今月のお買いもの、今回はナクソスから出ているシューベルトのミサ曲全曲演奏シリーズから、第4番と第2番、そしてドイツ・ミサを収録した一枚を取り上げます。
これも何かの縁でしょう、これを集め聴いてみたい、ライブラリにしていつかは合唱団に役立てたい・・・・・そう思い立って16年。その間に合唱団はやめてしまい、役立てるという目的は果たさずじまいになってしまいましたが、しかしシューベルトのミサ曲が位置する重要性は近年本場でも高まっており、いつかはと思っていたことは果たすことができました。
そのきっかけを作ってくれた団体の25周年記念の定期演奏会がある月に、ぜんぶ集まったのですから。
さて、まず第4番ですが、1816年の6月から7月にかけて作曲されました。全体的にはモーツァルト的な雰囲気が薫る作品で、所々にシューベルトらしいいきなりトゥッティで始まる曲が散らばっているという作品です。モーツァルト風の旋律に聖歌隊出身のシューベルトらしい構成が使われているといった感じの曲で、構成的には優れていますが個性が今一という作品でもあります。
個性がいまいちと言ってもばかには出来ません。つまり、合唱がオケとトゥッティで出るということは、前奏がないためリズム等をいきなり合わせなくてはならないことを意味しますから、実はモーツァルトのミサ曲よりも難しいことを意味します。その点でヨーロッパでは再評価が進んでいる最中です。構成だけではなく、クレドのエト・レジュレクシットの部分は音楽的にドラスティックで聴かせてくれます。
次に第2番ですが、これは番号が若い分第4番よりは早く1815年に作曲されています。実はこの第2番だけは既にCDを持っており、いずれご紹介しますが、ケーゲルの指揮のを持っています。それですでに知っている曲ではありますが、しかし改めて第4番と比較しますと、この第2番のほうがシューベルトらしさが前面に出ています。その分構成的に若干稚拙な面もごく一部にありますが、しかし全体に影響を与えるほどではありません。
特にそれが感じられるのがクレドでして、実は私はこの曲を歌った経験があります。その時もこのクレドは本当に難しいのです。クレドに必ずあるべき、エト・レジュレクシットの部分に盛り上がりがないのです。いや、正確にはあるんですが一気に来ずじわじわと来るので、冷静に対処しないと全体的に平坦なものになってしまいます。その点が第5番や第6番に比べますと劣る部分ではありますが、しかしそれが一転、サンクトゥスやベネディクトゥスになりますと違いますから不思議です。グローリアの万軍の将が来たかのような音楽はもはやモーツァルトを超えています。
最後に収録されているのがドイツ・ミサです。1827年に作曲されたこの曲、なぜわざわざドイツとつけるのかと言いますと、これはブラームスのドイツ・レクイエム同様、歌詞がドイツ語であるからなのです。さらに私はバッハ以来の伝統も感じます。実際この曲が全曲演奏されたことが彼の生前になかったことや、彼が作曲した讃美歌によって構成されている点など、バッハのロ短調ミサと全く同じ特徴を持つからです。
マイ・コレクション:ソリストがいないロ短調ミサ
http://yaplog.jp/yk6974/
シューベルト ドイツミサ曲
http://church.ne.jp/ozuki/music/2.htm
聴きますと確かに讃美歌のような音楽がいきなりキリエから始まります。しかも歌詞はもちろん「キリエ」ではありません。これがミサ曲なの?という感じですが、これもミサ曲であるわけなのですね。ヨーロッパと言っても様々です。そういったヨーロッパの多様性も垣間見える音楽です。
一方、演奏面を見てみますと、いずれの作品も大規模な編成よりはむしろ、比較的小さなオケと合唱団による演奏を念頭に置いているように思います。このCDのオケは室内オケですが、十分合唱団とアンサンブルしています。さらに、八分音符に気を使った演奏をしている点も共感できる演奏です。それが美しさを際立たせていまして、私が以前から持っているケーゲルのものと比べますと盛り上がりなどでは劣りますが、演奏の美しさにおいて決して引けを取りません。
ケーゲルが指揮したのはライプツィヒ放送交響楽団と合唱団ですが、ここでは同じライプツィヒの室内オケで、合唱団もそれにあった小編成です。どちらもバランス面において十分に素晴らしい演奏ですので、甲乙つけがたいです。その音楽の厳しさという点においてかろうじてケーゲルに軍配が上がりますが、純然たる宗教曲としてのアプローチとスコアリーディングという点からしますと、この演奏も決してケーゲルに勝るとも劣りません。
こういった点は日本のアマチュア合唱団も大いに参考にできるものなのではないかと思います。30人程度のオーケストラに100人近くの合唱団はいりません。その1.5倍程度の人数でもたとえアマチュアだろうがひとりひとりがきちんと声を出すという基本的な役割さえ果たせば十分やれます。その点で先日の「樹林」の定期演奏会はとても残念なものでした。
このCDには細かくトラック割がしてありますので、合唱団員も、指揮する人も、そしてオーエケストラも、基準演奏になるのではないかと思います。その上で、いわゆる「変態演奏」と言ってもいいケーゲルの「名演」を参考にするのが、一番いいアプローチなのではないかなと思います。
聴いているCD
フランツ・シューベルト作曲
ミサ曲第4番ハ長調D.452作品48
ミサ曲第2番ト長調D.167
ドイツ・ミサ D.872
インモータル・バッハ・アンサンブル
モルテン・シュルト=イェンセン指揮
ライプツィヒ室内管弦楽団
(Naxos 8.570764)
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