かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:モーツァルト宗教音楽全集12

今回のマイ・コレはモーツァルトの宗教音楽全集の第12集です。収録曲はキリエK.341、ディクシットとマニフィカートK.193、ミサ・ブレヴィスK.275、女王、童貞聖マリアのためのリタニアK.195の4曲です。

この第12集はある意味、モーツァルトの宗教音楽というものにどんなものがあるのかを端的に語ってくれているいいCDだと思います。断片としてのキリエ、小品としてのK.193、ミサ曲にリタニアと、モーツァルトが宗教音楽として作曲したほぼすべてのジャンルが網羅されています。

ですから、この一枚だけを聴けばモーツァルトの宗教音楽がどんなものなのかを知ることが出来ます。音楽そのものの完成度は別にして・・・・・

アーノンクールがそういった意図を持っているかどうかはわかりません。しかし、この第12集の次の第13集でレクイエムを取り上げ、そこで全集が終わるということを考える時、私は当然アーノンクールがこの第12集でモーツァルトの宗教音楽が全体としてどんなものなのかを俯瞰し集約する意図をもって収録していると思います。

まずキリエ ニ短調K.341(368a)は1787年から91年にかけてウィーンで作曲されたとされている作品です。声部がきちんと整備され、オケ伴奏もついていることを考えますと、この曲は単独で作曲されたのではなく明らかにミサ曲を作曲しようとしていたが出来なくて残された楽曲であると言えます。以下のサイトではいろんな意見が展開されていますが、実はモーツァルトはウィーンでも教会音楽家として職を得ようと奔走していました。その上、1788年あたりにはハイドンのミサ曲を研究していたこともあり(東京書籍「モーツァルト事典」P.71)、1790年前後と推定されているもので、私も実際聞いてみますとそれを実感します。ニ短調という調性もレクイエムを彷彿させるとともに、レクイエムを作曲したころくらいのモーツァルトの音楽性を充分兼ね備えています。

K.341 (368a) キリエ ニ短調
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op3/k341.html

次にディクシットとマニフィカートですが、1774年に作曲された作品です。そもそもこの二つはヴェスペレに含まれる曲です。これはあくまでも「失われた(あるいは作曲されなかった)ヴェスペレ」ではなくて、そもそもこの二つだけで完結している作品です。以下のサイトでもそのように説明されていますし、「モーツァルト事典」でも同様ですが、モーツァルト事典ではさらに残りの4つは別の作曲家の作品である可能性をモーツァルト研究家アーベルトの言葉を引用して言及しています。

K.193 (186g) ディクシットとマニフィカート ハ長調
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op1/k193.html

この曲はその「ディクシット」の冒頭がとても印象的でかつユニークです。カノンやフーガを主体に簡素にかつ気品ある音楽が進行しつつも、各々の言葉を音楽で重厚に表現するといった、ミサ曲で鍛えられたザルツブルク時代のモーツァルトらしい作品となっています。

3曲目のミサ・ブレヴィスなどは本当にザルツブルク時代のモーツァルトの宗教音楽の際たるものでしょう。その上さらにユニークなのは、キリエの冒頭前奏なしにソプラノソロから歌い始める点です。この点からもモーツァルトの工夫の跡が見て取れます。

そして、アーノンクールはここで一つの疑義をさしはさんでいます。それは、この曲がモーツァルト全集では「ミサ曲」(つまり、「ミサ・ソレムニス」)と扱われているのにも関わらず、アーノンクールは「ミサ・ブレヴィス」としている点です。それは、以下のエントリでも私も疑問を投げかけ、アーノンクールの考え方をある程度支持しました。

モーツァルト ミサ曲変ロ長調K.275(272b)
http://yaplog.jp/yk6974/archive/183

この上記エントリでは語っていませんが、アーノンクールを支持したのにはさらに理由がありまして、この曲はグローリアとクレドは最初の言葉に音楽がついていなくてグレゴリアン・チャントから引用されるようになっている点です。モーツァルトはこれをミサ・ブレヴィスでしかやっていないのです。その点でも、ミサ曲としているのは形式面では誤りとも言えるのです。

一方で上記エントリでも申しました通り、「ミサ・ソレムニス」としても遜色ない部分を持つ曲でもありますので、ちょっと中途半端な面が形式的にはある曲です。それでも、ザルツブルク時代のモーツァルトの宗教音楽の特色はすべて兼ね備える作品ですので、やはりここでアーノンクールは「俯瞰」しようとしていると私は思うのです。

4曲目が女王、童貞聖マリアのためのリタニアです。モーツァルトはリタニアを4曲作曲していますがこのK.195は第3曲目となります。この曲ほどモーツァルトの宗教音楽の旋律的な特色をよく表している作品はないとも言えるでしょう。協奏曲あるいは交響曲とも言えるような器楽の書法、オペラ的な声楽。それでいて長すぎない演奏時間。それによって現出される高貴な世界。いかにもザルツブルク時代のモーツァルトの音楽です。

K.195 (186d) リタニア(聖母マリアの祝日のために)
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op1/k195.html

さて、これで全集ではザルツブルク時代のモーツァルトの宗教音楽はすべて紹介されたことになります。後はウィーン時代の最後で彼の宗教音楽の最後の作品でかつ彼の作品の中でも最後の作品となるレクイエムを残すのみです。そう考えますと、この第12集と第13集だけを続けて聴いても、ある程度彼の宗教曲を俯瞰することは出来るような編集にしているのかもしれません。ただ、これだけで判断してほしくないので初めにある程度有名な曲を持ってきたと考えれば、アーノンクールがいかにモーツァルトの宗教曲を世に問いたいのかがこの全集からは見えてくるように思うのです。



聴いているCD
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
キリエ ニ短調K.341(368a)
ディクシットとマニフィカート ハ長調K.193(186g)
ミサ・ブレヴィス 変ロ長調K.275(272b)
女王、童貞聖マリアのためのリタニア ニ長調K.195(186b)
エヴァ・マイ、バーバラ・ボニー(ソプラノ)
エリーザベト・フォン・マグヌス(アルト)
クルト・アツェスベルガー、ウーヴェ・ハイルマン(テノール
ジル・カシュマイユ(バス)
アーノルト・シェーンベルク合唱団(合唱指揮:エルヴィン・オルトナー)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
(Teldec WPCS-6493)



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