今日はコンサート雑感をお届けします。聴いてきましたのは、白川毅夫氏のクラリネットのリサイタルで、クルーセルのクラリネット四重奏曲を取り上げたものです。
白川氏とは10年来の知り合いですが、常にクラリネットの魅力を教えてくださっています。そんな氏から、クルーセルを演奏しますので是非!と連絡を受けました。
クルーセルですか!それはなるべく時間を作って会場へ参ります!と返信しました。なぜなら、クルーセルは以前、このブログで取り上げているからでして、まさしく今回の演目はその時に取り上げたものだったのです。
今月のお買いもの:クルーセル クラリネット協奏曲・四重奏曲全集�A
http://yaplog.jp/yk6974/archive/702
このエントリの前に、クラリネット協奏曲を取り上げた時にクルーセルにつきましては説明しています。
今月のお買いもの:クルーセル クラリネット協奏曲・四重奏曲全集�@
http://yaplog.jp/yk6974/archive/701
Bernhard Crusell
http://en.wikipedia.org/wiki/Bernhard_Crusell
日本の聴衆にはなじみのない作曲家だと思いますが、リサイタル当日、白川氏が語った思いからは、演奏家の間では有名な作曲家なのだなということがひしひしと伝わってきました。
二つのエントリでご紹介したCDを購入した理由の一つに、白川氏との出会いがあります。そうでなければ、恐らく全く作曲家名を知らないこのCDを買うことはなかったでしょう。縁とは本当に不思議で「異なもの」です。
御紹介したCDでは、第1番、第3番、第2番の順番ですが、今回のリサイタルでは番号順に演奏されました。しかも、演奏家だからですが、成立年代もきちんとプログラムに書いてくださっており、それを参照しますと、見事に番号順で作曲されています。そのどれもが、時期的にモーツァルトの死後、ベートーヴェンの中期から後期にかけての作品であるということを教えてくださっています。
まず1曲目が第1番です。1811年の作曲とありますから、ちょうどベートーヴェンの中期に当たります。そもそも、クルーセルはベートーヴェンと同時代なのです!その作品を、白川氏を中心とするアンサンブルは、とても丁寧に、しかし思い切りのいい演奏を披露してくれました。ゲネプロでへとへとでしたとアナウンスがありましたが何の!全くそんな様子はありません(確かに、体の動きは少なかったようには思いますが)。
クルーセルはもともとがクラリネット奏者ですから、動かないくらいでちょうどよかったかもしれません。第1番では白川氏が少しだけ運指で苦労しているのが見て取れました。第1楽章は早いパッセージもありますので、少し疲れて体が動かないくらいでちょうどよかったのかもしれないと思います。いや、白川氏であればノリノリでも冷静に演奏してしまうかもしれませんが^^;
そう、これは現代のクラリネット奏者が、古典派のクラリネット奏者と勝負しているということでもあるのです。
第2曲目が、第2番。短調で3曲のうち一番短い曲ですが、しかし決して暗い印象を与えません。クラリネットは温かく、弦楽パートも力強さを兼ね備え、それが転調して長調になりますとまるで抜けるような青空すらそこには見えてきます。
第3曲目は、前半のアンコールでもある、白川氏ご本人作曲の「暖気Danke、美手Bitte、Dance」です。これは氏が3年かけて作曲したもので、もともと銀座Cantataで行っていたサロンコンサートのアンコールピースとして作曲したものです。各曲が変奏曲形式になっている、それぞれの言葉が想像できるような作品です。暖気はドイツ語のDanke、つまりありがとうというイメージを表し、美手はドイツ語のbitte、つまりどうぞという、手を差し出すそのしぐさが生み出す人と人との関係の美しさを表現したものであり、最後のDanceはドイツの農民の踊りを表現したものです。
其れゆえか、とても生き生きとした演奏でした。構造、旋律は聴く限りではそれほど難しいものという印象はないのですが、それがなぜか心に響き、美しくしかも楽しいと感じるのは素晴らしいと思います。単純な曲でそこまで思わせるのは大変なのですよ!恐らく、演奏するほうは私たちが思っているより難しいと思っていたことでしょう。
休憩をはさんで第4曲目が、第3番。1823年、つまりベートーヴェンが第九を初演した年に作曲されました。ベートーヴェンが古典派からロマン派へと移って行くなかで、クルーセルはあくまでも古典派らしい作品を創り上げています。この曲は第1楽章でヴァイオリンで強いアインザッツが必要になりますが、そこが絶妙に素晴らしい!そして、当日分かったことですが、この3曲はクラリネット奏者が全体を統率する必要があるということです。弦楽パートが常に曲の出だしでクラリネット奏者に集中して出だしを合わせているのです。
例えば、中大オケの管楽パートや、樹林の団員の方に申し上げたいのですが、こういった室内楽の演奏会を聴きに行って、プロの演奏家がどのようにして出だしを合わせているのかに注目して、自分たちでできることはやってみるということが必要ではないかと思います。中大オケはおそらくOBやOGからそういった指摘はすでに受けているでしょうから釈迦に説法かもしれませんが、混声合唱団樹林のメンバーはぜひともその点を吸収してほしいと思います。
樹林のメンバーに言いたいことはそれだけではありません。このリサイタル全体に言えることですが、ppからffがとてもきちんとついており、そしてそれが高い品質を保っているということです。なぜそれができるのかを考えてほしいのです。
弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)は確かに簡単かもしれません(それでも、アマオケでできない団体も数多く存在しますが)、しかしクラリネットは簡単とは言いがたいのです。なぜなら、合唱と同じように息を吹き込む楽器で、かつタンギングが必要な楽器なので、合唱よりも音を出すのにタイムラグが発生するからです。それでも、ppとffの差をきちんとつけています。
それはアマチュアとプロの差だろうなんて言ってはいけません。私はそれにプロもアマもまったく関係がないと思っています。いや、この演奏会でそれを思い知らされたと言ってもいいかと思います。詳しいことは別途エントリを立てた方がいいかと思いますので、余裕のある時にでもまた「想い」のなかで述べたいと思いますが、是非ともこういった室内アンサンブルの演奏会に足を運んでほしいと思います。自分たちの「下手さ加減」を客観的に、かつ前向きに見つめることが出来ます。
アンコール曲の、白川氏がこの日のために作曲した「お楽しみ!」という曲も素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれました。この曲もシンプルであるがゆえに本当は演奏者としては緊張する筈の曲でしょうが、4名が楽しそうに、「終わったらお酒が飲めるね〜^^」という雰囲気が伝わってきて、とても温かい気持ちになりました。これぞプロですね〜。
機会がありましたらまた、聴きに行きたいリサイタルです。
聴きに行ったコンサート
クラリネットの魅力 シリーズ2 〜弦楽器との輝き!Crusellの世界〜
ベルンハルト・クルーセル作曲
クラリネット四重奏曲第1番変ホ長調作品2
クラリネット四重奏曲第2番ハ短調作品4
クラリネット四重奏曲第3番ニ長調作品7
白川毅夫作曲
暖気Danke、美手Bitte、Dance
お楽しみ!
白川毅夫(クラリネット)
飯島多恵(ヴァイオリン)
福本とも子(ヴィオラ)
北村祐美子(チェロ)
平成24(2012)年5月29日、東京練馬、大泉学園ゆめりあホール
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