今月のお買いもの、今回は毎度おなじみのBCJバッハカンタータ全曲演奏シリーズの第37集です。今回は冒頭にシンフォニアが並んだ、カウンターテナーのための曲の特集となっています。
収録されているのは、第169番、第170番、第35番、そして第200番です。おそらく200番は時間の都合でしょう。この曲はとても短いので・・・・・
事典によりますと、第200番以外は同じ時期に作曲されていることから、この3曲ともカストラートのために作曲されたものと推測されています。
まず、第169番「神にのみわが心を捧げん」BWV169です。冒頭、長いシンフォニアから始まりますので、いったい私は何を聴いているのだろうかという感じになります。バッハ事典(P.163)によりますと、この曲はチェンバロ協奏曲ホ長調BWV1053と同じ音楽で、おそらくさらにその元の曲は消失したケーテン時代のオーボエ協奏曲であろうとのことです。であれば、納得です。器楽曲がはじまる、そんな感じです。
しかし、それが終わりますとカウンターテナーのアリアが始まり、カンタータらしくなります。後は最後にコラールを合唱で歌わるだけで、カウンターテナーの独壇場です。たまにバッハにはこのような曲がありますが、それを聴きますとカンタータと言ってもヴァラエティ豊かであると感じます。
第170番「満ち足れる安らい、うれしき魂の悦びよ」BWV170も同様のカンタータとなります。構造的にはほとんど同じで、合唱が抜けているだけが違う点です。このあたりに忙しい中でレヴェルの高いものを生み出すためのバッハの苦労がしのばれます。第169番はただ神への信仰を賛美する内容ですが、この曲では同じ構造ですが一転、自分勝手な「義」をいさめる内容となっています。このあたり、バッハらしく決してノー天気にはなりません。音楽が私たちの心へと突き刺さってきます。ただ、悔い改めがあれば、心配はないと音楽が最後は長調へ転調してゆきます。
第35番「霊と心は驚き惑う」BWV35も同様の構造ですが、今度はさらに2部構成となります。そのそれぞれがやはりシンフォニアで始まり、アリアで終わるというかたちをとります。よほどいそがしい中でカストラートのための音楽を生み出す必要があったのでしょう。同じ形式なのに、全く飽きません。神の奇跡に驚くことで神の摂理を紹介し賛美し、その恵みをわたしに与えてほしいと願う内容です。
いずれの曲も編成的に小さく、木管がそれぞれ一人程度に弦くらいの編成です。ですので、第169番では合唱がかなり大音量で「飛び出して」来ます。バッハがもともとソロと管弦楽のバランスを考えて作曲していることがわかります。
最後の第200番「われはその御名を言い表さん」BWV200はわずか3、4分で終わってしまう小品となっています。編成的にもヴァイオリンが二つにアルトだけという構造です。おそらくカンタータの一部だったと推測されています。初演はかなり遅く1742年ころといいますから、彼の晩年に当たり、作曲もそれほどしていない時期です。もしかするとそのほかは既作品からの転用だったのかもしれませんが、今となっては何もわかっていません。
こう最後まで聞いてきますと、第200番も含めて、もしかするとこの一枚は鈴木氏のほかの古楽演奏に対するアンチテーゼなんじゃないかという気すらしてきます。上記「時間の都合上」という点もあるのだろうとは思いますが、第200番を入れたのにはもっと深いわけがある、という気がしてきました。
聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第169番「神にのみわが心を捧げん」BWV169
カンタータ第170番「満ち足れる安らい、うれしき魂の悦びよ」BWV170
カンタータ第35番「霊と心は驚き惑う」BWV35
カンタータ第200番「われはその御名を言い表さん」BWV200
ロビン・ブレイズ(カウンターテナー)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS SACD-1621)