今月のお買いもの、しばらく5月に購入したものをご紹介します。というよりも、ようやく5月に購入したものをご紹介できます。今回は大阪のテレマン室内管弦楽団のベートーヴェンミサ曲ハ長調他です。
ようやくコメントをつけてくださった方のオーダーに応えることが出来ました!つけていただいてからずっと狙っていた一枚です。
以前、第九で大阪テレマンの演奏をご紹介しています。
今月のお買いもの:80余名の第九
http://yaplog.jp/yk6974/archive/848
この時の第九も素晴らしかったですが、今回も素晴らしい演奏を聴かせてくれています。それだけに、室内オケでやる限界も示しているCDでもあります。いや、ベートーヴェンという作曲家がいかに時代の先端を行っていたのかが分かると言うべきでしょうか。
まず、1曲目のコリオラン序曲ですが、室内オケでも全く遜色がありません。ピリオド楽器でもきちんと強いアインザッツが、聴き手を熱くさせます。収録場所が第九と同じいずみホールであるにも関わらず、モダンオケに引けを取らないダイナミックな演奏となっています。
一方で、室内オケの限界を示したのが次の合唱幻想曲です。これは再生装置次第では物足りない部分があるように思います。ただ、素晴らしいのはそれでいてフォルテピアノの音が弱いにも関わらず、それが全体の中でバランスが崩れていないことです。以前私がモーツァルトのピアノ協奏曲で触れましたが、やはりフォルテピアノは室内オケ程度が一番バランスがいいのだなと実感した瞬間です。
そう、ピリオドのモーツァルトの交響曲とピアノ協奏曲の演奏で私が提示した疑念に、この二つの演奏は見事に答えを呈示してくれています。ピリオドだから大編成がいいのではなく、モダンだろうがピリオドだろうが、やはり全体の中の楽器のバランスを考えないのはおかしいことを、延原氏は私たちに教えてくれています。嬉しいのは、それがヨーロッパのオケではなく、我が国、しかも大阪の団体から教えていただいたという点です。この点では、東京の奮起を期待します(地元神奈川でもええですよ〜、モダンの神奈川フィルあたりでもよかですたい、っていったい私はどこの出身だったっけ?)。
ベートーヴェンはおそらく、こういった物足りない部分を認めたうえで、技術が進歩しその上で大規模オケで演奏することで解決すると考えて作曲した可能性も否定できないのです(ハンマークラヴィーアのエピソードなど)。それゆえに、この演奏はいかにベートーヴェンという作曲家が過去に立脚しつつ未来を指向した作曲家だったかということを証明してくれてもいます。
最後のミサ曲ハ長調は、合唱好きな人たちには有名な曲ですがあまりメジャーではない曲だと思います(コア・アプラウスは数年前に取り上げています)が、ミサ・ソレムニスに勝るとも劣らない曲です。モーツァルトまでのミサ曲の伝統に即しつつ、ロマンティックな側面も併せ持つ、形式的にはこれぞまさしくベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」といっていい曲です。
ベートーヴェン/ミサ曲ハ長調 作品86
http://blogs.yahoo.co.jp/kithi02jp/2794034.html
カッコで触れましたが実はこの曲を知ったのはそのコア・アプラウスの演奏で、その時には体調不良で聴きに行くことが出来なかったのでずっと演奏が聴きたくて、実はすでに神奈川県立図書館で借りてきていましたが、読者の方のおすすめであるこの演奏も是非聴きたいと思った次第なのです。
というのも、ミサ曲の歌詞であるラテン語の発音が一番正確というか、一番母国語の影響を受けていないのは実は日本の合唱団だからなのです。たとえば、キリエ・エレイソンは日本人ならSは濁らずに発音しますし、ラテン語でもそうなのですが、ドイツ語圏の合唱団ではこれがほとんど必ずといっていいほど濁ります。以前であればそれはカトリックは認めていませんでしたが、今では認められているためです。その点では、日本の合唱団も単に母国語に従っただけという批判もできますが、日本ではプロアマ問わず、ほとんどの合唱団ではラテン語の正式な発音でと学んでいるはずで、それがたまたま日本語のローマ字読みとぴったりだったというだけなのです。
いや、ローマ字が実はラテン語に近いという点もあります。そもそも、ローマ字が成立する歴史の過程で、安土桃山時代に日本に来た宣教師の存在を無視するわけにはいきません。そういったことが、実は日本の合唱団が一番正確なものに近い発音をすることに繋がっていたりするのです。
図書館で借りてきたのはイギリスの合唱団。イギリスであるから幸いにもSは濁りませんし、アニュス・デイも「アグヌス・デイ」とはなりませんが(イギリスでも異なることがあります)、日本の合唱団であれば、Sが濁ることは絶対にありませんし、アニュス・デイが「アグヌス・デイ」となることも有りません。
以前述べたかと思いますが、ラテン語の比較的正しい発音の演奏を聴きたければ、日本の合唱団のものに限るというのはこういった背景があるのです。それを大阪テレマンもきちんと表現してくれています。
そして、ミサ曲だからとも言えますが、室内オケでもバランス、力強さとも全く遜色ない演奏です。もともと、室内オケ程度で演奏するのがベートーヴェンの時代の編成のスタンダードであったことをうかがわせるものです。その点で、図書館で借りてきた演奏よりも、もっと素晴らしいとも言えるかもしれません。ちなみに図書館のものは、ガーディナー/オルケストレル・レヴォリュショネル・ロマンティクです。これと遜色ない演奏だと言えば、ある方面からは冗談でしょと言われるかもしれませんが、私はそれに異を唱えます。それは日本の合唱団の実力をあまりにも過小評価しすぎています。合唱曲をいかに聴いていないかの証明でもあると思います。
以前から申し上げていますが、日本の合唱団はアマチュアですら、世界レヴェルの団体があるということを忘れてはなりません。オケだけでみるから判断を誤るのです。日本のクラシック団体は決して世界に引けを取りません。それは自信を持っていいと思います。それよりも、世界中の団体が現代に抱える、たとえば予算の問題だとかに目を向けるべきです。
その点で、橋下市長が補助金打ち切りという方針を示したのは、私はその政策に反対のスタンスですが、問題提起としてはよかったと思っています。これだけの団体を抱える大阪から、そういった意見が出たことは、実は翻って、日本のクラシックファンの認識の浅さというか、特定の音楽だけに偏ったことが導いた政策決定なのではという気がしてならないのです。
なぜなら、ヨーロッパでは合唱曲こそ「最上の音楽」という意識があるからこそ、室内楽などの小さなアンサンブルを重視したり、アカペラの合唱曲にも光が当たるにも関わらず、日本では正反対だからです。なのに、橋下さんを批判することができるのでしょうか。そんなことを突きつけている演奏だと言えば、いいすぎでしょうか。演奏家からの「SOS」を、私たちは本当に正確に受け取っているのだろうかと、考えてしまいます。
読者の方で、「あ、この曲は主調がハ長調なんですね!ベートーヴェンも聖なる調を使ってミサ曲を書いていたのですか!」と思われた方が幾人いらっしゃるでしょうか・・・・・・
聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
「コリオラン」序曲ハ短調作品62
合唱幻想曲 ハ短調作品80
ミサ曲ハ長調作品86
��田泰治(フォルテピアノ)
中村朋子(ソプラノ)
渡邊由美子(アルト)
畑 儀文(テノール)
テレマン室内合唱団
延原武春指揮
テレマン室内オーケストラ
(Live notes WWCC7667)
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