かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

音楽雑記帳:ラトルとウィーンフィルによるベートーヴェン交響曲全集を聴いた後で、その第九を聴いてみる

音楽雑記帳、今回はサイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルによるベートーヴェン交響曲全集を第8番まで聴いた後で、一番最初に買ったはずの第九を聴いてみるという企画で行きたいと思います。

サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるベートーヴェン交響曲全集のうち、私が一番最初に保有したのが第九でした。その時全集を買っておけばなあと今となっては思いますが、とにかく府中市立図書館での扱いが雑であったため、むしろ購入へと至ったという、まあラッキーと言えばラッキーであろうと思います。

そこで今回、その第九を第1番から第8番までを聴いた後でどう感じるのか、あえてこの全集の演奏で感じてみたいと思います。

第1楽章から第3楽章までは、それほど奇をてらってもいませんしとてもオーソドックス。第8番までで感じた情熱的な部分は一部にとどまります。それでも押さえるところは押さえてあるという、私のツボは外さない演奏になっています。そう考えると、この全集を収録するうえでラトルは決してブレていないことがわかります。

しかし、それが一転するのが第4楽章。むしろこの全集を貫き通している「情熱的なベートーヴェン」という点が爆発するのが第4楽章だと言っていいでしょう。そのコントラストが第3楽章までのオーソドックスな演奏との対比になっており、第九全体の構造もとらえているということも考慮すると、もう名演と言っていいはずだと思います。

第4楽章vor Gott!はそれほど変態演奏ではないんですが、しかしアラ・マルシアが始まるまで余韻があり、その点では演奏だと言っていいでしょう。しかも、アラ・マルシアはテンポアップしていく演奏で、ゆっくり始まったはずの演奏が速いテンポへと変わり怒涛のオケの演奏へと突入していきます。これは見事としか言いようがありません。その直前の「天使ケルビムは神の午前に立つ!」の合唱部分もしゃべるようで素晴らしいですし、バーミンガム市交響合唱団のレベルの高さを印象付けます。これ本当に歌うので表現するの難しいんですから。

それでですよ、Covid-19に罹患し生還した私としては、そのあたりから目に涙が・・・・・そして練習番号Mでは、もう男泣きに泣いています。

Deine Zauber binden wieder,    あなたの魔法の力は再び結びつける
Was die Mode streng geteilt,    世の中の時流が厳しく分け隔てていたものを
Alle Menschen werden Brüder,    全てのひとは兄弟になるのだ
Wo dein sanfter Flügel weilt.    あなたのその柔らかな翼が憩うところで

www.kanzaki.com

「あなたの魔法の力は再び結びつける 世の中の時流が厳しく分け隔てていたものを」罹患して入院し法的に病室から退院まで出られなかったことを考えるとまさにこれで、看護師さんや医師たちが資力していただいたそのことこそ「あなたの魔法の力」だと思っています。これにはもう感謝しかありません。

しかも、バーミンガム市交響合唱団は、そのWas die Mode streng geteilt,を強調するんですよね。後半の最後の合唱部分でもBrüderよりもGanzen Welt!のほうを強調しているんです。これは印象的ですがおそらくこのWas die Mode streng geteilt,と対になっていると感じます。世界は分断されているが、時流により厳しく分け隔てられた人たちも、「あなたの不思議な力」により「再び結び合わされる」はずだ、と。まさに今、Covid-19の変異株により世界は分断されているわけです。オリンピックもパラリンピックもとりあえず平穏には終わりましたが、その開催をめぐりまさに日本国内は分断されたんです。本来オリンピックを楽しんできた私ですら、今やるの?という疑念は最後までぬぐえませんでしたし、実際私を看護してくれた看護師さんの中にもそのように思っている人は少なくありません。

だからこそ、このラトルの解釈は意味を持つのだと思います。今は分断されているが、必ず結び合わされる、それは「あなた」の不思議な力によって。その「あなた」は神のような存在かもしれないし、名もなき多くの人たちかもしれない。そんな豊かな想像力と感受性による素晴らしい演奏は、もちろん最初から素晴らしいと思っていましたが、今回再度そのすばらしさを確認できたことが幸せであると感じています。これはまさに特効薬がないという病気から生還した今だからこそ感じられるのだと思います。

 


聴いている演奏
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
バーバラ・ボニー(ソプラノ)
ブリジット・レンメルト(コントラルト)
クルト・シュトライト(テノール
トーマス・ハンプソン(バリトン
バーミンガム市交響合唱団(合唱指揮:サイモン・ハルゼイ)
サー・サイモン・ラトル指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。