かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:アーノルド 交響曲全集5

今月のお買いもの、平成26年8月(に訂正します)に購入したアーノルドの交響曲全集を取り上げていますが、今回は最後となる第5集を取り上げます。収録曲は交響曲第9番です。

アーノルドも9つの交響曲という重圧にさらされた様で、交響曲は9つまでしか書きませんでした。まあ、その一つ一つが濃いので9つで十分だったとは思いますが。

ただ、20世紀という時代は、ベートーヴェンの亡霊にさらされる作曲家だけではなく、もっと解放された作曲家もいた時代です。例えば、15曲書いたショスタコーヴィチがそうです。あるいはもっと少ないシベリウスもいます。

そういった時代であっても、ベートーヴェンを意識してその重圧に耐えながらの第9番であれば、まさしく、アーノルドはシンフォニストであったと言えるでしょう。この点は日本ではまだ知名度が低いのではないでしょうか。

アーノルドの9番は、1986年に完成しました。1979年に第8番が初演されましたが、その際のBBCマンチェスターが次の交響曲もと要請したのがきっかけです。

ここまで、アーノルドの交響曲は3楽章が多かったのですが、この最後の交響曲は4楽章制を取っています。そして興味深いのは、この第9番に至って、それまでの形式的なものをかなぐり捨てて、自由に楽章を構成したのです。4楽章制であろうとも、3楽章制であろうとも、速度指示は古典的な範疇に収まってきましたが、この第9番はそれが崩れているのです。

第1楽章がヴィヴァーチェ、第2楽章がアレグレット、第3楽章がジュビロ―ソ(快活な、という意味)、そして第4楽章がレント。まるでマーラーの9番のようです。音楽も映画音楽風というものを完全に突き放したような音楽で、誰もが「これは芸術作品だよね」と納得するような音楽です。しいて言えば、それまでアーノルドの作品が持っていた諧謔性は鳴りを潜め、よりいぜんの芸術作品に近い作風となっています。

ずっと私は、アーノルドの音楽とは映画音楽やそれ「風」ではなく、むしろもっとクラシカルなものであるはずだと述べてきましたが、それがまさしく正しかったかのような音楽なのです。私はどうやら、アーノルドとの交信にみごと成功したようです。

特に第4楽章などは、ブックレットではマーラーの影響かと書かれていますが、私はむしろチャイコフスキーの「悲愴」を想起しました。その上で、ベートーヴェンの第九を多分に意識しているなと感じています。第4楽章の長さが4楽章の中で一番長いのです。これはベートーヴェンの第九と全く同じ構造です。合唱が付いていないだけです。

つまり、この作品が最後の交響曲であるということを、最後でこれまでかと表現しているのですね。それはそれで、やはり頭を使って聴くというアーノルドらしい音楽だと思います。そこは外していないんだな、と。

まさしく、アーノルドは「20世紀音楽」の作曲家であったと言えましょう。え、現代音楽と言うべきではないのかって?

以前から、私は20世紀の作品は「20世紀音楽」という時代区分をするべきだと思っています。現代ではないのですから。限りなく現代に近い時代ですが、今はもう21世紀なのです。このアーノルドの第9番にしても、作曲からすでに30年が経とうとしています。さすがに現代音楽と言うのははばかられます。

ただ、この第9番に関しては、現代音楽というべき和音などがちりばめられていて、第8番までとは全く様相を異にしています。しかし、絵画的でもあるのです。旋律線が分からないわけでもないですし、その点でいえばやはり現代音楽というよりは、20世紀イギリスの音楽の延長線上にあると言うべきかと思います。

この第5集には指揮者ペニーと作曲家アーノルドの会話が最後に収録されていて、英語が分かる方にはとても勉強になるものであろうと思います。調べてみるとペニーは、現代イギリス作品を頻繁に取り上げていて、その点で生前のアーノルドとも親しかったようです。なるほど、華美に走らず、しかしダイナミックさがある解釈はそのせいだったのだなと、納得した次第です。端正ながら滲み出る知的情熱は、まさしく作品の気品を保ち、しっかりと作曲者のメッセージを伝えることに成功しているように思います。

オケがアイルランドというのもよかったのではと思います。以前も触れましたが、イギリスとアイルランドはさほど仲がいいとは言えません。だからこそ、オケの団員がアーノルドという作曲家に対して、過度に思い入れすることなく、突き放しながらもしっかりとメッセージを受け取ろうとしているように思うのです。この第9番でも、その姿勢が貫かれ、第4楽章などは端正な演奏でありながら、まるでむせび泣くような、感情の発露を見出すことが出来ます。

アーノルドはあらゆるジャンルを作曲した人でした。交響曲をきっかけにして、さらに協奏曲も以前取り上げたもの以外が聴きたいですし、また他のジャンルも是非とも聴きたくなった作曲家です。この全集と巡り合えて、本当によかったと思っています。




聴いているCD
マルコム・アーノルド作曲
交響曲第9番作品128
アンドリュー・ペニー指揮
アイルランド国立交響楽団
(Naxos 8.505178-5)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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