音楽雑記帳、今回は第九のシーズンであることを鑑み、合唱団の並びについて述べたいと思います。
第九を例にとりますが、皆さんは合唱団の並びって、気にしたことありますか?
オケは例えば18世紀シフトなどが有名ですが、合唱団の並びも実は変遷があります。
古くは、合唱団は客席から見て左から、ソプラノ、アルト、テノール、バスという並び順です。女性の高音から低音、男性の高音から低音という並び順です。
これには理由があります。これも以前正倉院の宝物に絡めて述べましたが、当然ですが19世紀、いや20世紀以前はオーディオなどというものはなく、もちろんステレオなどというものはありません。そこで、ステレオ効果を狙うため、こういった並びになったと言われています。
それと、オケのシフトとも関係します。18世紀シフトとはどういうものでしょうか?つまり、ヴァイオリンが二つに分かれ、しかも低音楽器すら二つに分かれるという編成でした。
ということは、左右にそれぞれ高音部を担当する楽器と、低音部を担当する楽器とが存在することになります。ですから、合唱団も同じように、左右どちらにも高音部と低音部が存在するよう、男女に分けたのです。単に男女別の時代だったからというわけではありません。
ところが、現在では男声を中心に据え、女性を両翼に並べることが多くなっています。これは男性が少ないという点もありますが、モダンでは高音楽器が左、低音楽器が右に来るからです。合唱団は左にソプラノとテノールの高音部、右にアルトとバスの低音部がきます。
これはオーケストラとの相性という点では実は理に適っているということなのです。単に男性が少ないということではありません(男性が多くてもこのシフトをする指揮者もいます。たとえば、男性を雛壇の前にだし女性を後ろにすれば、必然的にソプラノとテノールが左、アルトとバスが右に来て、しかも人数は均等になります)。
その点から言いますと、左に女声、右に男声というのは実は現代のオーケストラのシフトから言いますと、決して理に適っていないということなのです。これがポピュラーという人もいますが・・・・・
しかし、合唱が主である曲であれば、それは決して間違ってはいないことになるので、間違いとまでは言えないのが演奏の難しいところです。たとえば、第九の場合、楽譜はあくまでも上から下へ、ソプラノからバスへと書かれています。これは明らかにその並びでベートーヴェンも作曲しているということなのです。ですから、古典的な並びのほうが合唱部分は理に適っているのです。
では、オーケストラは?では、スコアを見てみましょう。例に取るのは、第4楽章第543小節から第594小節まで、いわゆる練習番号Mです。私が持つ全音版のポケットスコアでは、ヴァイオリンからコントラバスの順で上から下へ書かれています。直筆譜は該当部分がネットからは拾えませんでしたが、第309小節付近から推測して、ほぼ同じと言っていいでしょう。実際、私の全音版でも第309小節付近は一緒だからです。
http://www.kanzaki.com/music/lvb/op125-4-309ag.rdf
となると、ベートーヴェンはオケと合唱団とは、異なる声部が一緒になるように作曲しているということになります。つまり、ベーオーヴェンの頭の中では、合唱団はソプラノからバスという順番で、高音部から低音部という順番で鳴っていたと言えるでしょう。
それでは、あなたが言っていることに矛盾するのではというご意見もあるかと思います。実は矛盾しません。大まかに言えば、左に女性、右に男性を並べるというのは、高音部から低音部へと並べることだからです。
実際、テノールはアルトの高音域は出ません途中の音域までです(ですから、アルトの音域を全て出せる人を「カウンターテナー」と呼び区別するわけです)。ですから、高音部から低音部に並んでいることになるのです。
こういったことからも、実は第九の先進性というのはうかがえるので、スコアがある方はそういった点にも注意して聴いてみますと、また新たな発見があるかも知れません。
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