神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はドイツの作曲家ファッシュの協奏曲を収録したアルバムをご紹介します。
ファッシュ。また聴きなれない作曲家の名前が出てきました。私自身も借りるまではあまり知らなかった作曲家です。ではなぜ借りたのかと言えば、演奏がピノック指揮イングリッシュ・コンサートだったから、です。
そんな有名どころが、私たち日本人にはあまりなじみのない作曲家の作品を収録する・・・・・これは何かあるはずだ、と思ったわけなのです。
実際、検索してみれば、なるほど、です。バロックにおいては、名の知れた大家だったのです。
バッハが書き写すほど、です。聴いてみれば、確かに堅実な音楽の中に先進性がいっぱい。というか、おそらくイタリアで始まった新しい音楽運動を一つの力強いベクトルにした一人だと、私は考えます。
バロック的な和声のなかで、あくまでも古典的な楽章構成。ここに収録されている協奏曲はすべてそのようになっており、3楽章ではないものは一つもありません。ただそれは、すでにイタリアではヴィヴァルディが行っているものですが、それがドイツにおいて一つのベクトルに収斂していくには、ドイツで模倣する人が出ないと難しいことです。その最初期の一人がファッシュだったと言えるでしょう。バッハはその流れをさらに強めていったにすぎません。
以前申し上げたことがあったと思いますが、バッハの音楽は決してバロック時代のコア時代の作品ではない、と。むしろ前古典派のほうにより近いものなのだ、と。一方ファッシュはまさにバロック期の最終盛期に活躍した作曲家です。そんな作曲家が、新しいものを取り入れる人だった、ということです。
時代の移り変わりはいきなりやってくるのではなく、徐々にやってきて、ある時それが一気に加速する・・・・・その加速した時に、変化を感じるのだ、というのが最近の私の歴史観となっています。バロックからギャラントへ、そして古典派へという変化は、それぞれ徐々に変化しながらも力強い運動となり、スタンダードになっていく。その様子を感じるのに、私たちはあまりにも学校教育の場で教えられていない点が数多くあります。このような作曲家をどんどん取り上げていくこともまた、各楽団が負っている使命なのかもしれません。
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、コンサートのありようもかつてとは変わってきています。もちろんそれはワクチン接種の後はもとに戻ろうとするでしょうが、完全に戻らないと思います。変化していく部分もあるはずです。そんなとき、オーケストラの使命として、ファッシュのような作曲家の作品を取り入れていくということもまた、大事なことなのではないでしょうか。
このアルバムはイングリッシュ・コンサートですからピリオドですが、モダンで演奏したっていいわけです。ファッシュの作品を昔ながらにモダンで演奏したらどうなるのかは、非常に興味深いものです。ソーシャル・ディスタンスを取るという意味でも、ファッシュの作品が持つ魅力は多々あるように思います。
ピノック指揮イングリッシュ・コンサートの演奏は当たり外れが大きくて、私は積極的に選択はしないのですが、図書館なのでえり好みできずこれはとりあえず借りたものだったのですが、聴いてみれば生命力に富んでおり、非常に擦れた解釈だと思います。ピノックという人の一つの解釈方針があるのかとも思ってしまいますが、いずれにしても生き生きとしているのには驚かされます。ただ、これ一つだけでは何とも言えないんですよねえ、ファッシュの作品の魅力を適切に引き出しているかとまで言えるか、は。そのためにも、モダンオケでもいいのでぜひとも続いてほしいと願わずにはいられません。
それだけ、ファッシュの作品に魅力を感じるものではありますし、その役割はしっかりとはたしている演奏だと思います。
聴いている音源
ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ作曲
8声の協奏曲ニ長調FWV L:D1
協奏曲ハ短調FWV L:e2
序曲(管弦楽組曲)ト短調FWV K:g2
協奏曲変ロ長調FWV L:B1
協奏曲ニ長調FWV L:D14
トレヴァー・ピノック指揮、チェンバロ
イングリッシュ・コンサート
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