かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」

今日は月曜日、「マイ・コレクション」を取上げます。今回は、ベートーヴェン「第九」です。指揮はオトマール・スウィトナー、オケはシュターツカペレ・ベルリンベルリン国立歌劇場管弦楽団)です。

このCDを買ったのも高校生のときでしたが、そのときは散々悩んだのを覚えています。何せ、旧東独でしたから・・・・・

共産圏の演奏なんてあまりよくないんじゃないか、って当時はおもっていました。ただ、そのとき第九のCDであまりいいのがおいていなかったのも事実で、ある意味それしかないって感じで買ってきた一枚です。

ところが、いい意味でその予想を裏切ってくれました。アインザッツがきれいでない部分もあるのですが、アンサンブルはきれいですし、またテンポがいいのです。全体的に緊張感がみなぎっているのです。

それでいて、ゆったりとしている部分もしっかりとあります。演奏の高揚感では全く自己主張がないのですが、部分部分で自己主張がなされていて、これが本当に共産圏の演奏なのだろうかと当時思わずにはいられませんでした。

まず、第1楽章ではティンパニの連打が印象的。主題展開部でのティンパニなのですが、このCDほど思いっきり連打させている演奏はありません。私も20数枚第九だけで持っていますが、これほど連打させている演奏はありません。さらに、コーダの部分では通常テンポアップしますが、この演奏では逆にテンポダウンさせて、だんだん高みへと登る感じにさせています。

第2楽章はアップテンポのまま最初から最後まで演奏します。スケルツォなので当たり前といえばそうですが、フルヴェンさんのときもそうでしたが、ほとんどの演奏はトリオの部分でゆったりと演奏するのが通常です。この演奏ではそれをせず、等速で突っ込んでゆきます。これも、古楽演奏以外では私はほとんど聴いたことがありません。

ですので、第1楽章から第2楽章までは緊張感がみなぎります。

それが、第3楽章では一転ゆっくりとなります。これも通常とは多少異なる点ですが、これはフルヴェンさんと同じですね。ものすごくゆっくりですが、それが最後の金管が鳴り響く部分で神々しさを演出しています。はじめて聴いたときに、私はここで泣きました。

第4楽章もいきなりティンパニの連打!これほど第九でティンパニを鳴らせる演奏には私はなかなかお目にかかっていません。そして、ゆっくりと歓喜の調べを演奏して行き、合唱へとつなげる直前もティンパニの連打。この演奏ではティンパニが大活躍です。

vor Gott!(神の御前に)の部分のフェルマータも、きちんと6拍伸ばしています。さらにホールの残響でそれ以上伸ばしているように表現するという方法を取っています。それがなぜかあまり伸びていないように感じるのですが、ふたつ振りで数えてみますときちんと6拍きっちりと伸ばしています。

また、すばらしいのがテノールソリスト。ナポレオン・マーチの部分のテノール・ソロ(エバーハルト・ビュヒナー)の歌い方が堂々としていて、本当に「わが道を行け!凱旋の英雄のごとく」という感じなのです。それに続いて突っ込んでくるオケ。ものすごい緊張感を持って入ってきます。そして、それがホルンがさらりと演奏したあと、とてもきれいな混声四部合唱!

Deine Zauber binden wieder, Was die Mode streng geteilt,(御身の不思議な力はふたたび結び合わせる、時流によって引き裂かれた者たちを)のMode(時流)の部分の和音はこんなにも美しかったのか!と思わずにはいられません。ホールがキリスト教会であるということを差し引いても、この演奏ほどこの部分の和音が神々しく聴こえる演奏は私が持っている中ではありません。私が歌っているときでも、この部分はそれを意識しないで歌ったことは一度足りとてありません。それでも、なかなかこれほど美しくは歌えませんでした。

合唱団も全体的に秀逸で、特にそれを感じますのは実はSeid umschlungen Millionen!以降なのです。男声合唱はともすれば声を張り上げてしまいがちなのですが、この演奏ではしっかりと響かせています。また、女声合唱も高音の伸びがすばらしく、ピアニッシモもきれいです。これは発声にも原因があるのですが、私はどんな演奏を聴いてもこの合唱(ベルリン放送合唱団)と比べてしまいます。二重フーガがまたゆっくりとしたテンポで大変だと思うのですが、それをさらりとやってのけています。

また、少し戻りますが最初のFreude!の男声合唱を男性だけで歌っているのも、すばらしいです。楽譜上では男性のみの指定ですが、実際はアルトを加えることがほとんどです。プロや音大生の合唱団でも、男性だけで歌われることは少ないです。

独唱4人の予定調和による部分もバランスがよく、またきびきびとしています。クライマックスがまたすばらしく、特にSeid umschlungen Millionen! Diesen Kuss der ganzen Welt!の部分は、日本の合唱団ではどうしてもただレガートに歌ってしまうのですが、それを話すようにはっきりと歌いきり、かつぶつぶつに切れていないのはもう極上です。これはホールが教会であるということも関係しているかもしれません。ただ、全体的に海外の合唱団はそれがやれている場合が多く、このベルリン放送合唱団も例外ではありません。

初めて聴き終わった時には、涙で顔が濡れていました。初めて音楽を聴いて泣くほど感動した瞬間でした。

この演奏が録音された当時はまだ東ドイツが存在し、共産党政権だった時代です。国立歌劇場ですから当然国家の威信が関係していないわけはありませんが、そんな中で自由を求める気持ちが演奏に乗り移っているのがびんびん伝わってきます。第九の精神が合唱団に乗り移ったかのような伸びやかな発声。オケのがんばり・・・・・その全てが、聴く人を魅了します。

この録音から7年後、ベルリンの壁は崩壊するのです。


聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
マグダレーナ・ハヨーショヴァー(ソプラノ)
ウタ・プリーヴ(アルト)
エバーハルト・ビュヒナー(テノール
マンフレート・シェンク(バス)
ベルリン放送合唱団
オトマール・スウィトナー指揮
シュターツカペレ・ベルリン
(DENON 38C37-7021)
※現在ではDENNON Crest1000に番号違いで収められています。