響曲とは一見するとわからないような交響曲ならいくつか書いており、この「春の交響曲」はそんな作品の一つに数えられると思います。

ja.wikipedia.org

このアルバムは、この「春の交響曲」を伝統的な「交響曲」と捉えることをせず、むしろウィキの説明にある通り「オラトリオあるいは連作歌曲」という位置づけでアルバムを構成しています。それはカップリングが聖チェリーリア讃歌と「5つの花の歌」になっていることから明らかです。だからなのか、リベラルなクラシック・ファンからは冷遇されているのがブリテンだと言えます。自己主張がない、とか。

しかし、オラトリオを交響曲と言ってしまう点を考えると、これほど強烈な個性はないだろうともいえます。音楽が美しさだったりを追い求めていたりするのでそう感じてしまうのかもしれませんが、歌詞も相当なものですし、意外と「春の交響曲」はとてもイギリスらしさを持っているうえでかなり個性的な作品であると言えるでしょう。

www7b.biglobe.ne.jp

結構保守的な内容も持つ詩を、20世紀音楽的な不協和音の中に落としこんだりと、実は結構リベラルな点も散見されるのがこの「春の交響曲」で、やはり歌詞を見るということは必要でしょう。とくにこの作品が合唱こそ主役であるということを考えると、その歌詞の分析なしにいいかげんなことを言うのはただ単に好き勝ってに言っているにすぎません。別に好き勝手にいう事が悪いわけではないですが、そういう人に限って例えばブリテンをこき下ろすような評論をしている人だったりもします・・・・・

それぞれの歌詞を書いた詩人を検索してみますと、意外にも共和主義を標榜していたりと千差万別。これをどう解釈すればいいのでしょう?私は作曲した時期、1949年というタイミングに注目します。第2次世界大戦が終わり、冷戦がはじまろうとしている中で、ながい戦争というトンネルを抜けて、やってきた平和という「春」。それは戦争に耐え抜いて、多様性を守り抜いたイギリスの誇りから生まれた作品である、と私は推測するのです。

それは最後の詩「ロンドンよ、お前にあげよう」の中の歌詞にも表れています。

「更に加えては 神よ救い給え われらが
王を そしてこの国に平和をもたらし給え
そして反逆者をこの地から根絶やしにし給え!」

Which to prolong,God save our
King,and send his country peace,
And root out treason from the land!

この歌詞の前には、いろんな人が春の喜びを楽しむという場面が描かれています。それはまさに、長いトンネルを抜けて巡ってきた「平和」という「春」を謳歌する、「様々な」人々にほかなりません。それはブリテンがこの詩の中に、明確にイギリス市民を見出しているからこそだと言えるでしょう。

それを、伝統的な4楽章形式の交響曲という姿を借りて、実際には讃歌としてオラトリオのように書いているという内容につながってくると言えるでしょう。これはブリテンの「論文」であるとも言えます。そして同時に讃歌でもある。明快ですが一方で複雑なものも持っている作品です。なるほど、こうきたかという感じが私の中にはあります。

指揮はガーディナーでオケはフィルハーモニアですが、特に合唱の伸びがあり生きのいい歌唱は魅力的です。DSEE HXを動作させますとさらにその伸びの良さ、ホールいっぱいを使った、宗教的な響きが重視されているのもまた魅力で、合唱好きにはたまらない演奏です。オーケストラも生命力あふれる演奏を繰り広げますし、古楽演奏で宗教曲も振り慣れているガーディナーの明快なタクトであるからこその、ポテンシャルが引き出されたともいえるのかもしれません。とにかく、非常にきいていて生命力にあふれる演奏。

私たちは確かに生きている・・・・・そんな共感に満ちた演奏です。

 


聴いている音源
ベンジャミン・ブリテン作曲
春の交響曲 作品44
聖チェリーリア讃歌 作品27
5つの花の歌 作品47
アリソン・ハグリー(ソプラノ、春の交響曲
キャサリン・ロビン(アルト、春の交響曲
ジョン・マーク・エインズリー(テノール、春の交響曲
ソールズベリー大聖堂少年少女聖歌隊(合唱指揮:リチャード・シール)
エマ・プレストン=ダンロップ(ソプラノ、聖チェチーリア讃歌)
ギル・ロス(ソプラノ、聖チェチーリア讃歌)
ペネロープ・ヴィッカーズ(アルト、聖チェチーリア讃歌)
ピーター・ミッチェル(テノール、聖チェチーリア讃歌)
リチャード・サヴェイジ(バス、聖チェチーリア讃歌)
モンテヴェルディ合唱団(5つの花の歌)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
フィルハーモニア管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。