神奈川県立図書館所蔵CD、ヴィヴァルディの宗教音楽全集を取り上げていますが、今回はその第5集を取り上げます。
いきなり、ミサ曲(サクルム)が出てくるのですが、これは偽作のようです。確かに、いきなりミサ曲というのも唐突な気がします。
というのも、ヴィヴァルディはミサの一部となるキリエなどは作曲していても、それがまとまった形になったものはないからです。それはすなわち、ヴィヴァルディの当時の「地位」と言うものを物語ります。
恐らく、私達が思っているほど高くはなかったはずですし、もっと有名な人が当時はいたはずなのです。だからこそ、一部となるものしか作曲できなかった、と考えることができます。その上で、当時は使いまわしです。ミサ曲という形でなくてもよかったとも言えます。
ですから、ミサ曲が偽作であってもなんら不思議はないんですが、実に素晴らしい作品ではあります。各声部がシンプルで、喜びが満ちあふれるのが伝わる作品です。要するに、ヴィヴァルディでなくても、それだけの作品を書く人がいて、ヴィヴァルディと間違ってしまうほどだったということなんです。
それが知れるだけでも、このような偽作が入っているのは嬉しいですね。
その次は、RV595とその導入として作曲されたRV625。ヴィヴァルディはミサ曲よりもむしろそれ以外の宗教曲が多いですね。このRV595はディクシット・ドミヌスが第1曲目ですからヴェスペレ(晩課のための音楽)です。それから見ても、宗教音楽を作曲しなかったのではなく、作曲できなかったのではないかと私は考えています。
それゆえなのか、実はヴィヴァルディの宗教作品はわが国ではあまり演奏機会がないんですね。私達日本人ってどうしても目立つものに囚われがちなんですよね。だからミサ曲がないからと言って評価しないんです。でも、ミサ曲がないっていうのはヴィヴァルディが生きた時代の評価そのものになっていないでしょうか?現代はバロック〜12音まで聴くことができる時代です。もっと視野を広く持ってもいいように思います。
ヴィヴァルディのような、当時では革新的な作曲家がいたからこそ、古典派もロマン派も、印象派も、新古典主義音楽も、12音階も、花開いたのです。私たちはその果実を受け取っています。それへの感謝は少なくとも私はかかしたくありません。
この第5集では、合唱団も肩の力が抜けていて、力強くしなやかでかつ伸びやかな合唱を聴かせてくれます。オケもイギリス室内管というのがまた本当にいい!モダンでバロック以降を演奏するなら室内オケで十分だと思いますし、下手すればそれでも大編成かもって思います。巷ではクルレンツィス/ムジカ・エテルナが話題ですが、本来あのオケのすごいのは、ソリスト集団がアンサンブルしているってことなんです。その意味では限りなくバロックに近いスタイルです。ムジカ・エテルナがバロックと同じ人数で演奏したとしたら、一体どんな演奏になるのだろうと思います。ともすればテンポにこだわりすぎて実力が存分に出ているにもかかわらず、何も伝わってこない演奏になってしまうこともあるのがムジカ・エテルナの欠点だと私は思っていますが、ならばバロックの作品をバロックでそうであったろうとされる人数で演奏するほうが、私はアグレッシヴでアヴァンギャルドな演奏が実現できるのではと思います。
イギリス室内管は決してアグレッシヴではありません。それは宗教作品なので当然だとも言えますが、しかしオペラオケであるシュターツカペレ・ドレスデンがモーツァルトの戴冠ミサで祝祭感溢れる演奏をシュライヤーの指揮でやって見せたようなことは出来る筈なので、指揮者が変ればまた印象も変るかも知れませんが、それでも私はこのステディな演奏も好きです。それでも十分喜びが私達聴衆に十分伝わってくるわけですから、これでアリだと思います。
聴いている音源
アントニオ・ヴィヴァルディ作曲
サクルム(ミサ曲) ハ長調 RV.586(偽作)
アシェンテ・ラエタ イ長調RV.635(主がわが主に仰せになった ニ長調 RV.595への導入)
主がわが主に仰せになった ニ長調 RV.595
イスラエルはエジプトを去り ハ長調RV.604
マーガレット・マーシャル(ソプラノ)
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
スーザン・ダニエル(メゾ・ソプラノ)
アンネ・コリンズ(メゾ・ソプラノ)
アンソニー・ロルフェ・ジョンソン(テノール)
ロベルト・ホル(バス)
トーマス・トマシェク(バス)
ミシェル・ライルド(クラリーノ)
イアン・ウィルソン(クラリーノ)
ゲラルド・ルッドック(クラリーノ)
オルガ・ヘゲドゥス(通奏低音チェロ)
ディートリッヒ・ベトゲ(チェロ)
エイドリアン・べアース(ダブルベース)
ジョン・コンスタブル(オルガン)
ジョン・アルディス聖歌隊
ヴィットリオ・ネグリ指揮
イギリス室内管弦楽団
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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