神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はサクソフォン協奏曲集を取り上げます。
そう、「サックス」の協奏曲、です。ええ〜っていう方も多いかもしれませんね。
サックスと言えば、勿論オーケストラの一パートではあるのですが、むしろジャズで光が当たる楽器ですから。
http://www.yamaha.co.jp/plus/saxophone/?ln=ja
サックスさんが作った管楽器なので、サクソフォンというのですね。吹奏楽をやられている方にはお馴染みの楽器ですが、マルタさんなどの強烈な演奏のイメージがあるこの楽器は当然、ソリストとオケとで演奏する、所謂「協奏曲」があってもいいわけ、ですけれど、実に数は少ないのです。
その数少ないサックス協奏曲を集めたのが、この音源という事になります。
まず第1曲目はドビュッシー。ドビュッシーもサックスのための作品を書いていたとは驚きですが、実は未完成。ロジェ・デュカスによって補筆され完成されています。象徴主義とも言えるドビュッシーらしい、幻想的な作品です。
協奏曲
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E5.8D.94.E5.A5.8F.E6.9B.B2
第2曲目がイベールの「アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲」。1935年に完成した作品で、室内オケよりもさらに小さい編成との協奏曲です。その意味ではバロックに影響を受けた作品だと言えます。
室内小協奏曲 (イベール)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%A4%E5%86%85%E5%B0%8F%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%AB)
印象派の時代の作曲家らしく、ふんわりとしながらも、生き生きとした作品です。
第3曲目は、「ブラジル風バッハ」で有名なヴィラ=ロボスのソプラノ・サクソフォンと室内管弦楽のための幻想曲。幻想曲と言ってもその様式は協奏曲ですが、幻想曲という題名通り、不協和音を多用することによって不思議な世界が現出されています。サックスがのんびりとした風景を描くなんて、ジャズのイメージからすれば信じられませんが。
1948年に作曲され、フランスの巨匠マルセル・ミュールに献呈されました。ここでこのアルバムの素晴らしい点は、実は第2曲のイベールも、作曲するときにミュールの力を借りているのです。そのため、イベールの作品は放送初演はミュールがソリストを務めています。この二つが並んでいるのは決して偶然ではなく、必然をもって並べられているという事になります。吹奏楽が好きな人には恐らくたまらない順番でしょう。
第4曲目は、何とロシアの作曲家グラズノフの「アルト・サクソフォーンと弦楽オーケストラのための協奏曲」です。ショスタコーヴィチとも関係があるグラズノフが、サックス協奏曲を作曲していたとは、これも驚きですが、何とも古典的な作品で、3楽章形式の急〜緩〜急の中で、サックスが生き生きと使われており、しかも最終楽章はフーガという、サックスが主に使われているジャンルが好きな人には信じられないような様式となっています。このあたり、さすがグラズノフという気もします。
アルト・サクソフォーンと弦楽オーケストラのための協奏曲
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%A8%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2
第5曲目は、イギリスの作曲家、ベネットのアルト・サクソフォン協奏曲です。ベネットは純粋な現代音楽作曲家であったにも関わらず、ジャズ好きで、演奏もしたと言う人です。
リチャード・ロドニー・ベネット
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88
まさしく、この作品はジャジーな作品で、私たちはジャズを聴いているの?という錯覚に陥りますが、様式的には古典的で、3楽章制で急〜緩〜急となっています。
最後の第6曲目は、デイヴ・ヒースの「ソプラノ・サクソフォンと管弦楽のためのアウト・オブ・ザ・クール」です。ヒースはこのアルバム中唯一存命する作曲家で、1956年にマンチェスターで生まれたイギリスの作曲家です。フルートのための作品も書いているため、この協奏曲の作曲者自身の編曲でフルート用もあります。現代音楽的な要素を持ちつつも、ジャジーな部分もあり、サックスがむせび泣くような、良い雰囲気を持っています。
ジャズや吹奏楽が好きな人にとっては、例えばグラズノフやヒースなどは物足りないかもしれませんが、19世紀末〜20世紀にかけての、協奏曲のスタイルであるヴィルトォーソ的な部分を持ちつつも、下手に戦うようなことはなく、むしろ古典派の会話する様式も持ち合わせています。そこが物足りないでしょうが、サックスの「味」を十分味わえる無いようになっているように思います。
演奏しているソリスト、ジョン・ハーレはクラシックでもジャズでも活躍する鬼才。それと組んでいるのが、何と古典派を振らせれば絶妙なサー・ネヴィル・マリナー。そしてオケはやはりマリナーとモーツァルトの交響曲や協奏曲を演奏してきた、室内オケの雄、聖マーティン・イン・ザ・フィールズ。この組み合わせが、上品かつジャジーな雰囲気満載で、私たちにクラシックにおいてもサックスは実に魅力的な楽器であると語っているのです。
特にグラズノフまでは聖マーティン・イン・ザ・フィールズのサポートは抜群で、さすがです。その他の2曲も特にベネットは自国の作曲家であるせいか、実に自然なアプローチで、室内オケ故にむしろジャジーな雰囲気はぴったりなのかもしれません。サックスもオケと一緒に聴けば上品な音を持っていますし、決して乱暴ではないのです。それはソリスト、ハーレの実力のせいかもしれませんが、実に爽快で、かつ上品で、時には力強い。そのコントラストが絶妙です。
吹奏楽に編曲ということも、これらの作品は出てくるかもしれません。それだけの影響力を持つアルバムだと思います。
聴いている音源
クロード・ドビュッシー作曲
アルト・サクソフォンと管弦楽のためのラプソディー
ジャック・イベール作曲
アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲
エイトル・ヴィラ=ロボス作曲
ソプラノ・サクソフォンと室内管弦楽のための幻想曲
アレクサンドル・グラズノフ作曲
アルト・サクソフォンと弦楽オーケストラのための協奏曲変ホ長調
リチャード・ロドニー・ベネット作曲
アルト・サクソフォン協奏曲
デイヴ・ヒース作曲
ソプラノ・サクソフォンと管弦楽のためのアウト・オブ・ザ・クール
ジョン・ハーレ(サクソフォン)
サー・ネヴィル・マリナー指揮
聖マーティン・イン・ザ・フィールズ教会アカデミー
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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