かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:福永陽一郎が振る日本の合唱曲集

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリをご紹介します。福永陽一郎が振る日本の合唱曲集のアルバムです。

クラシックを好んで聴いている人にとっては知らないことが多いのですが、じつは名指揮者であるのが福永陽一郎です。オペラが好きな人は、かろうじて藤沢市民オペラで知っていらっしゃる方もいるかもしれません。

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特に情熱的な指導で有名で、アマチュア合唱界では知らない人はいないくらいです。私は指導を受けたことはありませんが、それでも福永氏の名前は知っていました。貧乏合唱団で、かつ、つてもないので、福永氏に指導してもらうなど、考えられないことでしたし。

では、そんな憧れでこのアルバムを借りたのかと言えば、そうではありません。きっかけは二つ。まずは数年前に、ある「会」の仲間に誘われて、六大学合同の合唱コンサートを聴きに行き、その時に聴いた法政大学アカデミー合唱団(このアルバムの2曲目を歌う合唱団)の演奏を聴き、その時その仲間から福永氏のエピソードをたくさん聞いたこと、そしてもう一つは、これも3年くらい前ですが、朝NHKFMの「ビバ!合唱」という番組を聴いていたら、流れていたのが福永氏が指揮する「伊勢志摩」が流れていたこと、です。

まさにその放送で流れていたのが、このアルバムの演奏なのです。小林秀雄と言えば、有名なのは「落葉松」。実はわたしもそれしか知らなかったのですが、紹介されていたのがこの第1曲「伊勢志摩」だったのです。

小林秀雄伊勢市にゆかりがある人で、幼少期を伊勢で過ごしています。そんな縁もあって作曲されたのが「伊勢志摩」だと言われています。

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あ、クラシック好きな人の中には、評論家のほうと勘違いするかもしれませんが、じつは別人なのです。検索するときは、人名の後に「作曲家」とつけないと、評論家のほうがヒットしますのでお間違えなきよう。図書館などで調べるときも、同姓同名なので注意が必要です。

伊勢志摩をテーマにしているわけだから、さぞかし国家主義なのだろうと思ったら大間違い。むしろ伊勢志摩に対する風景や心象からの讃歌となっており、国家主義は少なくとも歌詞からは見受けられません。たしか、番組ではそういったものとは距離を取って作曲をしたというエピソードが紹介されていたように記憶しています。実はそういう点でも、借りてみたいと思ったのでした。

続く新実徳美の作曲「幼年連祷」。幸いながら、「伊勢志摩」と違いネットでも歌詞が出ていますので、「伊勢志摩」よりもわかりやすい作品だと思います。詩人自身の幼年時代を詩にしたものと言われており、それを新実が合唱組曲にしたものです。

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あえて言いますが、NHKはいろいろ言われますが、合唱組曲は海外でも評価の高い芸術ジャンルで、その創作や広く知られるためにNHKの学校音楽コンクールが果たした役割は多大なものがあります。新実のこの作品もそんな一つであり、しかも詩人は女性。日本の誇りともいうべき作品です。

そして最後が、池辺晋一郎の「冬に向かって」。美しい風景を描いた作品で、アンサンブルの美しさが妙である作品です。

ajchor.music.coocan.jp

その美しさを素直にめでるというか、感じるというか、その感受性のみずみずしさが味わえる作品でもあります。

さて、演奏は2曲目までは大学合唱団。「伊勢志摩」が岩手大学合唱団。「幼年連祷」が法政大学アカデミー合唱団。ともに福永氏が携わった団体で、特に法政大学アカデミー合唱団は福永氏がまるでオーケストラビルダーのように鍛え上げて実力をつけた合唱団でもあります。この録音では特に岩手大学合唱団の素直な発声が魅力で、歌詞がネットに上がっていない「伊勢志摩」も結構歌詞が聞き取りやすい演奏。一方の法政大学アカデミー合唱団は、若干聞き取りにくいのですが、それでも素直な発声に近づけようという意識は、結果として歌詞がわかりやすいことにつながっています。

圧巻は、最後の「冬に向かって」。これは福永氏が携わった3団体合同での演奏。晋友会でもそうですが、指導者が共通というのはある意味同じ言語を使っているようなもので、アンサンブルが楽なのです。そのアドヴァンテージを使って力強いアンサンブルとアインザッツで生命力のある演奏が魅力。単に美しさだけではなく、そこに人間の精神を反映させている演奏となっており、さすが福永氏の指導だと思います。

福永氏が残した録音は数多くあるのですが、それがCDとして現在まで出版されているものは少ないように思います。ぜひとも時代に合わせて、ハイレゾで再販してほしいなあと思うのはわたしだけなのでしょうか・・・・・特に、この音源、府中市立図書館の司書さんにしては珍しく仕事がいい加減で、合唱団の記載が最後の「冬に向かって」の合唱団だけになってしまっているんですよねえ。せっかく法政大学が小金井にあるのですから、その点はいい加減にしてほしくなかったなあと思います。そんなこともあり、こういった優れた演奏の記録は、ぜひともアーカイヴして、ハイレゾとしてDLできるようにしてほしいものだと思います。サーバーならそれほど場所も取りませんし・・・・・

意外とそういう視点は、出版側にないんですよねえ。

 


聴いている音源
小林秀雄作曲
混声合唱組曲「伊勢志摩」(作詞:峯陽作)
新実徳実作曲
混声合唱組曲「幼年連祷」(作詞:吉原幸子
池辺晋一郎作曲
混声合唱組曲「冬に向かって」(作詞:髙田敏子)
福永陽一郎指揮
岩手大学合唱団(伊勢志摩)
法政大学アカデミー合唱団(幼年連祷)
湘南コールグリューン
藤沢男声合唱
小田原男声合唱
(合同)(冬に向かって)
久邇之宜(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。