東京の図書館から、府中市立図書館のライブラリである、朝比奈隆指揮大フィルによるベートーヴェンの交響曲全集、今回はその第2集を取り上げます。
ゆっくりとしたテンポのいわゆる「朝比奈節」はこの第2集でも健在なんですが、ただ、目立たないのが特徴です。よく聴きますと、あ、ここ朝比奈節だとわかるんですが、そもそもテンポがそれほどこの二つ遅くないんです。むしろどっしりとしたという表現のほうがいいのかもしれません。
その意味では、第1集で朝比奈節を存分に楽しんだ人からすれば面喰う演奏かもしれません。時として朝比奈氏はこういう演奏をしたりするんです。この第2集では朝比奈節を捨てたりはしていませんが、ちょっと聴いただけでは捨ててしまっているようにすら聴こえます。
第2番と第8番という、ベートーヴェンの交響曲では目立たない作品をカップリングさせ、そこに細かく朝比奈節を入れ込んであります。これは何度か聴いていると味わい深く、速いテンポのほうが好きな私でもこれは一本取られたな、と思うまさに名演です。
クラシック音楽を聴くうえで楽しいのは、こういった「一本取られたな」と思う瞬間も含みます。勿論自分が好きな解釈がドン!と出てきたときが一番うれしくて楽しいのですが、一方でこのように決して自分の好きな解釈ではないにもかかわらず、これは味わい深いわ、一本取られた!と思う演奏に出会える時もまた楽しいのです。それはつまり、決して自分の好きな解釈ではないにもかかわらず、いいなと思う瞬間だから、です。
これぞプロの仕事。そんなは当たり前だという人もいるかもしれませんが、これはなかなか難しいことなんですよ。それだけ演奏に説得力がないと無理なんですから。人間というものは嫌いなものへは徹底的に嫌悪しますので・・・・・感情の動物ですからね。にも拘わらずよいと思わせるわけです。それが素晴らしいものでなくて何でしょう?
こういう演奏を聴いていると、さすが朝比奈氏は譜読みが深いなあと実感します。ブルックナーのミサ曲のブックレットで朝比奈氏の譜読みの深さは知識として知ってはいましたが、それを実際に経験するには自分がよく聴いている、好きな作品を聴くのが一番です。しかし第九では意外とテンポが速かったりもするので、それ以外を聴いてみると・・・・・おお!これは意外、聴けている自分がいる!
そんな「説得力」の源こそ、深い譜読みだと言えるわけです。それなしに違う解釈が好きな人もいいと言わせる演奏が実現できるわけがないんです。それはそれだけいい演奏、説得力のある演奏を実現させるために朝比奈氏が譜面と向き合い、努力したからです。そして朝比奈氏を慕うオケの面々。朝比奈隆と大フィルという組み合わせでこそ、実現できた説得力だと言えるでしょう。
だからこそ、朝比奈氏が振る全集を借りてきたという側面もあります。いろんな全集を聴けば聴くほど、自分とは違う世界が広がっており、その分聴いた自分は豊かになると信じています。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第2番ニ長調作品36
交響曲第8番ヘ長調作品93
朝比奈隆指揮
大阪フィルハーモニー交響楽団
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