かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:朝比奈/N響の第九

今回のマイ・コレは、また第九を取り上げます。朝比奈隆指揮、NHK交響楽団他の演奏です。

このCDを買いましたのは8年ほど前。実は、この演奏はすでにVHSで録画してあったものでした。演奏は1986年。当時、この演奏は2つの意味で注目されていました。

まず、朝比奈/N響という、なかなか実現されない組合わせであったということ。当時、朝比奈さんは大フィルの音楽監督をしながら、東京では新日フィルと「ニーベルングの指環」全曲演奏に挑戦していました。ですから、N響との組み合わせなどは望むべくもありませんでした。年齢もありましたし。

朝比奈隆
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E6%AF%94%E5%A5%88%E9%9A%86

当時78歳。すでに、世界の指揮者の中でも高齢に入る人でした。馬力をかけてなんてことはそう続けることができない状況です。まあ、無理すればできないことはないけれど、安全を考えてやらないっていう感じでしょうか。

しかし、朝比奈さんは戦前生まれ。実にタフな人でもあります。以前、ブルックナーのミサ曲を取り上げたことがありましたが、その演奏もかなりの強行軍の中で生み出されています。

今日の一枚:ブルックナー ミサ曲ヘ短調WAB28(原典版
http://yaplog.jp/yk6974/archive/53

ブルックナーの時もわずか1日しかリハの日程が取れない中で演奏していますが(しかも、ロケーションがザ・シンフォニーホールよりも残響が長い東京カテドラル聖マリア大聖堂で)、しかしこれは全く異なるオケなのです。オケはいいですが朝比奈さんは体力的に大変です。

しかし、いろんな理由で朝比奈さんが振ることになりました。原因としては予定されていたヴァントが来日できなくなってしまったということですが、だからと言っておいそれと朝比奈さんで決まるわけはありません。多分に、戦前生まれで「日本精神」を持っていた朝比奈さんだからこそ、引き受けたのだといっていいでしょう。

「やむに已まれぬ大和魂

これなしに朝比奈さんが引き受ける理由などありません。わざわざ老体に鞭打って引き受ける人はそうはいません。朝比奈さんだからこそ引き受けたのだと私は思っています。これもリハは1日しかないような状況だったようです。

そして、これは朝比奈さんが以前から考えていたことでもありますし、それが引き受けの主な理由にもなっていますが、4月の、しかも定期演奏会で第九を演奏するという点もあります。N響定期演奏会で第九を取り上げることはなかなかないです(毎年年末の演奏は定期ではなく「特別演奏会」)し、そして4月という直接第九とは関係ない時期に演奏するという点も、当時話題になったものです。

5月なら、それなりに理由があります(第九の初演が5月であるため)が、4月は全く関係ありません。まあ、直前ということはありますが。

私はすでに2枚朝比奈さんで第九は持っていますが、それなのにわざわざ購入したのは、この様にオケがN響であったことと、4月の演奏であったということが大きいのです。その上、N響としては特別演奏会ではなく定期演奏会であったということですね。

この「定期演奏会であった」という点が、このCDを評価するときにとても大切な点でして、全体的には所謂ゆったりとした「朝比奈節」全開の演奏です。当時、これは大フィル以外では合わないといわれてきました。しかし、実は朝比奈さんは在京オケですでに2つCDを出しています(いずれも新日フィル)。それも意外と高評価を受けている演奏です。このN響とのものも、全体的にはアンサンブルが絶妙で、最後のトランペットがひっくり返り気味なのが玉にきずな程度です。

大フィル以外では無理と言われた朝比奈節全開が、このN響定期演奏会でいともたやすく実現されてしまいました。朝比奈さんを評価する人も多い中で、私はむしろN響を評価したいと思います。その朝比奈節に完全について行き、素晴らしい演奏を実現しているのは、さすが日本のトップ・プロ・オーケストラだと思います(特に、第4楽章vor Gott!から完全にテンポが変わるアラ・マルシアの部分で完全について行っているのはさすが!)。ただ、それはやはりこの演奏がN響定期演奏会であったという点が有利に働いているように思います。定期演奏会であれば特別演奏会に比べ、練習の時間が多く取れることを意味します。リハが少ない点を練習でカバーすることができるわけです。さらに、定期演奏会であればその分スコアリーディングの時間が取れることを意味し、おそらくですが、N響の団員は大フィルの演奏のCDを徹底研究していたと考えられます。だからこそ、少ないリハで大フィルと同程度の「朝比奈節」が実現できたのだと思います。

さらに、私が常に取り上げるvor Gott!の部分ではきちんとvorを一拍としてGott!は六拍で振っています。ブルックナーのミサ曲の演奏を取り上げた時にも触れましたが、朝比奈さんは実に深くスコア・リーディングをやっているんだなあと思います。単に「朝比奈節」だけを見てしまうと、朝比奈さんのどこがすごいのかが霞んでしまうように思います。この点は本当はプロの評論家の方にもっと書いて欲しいなと思います。なんだか、朝比奈さんといえばブルックナーだけしか評価されていないような気もしますので・・・・・

こういった演奏を聴いてしまうと、第九はもうモダンオケではよほどのことがない限りCDは買うまいと思っても、新日フィルのは買ってみようかなとも思ってしまいます。変態演奏ではないのでブルックナー以外はあまり評価されない朝比奈さんですが、こういった演奏は朝比奈さんの本当に素晴らしい点を教えてくれるので、喜ばしいものだと思います。まあ、最後ちょっとだけアンサンブルが崩れるのはそれこそ大フィルではないのですから仕方ないと思います。よく条件的には整っていない中で、ここまで演奏しきったなあと、元合唱団員としては感慨深いです。

これが、プロの仕事です。それでも、残業代だなんだかんだって言うんでしょうかねえ・・・・・

産経新聞には、反論をいただきたいところですね。それはN響と比べて、或いはその実力差を「プロ」として勘案してのことだったのか。

明確にしていただきたいと思います。



聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付」
片岡啓子(ソプラノ)
原直子(アルト)
小林一男(テノール
勝部太(バリトン
東京藝術大学
朝比奈隆指揮
NHK交響楽団
(fontec FDCD9213)



このブログは「にほんブログ村」に参加しています。

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ 合唱・コーラスへ
にほんブログ村

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。