神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回は日本の現代音楽の取り上げたN響の特別演奏会を収録したアルバムを御紹介します。
ただ、私はこれらの作品を「現代音楽」とは呼びません。「20世紀音楽」と呼びます。収録されている3作品はどれも1970年代〜80年代にかけて作曲されたもので、アルバムの当時は「現代音楽」と呼ぶにふさわしい時代だったと思いますが、作曲からはすでに40〜50年がたっており、そこまで時間が経ったものを「現代音楽」とするのは私は抵抗があるからです。
ですから、以前から申し上げていますが、私は「現代音楽」と言う言葉をあまり使わず、「20世紀音楽」と呼ぶのです。正にこれら3作品は「20世紀音楽」です。作曲が20世紀ですから。
とは言え、「20世紀音楽」の様式は、この21世紀にだいぶ受け継がれているのも確かです。ですから、現代音楽という用語の他者の使用には寛容ですが私自身は使いません。
まずは、広瀬量平作曲の「尺八とオーケストラのための協奏曲」。まさに日本人ならではの作品がまず最初に並んだなと思います。西洋音楽の需要の歴史に置いて、戦前すらなかなか邦楽器を使った協奏曲を書く作曲家はいませんでしたが、戦後になってようやく邦楽器を使った協奏曲が出てきたことになります。
如何にも、尺八の日本的な旋律に、20世紀音楽らしい和声がアウフヘーベンし、まるで西洋音楽に昔からあったかのように、作品として成立しています。それは様式的にも循環様式を採用し、決してクラシックの伝統から外れていません。けれども、どこを切っても尺八の世界が広がっており、それが違和感がない不思議かつ素晴らしい作品です。
2曲目が、一柳慧(いちやなぎとし)のヴァイオリン協奏曲「循環する風景」。1曲目とは打って変わって、今度は西洋音楽バリバリの世界が広がる一方で、表現されているものは西洋とも東洋ともわからない、不思議な世界。これも様式的には循環様式で、だから「循環する風景」であるわけです。どこか激しさもあり、ロックしているかのようです。だからと言って西洋的とも断定できない、奇妙ですがしかし一つにまとまっている作品です。
最後が、石井真木の「オーケストラのための「曙光」作品39〜テラトーンの響き〜」です。激しさもあるのは一柳と同じ匂いがしますが、一柳はミニマム(その意味では多分に日本的でもあります)であるのに対し、石井は完全にヨーロッパの様式です。その上で表現しているのは決してヨーロッパだけでなく、むしろこれぞコスモポリタンと言える、地球の声。だからこそいろんな「音」が聴こえてきます。それが混然一体となって音楽としてまとまり、私たちに迫ってきます。これも味わい深い作品だと思います。
さて、演奏するN響。指揮は作曲家でもある外山雄三。この組み合わせであまり下手な演奏を聴いたことが私はありません。比較的レヴェルの高い演奏を叩きだすのはさすが外山氏だと思います(ただ、アンチ・カラヤンから外山氏への批判を見たことがありませんが・・・・・練習風景、そうとうオケを罵倒すると有名なのですがw)。会場は、今クラシックの演奏会では年末のMAXフィルさんくらいのメルパルク。そりゃあ、まだサントリーホールもない時代ですから。しかしメルパルクの残響をうまーくつかっているのは、NHKホールを拠点とするN響ならではでしょう。残響はとか言ってはいけないように思います。それなら初めからチョイスしないことです。
私は借りる時、なるべくロケーションまで確認して借りています。もし私が残響時間が2秒未満なら借りない!と決めていればこのアルバムを借りてくることはなかったでしょう。しかし若かりし頃と違い、今ではそんなこだわりは捨てました。むしろどれだけ魂に響くんだろうかとか、どれ程の驚きがあるだろうかというほうが基準です。
ですから、このアルバムでは、残響時間が比較的短い中で、どれだけのパフォーマンスを聴くことができるんだろうかという、ワクワク感が決め手でした。その中で残念なのは、一柳氏のヴァイオリン協奏曲のソリスト徳永二男。N響の首席ヴァイオリニストとして活躍していた人ですが、作品がロックしている部分がありすぎて、うまく響かせていないという点です。勿論、上手なのですが、何かが足りない。まあ弾いてみましたみたいなものは感じないんですが、そうとう弾きづらそうだと感じます。まだまだ日本のオケの実力が足らないことを示しているように思います。あるいは、レコーディングエンジニアなのかもしれません。
本来なら、N響だけでなく他の関東のオケの演奏も聴けるといいなと思います。例えば、東響とかですね。特に東響のファンの中にはN響を非難する人たちもいますが、ならば東響が同じようなプログラムを組み、やってみたらいいと思います。以外にも日本の作曲家達のレベルの高さに驚くはずです。そして日本のオケのふがいなさを、そこで実感することでしょう。ですがそれが現状です。そこからどこまでうまくなるのか。AKBのファンたちのように見守る必要も、私たち聴衆にはあるように思います。
この演奏も、例えば今のN響ならいったいどうなるのかって思います。そういうワクワク感は常に持っていたいと思います。
聴いている音源
広瀬量平作曲
尺八とオーケストラのための協奏曲
一柳慧作曲
ヴァイオリン協奏曲「循環する風景」
石井真木作曲
オーケストラのための「曙光」作品39〜テラトーンの響き〜
山本邦山(尺八)
徳永二男(ヴァイオリン)
外山雄三指揮
NHK交響楽団
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