神奈川県立図書館所蔵CDベートーヴェン弦楽三重奏曲全集の今回は第2回目。第2集を取り上げます。
この第2集に収録されている曲が聴きたくて、借りたのです!収録曲は、作品9の3曲です。
1798年に作曲された作品です。丁度弦楽四重奏曲第1番を作曲する直前です。そのためか、三重奏曲は弦楽四重奏曲を書くための習作と言われることが多いのですが、決してそんなことはありません。以下のサイトでも同じようにおっしゃられていますが、それであれば弦楽四重奏曲で習作を創ればいいわけですから。
弦楽三重奏曲は、ねらい目
http://park10.wakwak.com/~naka3/str_trio.htm
習作ではなく、弦楽四重奏曲を作曲する能力があるというアピール作品ととらえるべきと私は考えています。特に、作品9-1はいきなりヴァイオリンとヴィオラがセッションし、チェロが通奏低音の役割を担っていますが、やがてそのセッションにチェロも参加してきます。弦楽四重奏曲の中期の名作、ラズモフスキー三部作を彷彿とさせます。
その様子は習作にしては出来すぎです。ベートーヴェンの努力家、目的意識の強さとその理想の高さから出た伝説なのでしょうが、その前二つとはこの作品9は様子が異なります。いきなり高みに上っています。
弦楽四重奏曲を意識していたことは事実だろうと思いますが、果たしてベートーヴェンは弦楽四重奏曲を作曲するのが恐れ多いから弦楽三重奏曲を作曲したのではなく、弦楽四重奏曲を作曲したくて仕方なかったから、アピールのために作曲したのだとすれば、私の中では符号が合います。しぶしぶではなく、もっと積極的で前向きな姿勢だったのではないでしょうか。
その証拠に、この作品9では楽章が各々4楽章になっているという点が見逃せないと思います。これは明らかに弦楽四重奏曲を意識しています。いや、そもそもベートーヴェンの弦楽三重奏曲の楽章数の変遷は、明らかにハイドン以来の弦楽四重奏曲成立の歴史をなぞるものです。つまり、もし「恐れ多い」というのであれば、こういえるでしょう。
「いきなり、当時としては現代的な4楽章の弦楽四重奏曲を作曲するのは、恐れ多いことだったので、その能力があることを証明するために、弦楽四重奏曲の歴史をなぞるように弦楽三重奏曲を作曲した。」
上記サイトでも言及がありますが、少ない楽器で素晴らしい音楽を作曲しようとするほうが大変です。構造は確かに楽器数が多いほうが複雑ですから作曲は大変ですが、その手法さえ知っている作曲家であれば、さほど難しいことではないでしょう(実際、モーツァルトはどうでしょう?)。しかし、複雑なものと同じクオリティのものを少ない楽器でやることは、作曲能力にアレンジ能力まで必要とされるわけですから、当然高い能力が要求されるのです(それは、モーツァルトのミサ曲でも説明しました)。
であれば、決してベートーヴェンは弦楽四重奏曲が作曲できないことをなかばひがんで弦楽三重奏曲を作曲したわけではなく、むしろ少ない楽器でもこれだけやれるのですから、弦楽四重奏曲を作曲しても構いませんよね?というアピールであるという結論に達せざるを得ないのです。
私は、ベートーヴェンが聴覚を失う前と後とは、若干性格が違うと思っています。障害を持つということはそういうことであると私は思います。五体満足の人と不満足の人が人生において同居するのです。それぞれ人間としてはどうしても異なってくるのに、おなじ人格であっても違いが出て来るのは当然と言えましょう。つまり、後年の障害者としてのベートーヴェンと、いまだ障害がなく前途洋々とした未来があるベートーヴェンとは、精神に違いが出てくるは当り前であって、それを考慮しないのは間違いであろうと私は思います。
しかし、前後であっても共通する点はあります。それが、ベートーヴェンがもとからもつまじめさです。この作品9でも随所に気高さや高貴さが音楽にみられ、芸術の素晴らしさを堪能させてくれます。
演奏面ではその気高さや高貴さが際立っている点が聴きどころでしょう。各々の楽器のアインザッツの強さが際立たせています。こういったちょっとの点が、とても大きかったりしますから、演奏って面白いのですね。
演奏の「品質」ってなんだろうと考える時、まず基本は抑えているか、そしてその上で何か演奏効果をあげるために工夫をしているかまで含まれるだろうと私は思っています。アンサンブルの素晴らしさはもちろんですが、演奏上なにを重視して、それはどんな効果を狙ったものなのかという点までが、品質だと思っています。その延長線上に、「変態演奏」はあるのだと信じています。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
弦楽三重奏曲ト長調作品9-1
弦楽三重奏曲ニ長調作品9-2
弦楽三重奏曲ハ長調作品9-3
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ブルーノ・ジェランナ(ヴィオラ)
ムスティラフ・ロストロポーヴィッチ(チェロ)
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