今回の県立図書館所蔵CDもベートーヴェンのピアノソナタ全集を取上げます。今回は第4集になります。ピアニストは山根弥生子さん。収録曲は第11番から第14番までです。
第11番は東京都あきる野市にあるキララホール、それ以外は川崎市の洗足学園前田ホールでの収録です。恐らく、この音源が図書館にあるのは、収録された中に前田ホールでのものがあるという点が大きいのでは?と思っています。
でなければ、大手CD店でも扱わないようなCDを保有することはないのではと思います。まさしく県立図書館らしいラインナップです。
地元のホールでの演奏を大切にする。いいことだと思います。できれば、神奈川のアマチュアオーケストラや、神奈川フィルハーモニー交響楽団の演奏もライブラリとして持っていて欲しいですね。一応、横浜国立大学管弦楽団の演奏記録はありますが・・・・・
図書館の役割は、いい演奏を持つことだけではないとおもいます。すばらしい音楽を多くの人に広め、資料として公開することです。ですから、何も有名アーティストにこだわる必要はないと思っています。
さらに言いますと、図書館がいいアーティストを発掘するくらいにまでなるといいのですが・・・・・なかなか今の司書の仕事ではそれは難しいでしょうか。
でも、私はこの全集で山根弥生子という、日本人のそれも老年の名ピアニストに出会うことができました。恐らく、これは単にCD店へ行っているだけでは難しかったでしょう。こういう点にこそ、図書館の存在意義があると思います。
地元の演奏で、こんなにもすばらしいアーティストがいたのかと、私は目からうろこです。
確かに、この演奏は派手さはないです。ただ、内に秘めた感情の高まりは底を流れていて、何度聴きましても飽きないのです。
飽きない演奏は、一見するとつまらないものです。しかし、何度も聴いてくるとそれが味わい深くなるのです。名演はさらにそれを超えたところにある、と私は思います。
特にこの第4集でそれを感じますのは第12番と第14番です。どちらも有名な曲(第14番は「月光」)ですが、それを肩肘張らず演奏する山根さんは職人タイプです。しかし、それが私の心を捉えて離しません。
第13番のような形式的に独創的なものから第11番のようにオーソドックスな形式もあるこの第4集を、しっかりと演奏しきる山根さんの技術と精神力。そして何よりもベートーヴェンの音楽に対する尊敬を深く感じます。第12番の第3楽章などは、葬送行進曲でありながら、すがすがしい青空さえ想像してしまいます。
これがグルダやグールドだったら、一体どうなるのだろうと、楽しみは尽きません。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ピアノソナタ第11番変ロ長調作品22
ピアノソナタ第12番変イ長調作品26
ピアノソナタ第13番変ホ長調作品27-1
ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」
山根弥生子(ピアノ)
(元CD:ADAM ACD0036)