かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:メジェーエワが弾くメンデルスゾーンピアノ曲集

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、メンデルスゾーンピアノ曲集を取り上げます。演奏するのは、イリーナ・メジェーエワ。

メジェーエワは前回と前々回で取り上げたように、旧ソ連の生まれでそのため祖国のメトネルを得意とするピアニストですが、現在の拠点が日本であるせいか、作曲家にはこだわらないのもまた特徴になっています。そして、このアルバムのようにメンデルスゾーンを取り上げるというのも、メトネルを取り上げる彼女らしい選曲であるように私は思います。なぜなら、我が国において、メンデルスゾーンピアノ曲が正当に評価されているか言えば、若干そう思えないような状況にあるからです。

以前「無言歌集」を取り上げた時にも触れましたが、メンデルスゾーンと言えば管弦楽曲という雰囲気が日本にはあり、そのうえで作曲家としての評価もそれほど高いわけではないというのもあります。近年はやや変わってきてメンデルスゾーンが再評価されつつあると思いますが、このアルバムが録音された1996年というタイミングだと、まだまだ低いままでしたので、いかにこのアルバムが意欲的かが分かろうと言うものです。

第1曲目はロンド・カプリッチオーソ。以前は作曲年が分からずメンデルスゾーンが15歳ころの作品と言われていたようですが、最近の研究により21歳の時の作品とわかり、ピティナの説明では反映されています(ウィキペディアは古いままなので、ピティナを採用しました)。若書きとは決して言えない、さすが作品番号が振られているだけある、明るい中にも堂々としたものが存在する作品です。

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2曲目が幻想曲ヘ短調作品28。3楽章からなる作品で、品の良さだけでなく激しさも存在する作品。幻想曲とありますが事実上のソナタと言ってもいい作品で、CDには記載がありませんが「スコットランドソナタ」という名称が与えられています。

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3曲目がスケルツォ・ア・カプリッチョ。作品番号がついていないので習作だと思われますが、情熱的な作品です。メンデルスゾーンらしい、習作とは思えない内容を持っています。

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4曲目が前奏曲とフーガ ホ短調。作品35のうちの第1番で、特に第1楽章の分散和音が特徴的に響きます。名称からしてバッハを意識した作品で、堂々としています。

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5曲目から7曲目が「無言歌集」。初期の作品19と後期の作品67をまず弾くことで、無言歌集という作品がメンデルスゾーンの活動のほぼすべての時期に渡っていることを示すのはピアニストらしい選択だと思います。そのうえでまさにピアノの「歌」らしい作品が選択され、「ヴェネツィア舟歌」という有名曲で3つをしめるというのは聴衆を裏切りません。

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最後第8曲目が「厳格な変奏曲」。10分を超える曲ですが、ベートーヴェン記念像を建てるための資金集めのため依頼された作品です。名だたるヴィルトォーゾが依頼される中で、自らの様式を変えることなく、実直な作品になっていることが重厚感すら感じる、堂々とした曲です。

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こう収録された作品を見てみると、自然とメンデルスゾーンの年代順になっているのも粋な計らいです。そのうえで、メジェーエワのピアノも情熱と冷静の間の素晴らしい演奏になっており、時に情熱的に、時に激情的に、時に静謐に、喜び、憂い、嘆き、悲しんでいます。メジェーエワが経た人生すら、そこに感じてしまうようです。それはまた、私自身の写し鏡のよう・・・そこが、メジェーエワのピアノの素晴らしいところでもあります。ちょっとしたところどころに、まるで人生が反映されているかのように弾くんです。いやあ、泣いてしまいそう・・・

泣くと言えばショパンでは?と思われるかもしれませんが、いえいえ、メンデルスゾーンだって相当泣ける曲書いているんです。保守的だからと言って食わず嫌い、あるいは衣憎ければ袈裟までもとして拒否するのはもったいないと思います。それはまた、メジェーエワのメッセージのような気もするのです。

実はこのアルバム、栃木県栃木市の岩船町文化会館コスモスホールで収録されています。一瞬岩手県かと思いましたが、調べましたら栃木県。栃木市と言えば蔵の街でありバロック音楽の音楽祭が開かれていたりする街。そんなところで、メンデルスゾーンを収録するということ自体が、どこか日本におけるメンデルスゾーンが置かれている状況を嘆くことなのではないか?という気もするのです。しかし録音を聴きますと、素晴らしい音響です。私も鉄道ファンですが、宇都宮だけではく栃木市も行くべきだなあと教えられます。東武でもJRでも栃木市は行けますから、青春18きっぷの時期でも行けます。こんな素晴らしい音響のホールがあるなんて!その素晴らしい音響のホールで聴くメンデルスゾーンは、明るいだけではなくむしろ人間の様々な感情がしっかり表現されていることに気付かされるのです。こういう演奏に出会うことが、幸せなのですよね。メジェーエワの活動から目が離せなくなりそうです。

 


聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
ロンド・カプリッチオーソ作品14
幻想曲ヘ短調作品28
スケルツォ・カプリッチオ嬰ヘ短調
前奏曲とフーガ ホ短調作品35-1
無言歌ホ長調作品19-1「甘い思い出」
無言歌ロ短調作品67-5「羊飼いの訴え」
無言歌嬰ヘ短調作品30-6「ヴェネツィア舟歌
厳格な変奏曲 作品54
イリーナ・メジェーエワ(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。