かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:ブリクシ ミサ・インテグラ他

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、ブリクシのミサ・インテグラ他を収録したアルバムをご紹介します。

本ブログ初登場となるブリクシは、18世紀ボヘミアの作曲家です。主に宗教音楽やオルガン協奏曲でチェコでは有名な作曲家です。

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音楽の時代区分としては古典派です。そのため、音楽がどこかモーツァルトに似ているようにも感じます。特にこのアルバムに収録されている二つの楽曲のうち、ミサ・インテグラは似ていると思います。では、ブリクシはモーツァルトをまねたのでしょうか?

私の考えとしては、Noです。むしろモーツァルトがブリクシをまねた、と考えるほうが自然でしょう。まず、ブリクシはモーツァルトよりも24歳年上です。そのうえ、モーツァルトはその人生の前半生では何回かヨーロッパ中を旅しています。ということは、むしろどこかでモーツァルトがブリクシの音楽に出会っている可能性のほうがはるかに高いのです。

ミサ・インテグラは完全一致ではないにせよ、モーツァルトがコロレド神父の要請で作曲したミサ曲の前半作品に似通っています。その時にすでにブリクシは夭折していますが、音楽は残っていたと考えられます。となれば、モーツァルトが触れる可能性は大いにあったと言えるでしょう。父親の従姉ドロテア・ブリクシはフリードリヒ大王の宮廷で活躍したヤン・イジー・ベンダと結婚しています。

しかも、このブリクシの「ミサ・インテグラ」は演奏時間も30分程度でしかありませんし、グローリア以外はすっきりしています。モーツァルトが短時間でというコロレドの要求に応えるにはピッタリの教材だと言えます。私たちはボヘミアというとチェコというイメージがありますので辺境という意識があるかもしれませんが、しかしボヘミアハイドンの上司であったエステルハージ公の土地があった場所でもありますし、後年モーツァルト自身もプラハへ赴いた、ハプスブルク家にとってはゆかりの地です。決して遅れた地域ではないんです。

むしろ、多少の遅れは発生するけれど、他国に比べればはるかにウィーンと同じ程度で文化が波及していたと考えるのが適切です。どうしても現代の私たちは東西冷戦の影響でものを考えがちなのですが、そもそも現在のチェコという土地は歴史的にはスラヴ民族が住む西欧の文化圏です。

もう1曲の「聖母マリアの七つの苦しみによる悲歌」は、聖母マリアが生涯に受けた7つの苦しみを表現したものです。聖母マリアの悲しみと言えば、スターバト・マーテルが有名なのですが、そもそもはカトリックにおいては聖母マリアの7つの苦しみに対する信仰があり、この「聖母マリアの七つの苦しみによる悲歌」はその信仰に基づく作品です。

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実際、7つの曲から構成され、それぞれが聖母マリアの7つの悲しみに対応する楽曲となっています。ブリクシは27歳で当時のプラハの音楽界では最高の地位である聖ヴィトゥス大聖堂の教会楽長に就任(1759年)していますが、その面目躍如といったところです。亡くなるまでその地位にいましたから、ネットで調べた限りでは二つとも成立年はわからなかったのですがおそらく二つとも1759年~1772年までに成立したと考えていいでしょう。二つとも優れた作品であり、私たちの「チェコ観」を改めるに十分です。ドヴォルザークスメタナだけがチェコの優れた作曲家ではありません。

演奏はプラハ室内管弦楽団ソリストチェコ人と思わしき人たちです。合唱団はキューン混声合唱団。合唱指揮がパヴェル・キューンですので、これもおそらくチェコの合唱団だと思われます。そのタクトを振るのは、ヘルムート・リリンク。ドイツ宗教音楽指揮者としては高名な指揮者です。特にバッハのカンタータでは名をはせたと言っていいでしょう。そんなリリンクが、ボヘミアの宗教音楽を振るというのは非常に意義深いと思います。チェコ人の指揮者でもいいとは思うんですが、恐らくリリンクの宗教音楽でも優れたタクトを見込んでのことでしょう。ブリクシの作品が持つ生命力、魂というものが浮かび上がり、生命を与えられているように思います。

特に合唱団は生き生きとしており、リリンク独特のテンポの良さもあり、ブリクシという作曲家が如何に優れた作曲家だったのかを浮かび上がらせます。来年あたりの「プラハの春」音楽祭で取り上げられればうれしいですね。

ちなみに、「Integra」を検索するとホンダの自動車「インテグラ」がヒットして、その語源は造語ということがかかれているんですが、はたして本当に造語なのか?と私は首をかしげています。だって、18世紀の作曲家がミサ曲の題名で使っているんですよ・・・・・おそらく、造語ではなくそもそも言葉として存在しており、しかしそれがボヘミアの作曲家が使っていることを知ったからこそ、造語ということにホンダはしたのでは?と思っています。「インテグラ」がいつ売り出したかを検索すれば、ピン!と来る方はいらっしゃるのではないでしょうか・・・・・・

 


聴いている音源
フランチェク・クサヴェル・ブリクシ作曲
ミサ・インテグラ
聖母マリアの七つの苦しみによる悲歌 Nov.Ⅳ/11
イボーリャ・ヴェレビッチュ(ソプラノ)
クリステル・ボルチャーヌ(アルト)
スコット・ヴァイア(テノール
ヨアヒム・ゲープハルト(バス)
キューン混声合唱団(合唱指揮:パヴェル・キューン)
ヤン・ホラ(オルガン)
ヘルムート・リリンク指揮
プラハ室内管弦楽団

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