かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:熊本マリ タンゴ

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、熊本マリさんのアルバム「タンゴ」を取り上げます。

こういうアルバムを取り上げるのも久しぶりだと思います。収録されているのではすべてタンゴあるいは類似する楽曲です。まず最初の4曲がピアソラなのも粋ですねえ。タンゴと言えばピアソラですね。

タンゴと言っても、アルゼンチンタンゴもありますしヨーロッパタンゴもありますが、最初にアルゼンチンタンゴの巨匠ピアソラを持ってくるのはベタなだけでなくやはり王道という気がします。それを、普通はバンドネオンなどで演奏するところを、ピアノでやってしまうわけなので・・・

とはいえ、タンゴにおいてピアノが使われないというわけでもありません。特にヨーロッパではピアノもよく使われる楽器です。バンドネオンはどちらかと言えばアルゼンチンタンゴです。このアルバムはそんなアルゼンチンタンゴも含めてピアノで演奏しているわけです。

1曲目のピアソラ「タンゴエチュード」はフルートでの演奏もある曲ですし、2曲目の「天使のミロンガ」はバンドネオンで演奏されるのが常です。後半の他の作曲家の楽曲だとピアノというケースもあります。であれば、いっそピアノで全部演奏してしまおうという感じです。ですが、そのピアノが粋な演奏でありかつ生命力も感じられるから不思議です。

ピアノは一台で表現できる楽器ですしそのように発展してきた楽器です。本来だとバンドネオンとピアノは機能的に相反する楽器なのに、魅力ある演奏になっているのは、そもそも作品がある楽器専用で考えられているわけではないということと、弾いている熊本マリさんの実力でしょう。プロだから当然と断じるのはどうかと思います。簡単に弾いているようで実はかなりスコアリーディングをして、ピアノだとどのように弾けばいいのかは収録前にかなり練習し決定しているはずです。その過程無しにバンドネオンの曲がピアノでも違和感ない演奏になるはずはありません。プロであってもそのあたりは練習で弾いているときに迷いながら、楽譜にペンを入れて、演奏に関して参考にし決定しているのが通常です。

むしろプロだからこそ、そういう事前の準備を怠らないがゆえに、素晴らしい演奏になっているわけなんです。熊本マリさんの実力の高さが、こんなアルバムでわかるわけなんですよね。むしろその強調として、このアルバムは制作されたのでは?と私は考えるところです。

私たちが音楽を楽しめる根底には、演奏者の事前の十分な準備があってこそなのです。勿論即興で演奏することだってあると思いますが、通常はプロであっても完全な演奏になることは稀です。だからこそ、モーツァルトは天才と謳われ、ベートーヴェンは神童とされ時代の寵児になりました。

私自身、合唱だけやっていればそれに気が付くことはなかったと思います。SNS時代になってプロのピアニストの方と親しくなり、サロンに顔を出させていただいたりしたからこそ、ピアニストがどのような準備をして演奏に望んでいるかを知ることが出来ましたし、その結果いかにモーツァルトが天才だったか、ベートーヴェンが努力の人だったかが分かるのです。そして私自身もアマチュア合唱団員として準備にいそしんだ経験があるからこそ共感もできます。

マチュアオーケストラのコンサート会場に行きますと、結構楽器を持った人が大勢います。それはそのオーケストラに参加していると言うよりは、多団体で興味を持ったからとか、たまたま指揮者が同じだったからとか、大学の指導教官だとかという理由です。だからこそ、練習の後とかに楽器を持ってコンサートに行ったりとかで楽器を持っているのを目撃するということになります。同じように演奏に携わっているからこそ、演奏に共感できる部分があるのです。

じつは、それは音楽以外でも同じです。私はかつて厚生年金基金の職員でしたが、上司である事務長の名代として講演会などに参加したこともたくさんあります。そういう中で同じように名代として参加している職員と話をしたり、他基金の事務長さんと話が出来たりしました。自分も職員としていろいろ考えていたこともあって、職の上下に関係なく、結構話題が弾んだものでしたし、仕事で助けてもらったこともあります。音楽でもそれは同じことでして、それが仕事であろうが趣味であろうが、何かに携わると言うことにおいては同じなのだと感じます。以前の職場で上司から「事に仕えると書いて仕事です。それはお金を稼ぐという意味だけではないんですよ」と言われたことを今でもしっかり心に刻んでいます。

それがお金になるかならないかに関わらず、音楽という「事」に「使える」のが演奏です。そこにどれだけの準備をするのか・・・それが演奏の「質」を決めることを、熊本マリさんは演奏によって如実に語っているのです。このアルバムのすばらしさは、その熊本さんの実直さに支えられていると言っても過言ではないでしょう。

 


聴いている音源
アストル・ピアソラ作曲
 タンゴ・プレリュード
 天使のミロンガ
 天使の死
 天使の復活
エルネスト・ナザレ―作曲
 ヴィトリオーゾ
 7月8日
 レマンド
カルロス・ヒメネス作曲
 タンゴ
イサーク・アルベニス作曲
 タンゴ ニ短調作品165-2
 タンゴ イ短調作品164-2
ラウール・ラバーラ作曲
 タンゴ(「イベリアの風景」より)
アレクサンドル・タンスマン作曲
 タンゴ
ジャコモ・プッチーニ作曲
 小タンゴ
エリック・サティ作曲
 タンゴ
ダリュス・ミヨー作曲
 タンゴ(「屋根の上の牛」より)
アレクサンドル・タンスマン作曲
 ハバネラ
ハビエル・モンサルバーチュ作曲
 ハバネラ
ホアキン・トゥリーナ作曲
 ハバネラ
エマニュエル・シャブリエ作曲
 ハバネラ
イグナシオ・セルバンテス作曲
 さわらないで(ダンサ・クバーナ)
熊本マリ(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。