神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全集を取り上げていますが、今回はその第4集を取り上げます。第11番〜第13番までと、歌劇《ムツェンスク郡のマクベス夫人》作品29第1幕第3場のカテリーナのアリア、そしてバレエ《黄金時代》作品22からのポルカが収録されています。
まず最初に収録されているのがオペラとバレエからの編曲なのですが、誰の編曲であるかはブックレットには書かれていなかったのが残念です。ただ、どちらも弦楽四重奏でもなんら不自然な点がないのが素晴らしいと思います。ただ、この二つに関しては原曲をきいていないので、それと比較するとということが言えないのが残念です。
続いて、弦楽四重奏曲第11番に参りましょう。1966年作曲のこの作品は、ベートーヴェン弦楽四重奏団のメンバーだったシリンスキーの死を悼むものです。そう、彼の主要な弦楽四重奏曲を発表してきた、ベートーヴェンQのメンバーの死を悼んで、なのです。
弦楽四重奏曲第11番 (ショスタコーヴィチ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC11%E7%95%AA_(%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81)
7楽章形式でそれがつながっているというのは、どこかで聞いたことがあるような気がしませんか?そう、それもやはりベートーヴェンの弦楽四重奏曲にあるのですね。
弦楽四重奏曲第14番 (ベートーヴェン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC14%E7%95%AA_(%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3)
ショスタコの第11番の場合、大きく5つに分けられるかと思います。第1楽章、第2楽章と第3楽章、第4楽章と第5楽章、第6楽章、そして第7楽章です。大きな物語でもあり、肖像でもあるような作品で、なおかつ伝統的な弦楽四重奏曲の楽章数からもはみ出しているこの作品は、シリンスキーの人生をベートーヴェンとなぞらえているのかもしれません。
第12番は2つの楽章しかない、これも通常の楽章数からは外れている作品です。
弦楽四重奏曲第12番 (ショスタコーヴィチ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC12%E7%95%AA_(%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81)
ただ、第2楽章はスケルツォ、アダージョ、フィナーレと3つの部分から成っており、これも全体的には4つの楽章があるとも考えることができます。1968年の作曲ですが、ショスタコーヴィチ自身に、シリンスキーの死がまだ囚われとして残っていたのかなあと私は感じています。
弁証法的な作風をこの作品は持っていますが、その点からも、ショスタコーヴィチが己の内面と対話した結果導き出された結果のアウトプットではないかと思います。それにしても、このような知的な作品を、エマーソンは本当にしっかりと演奏しています。いささかもいい加減にせず、近代的なきびきびとした美しさ(それはともすれば外的美に走りがちですが)を持ちつつも、滲み出るショスタコーヴィチの人間性を表現しています。
第13番は1970年に作曲された作品で、かなり不協和音が鳴り響く、まさしく20世紀音楽している作品ですが、構造的には、1楽章というのが最大の特徴であると言えるでしょう。
弦楽四重奏曲第13番 (ショスタコーヴィチ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC13%E7%95%AA_(%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81)
第13番は様々な要素がからまっています。まず、じつは単一楽章でありながら、シンメトリーになっていると言う点です。これはバッハの伝統を想起させます。その上で、じつは12音階になってもいます。更に、シンメトリーの中央部分では、ジャズ風となっていまして、さらに楽器を叩いたり、ピツィカートを使ったりもしています。ジャズ風などは、ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ第32番を彷彿とさせます。
ここまで来ると、私はこの3つの作品にどうしてもベートーヴェンの影を見てしまうのです。さらに言えば、第13番はベートーヴェンQを引退したヴィオラのワデイム・ボリソフスキーに献呈されており、「晩年のベートーヴェン」というキーワードが、ショスタコーヴィチの晩年ということと関連付けてしまうのです。
実は、第13番を作曲していた頃、ショスタコは癌などに罹り、薬漬けになっており、精神科に入院しています。そのまさに精神科病棟で書かれたのがこの第13番なのです。
どんな風景がショスタコの内面に映ったかはわかりません。しかし、そんなぎりぎりの状態であるからこそ、ショスタコの音楽の特徴である、伝統重視と引用、それが織りなすオリジナリティという点が強調されたのではなかろうかと思います。
エマーソンはこれらの作品を、実に淡々と、しかし時には激しく、しかし冷静さは失わず、知的に演奏しきっています。まるで語りかけるその演奏は、いずれも聴けば聴く程味わい深く、時として不協和音の嵐になるにもかかわらず、ショスタコの内面が滲み出てくるように聞こえるから不思議です。
プロですから、技術がしっかりしているのは当然と言えますが、その技術を使ってどう表現するかとなると、アーティストによって様々です。エマーソンの場合、ことさら力を入れなくても、自然と湧き上ってくるものがあるような気がします。
それと、この第4集ではさりげなくですが、オペラとバレエも入れており、ショスタコーヴィチの多作家としての側面もうたいあげているのが好印象です。どうしてもショスタコと言えば交響曲の印象が強いですし、この弦楽四重奏曲もそういった「頭」で聴いてしまいがちなんですが(まあ、ベートーヴェンリスペクトが強いこの第4集では当然とも言えますが)、そうではないんだよと、教えられているような気がします。
まるで映画音楽を彷彿とさせるようなそのオペラとバレエの音楽が入ってこそ、3つの弦楽四重奏曲の「深い内面」がきわだつように思います。
聴いている音源
ドミトリー・ショスタコーヴィチ作曲
アダージョ(エレジー)
(歌劇《ムツェンスク郡のマクベス夫人》作品29第1幕第3場のカテリーナのアリア)
アレグレット(ポルカ)
(バレエ《黄金時代》作品22からのポルカ)
弦楽四重奏曲第11番ヘ短調作品122
弦楽四重奏曲第12番ニ長調作品133
弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品138
エマーソン弦楽四重奏団
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
このブログは「にほんブログ村」に参加しています。
にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村