東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、アルフレッド・ブレンデルとクリーヴランド弦楽四重奏団の演奏によるシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」を収録したアルバムをご紹介します。
シューベルトの「ます」というと、二つあります。一つは声楽曲、そしてもう一つがその声楽曲を編曲した楽章を持つピアノ五重奏曲です。勿論今回はピアノ五重奏曲のほうということになります。
声楽王シューベルトらしい、歌謡性と明るさを持つピアノ五重奏曲「ます」。それだけにどれだけ歌えるのかがポイントになるかと思うのですが・・・・・
以前「マイ・コレクション」でブレンデルとソリストたちによる「ます」の演奏をご紹介しています。ですので弦楽四重奏団とのセッションではどんな演奏になるのかが興味があり借りてきたのですが、ちょっと残念に思う演奏です。それは、歌うことにフォーカスしすぎていることで、作品が持つ生命力が失われているように感じることなのです。
弦に力づよさはあるのですが、ピアノに負けてしまっているように聴こえます。もっと言えば、ピアノばかりが目立っていて、弦楽四重奏団が貧弱に聴こえるんです。
音量を大きくすれば弦楽四重奏もしっかり聴こえますが、さらにピアノが目立って聞こえてしまうんです。全体的に録音バランスが悪いものとなっています。演奏自体はそれほど悪いわけではないにも関わらず、とてもネガティヴに聴こえるんです。
それもまた解釈なんでしょうが、しかし「ます」は一体どんな作品なんでしょうか?ネットで検索してみましょう。
ウィキを見てみますと、シューベルト若き日の作品ではありますが、むしろ当時貧弱だったピアノを弦楽四重奏と同じだけの役割りを与えていると判断することができるかと思います。そうなると、むしろピアノだけ目立つというのはむしろ作曲者が意図したものではないはずです。弦楽四重奏とピアノが対等であるという、ベートーヴェンが提唱した延長線上にある作品だと言っていいでしょう。
しかしその特色が、歌謡性というシューベルトの作品が持つ特徴でわかりづらくなっていることは否めないでしょう。ですが演奏しているのはアマチュアではなくプロなんです。そこはしっかりとしたスコアリーディングで音楽を作り上げていく必要があるのではと思います。
第3楽章スケルツォではできている部分もあるので、コミュニケーション不足だったのかなあという気がしないでもないです。さらに、調べてみるとこの演奏におけるクリーヴランド弦楽四重奏団のメンバーはいつもと異なっています。本来のメンバーはウィキでは以下のようになっています。
●第1ヴァイオリン:ドナルド・ワイラースタイン、
●第2ヴァイオリン:ピーター・セイラフ(ザラフ)、
●ヴィオラ:マーサ・ストロンギン・カッツ、
●チェロ:ポール・カッツ。
しかし、この演奏では第2ヴァイオリンのセイラフがおらず、代わりにコントラバスとしてデマークが入っています。そのあたりに演奏における貧弱さを求めることができるような気がします。しかしそれはプロとしては理由になりませんけれど。
むしろそのデマークのコントラバスは存在感があり、ブレンデルのピアノと対等に渡り合っています。どんな感じで録音が行われたかが明確ではないので断言はできませんが、初めはヴァイオリンが一人なので臆していたのが、だんだん調子が出てきたという印象がぬぐえません。
これが初めからワイラースタインが全開だったら、本当に素晴らしい演奏だったのになあと思うと、残念です。まだ脂が乗っている結成26年で解散したというのは、そのあたりに理由が求められそうです。ブレンデルはつい最近まで活躍していたのとは対照的。
その意味では、私は最初になんと素晴らしい演奏に出会ってしまったんだろうと思います。「マイ・コレクション」でご紹介した演奏は実ははじめこの演奏より弦楽四重奏団が演奏するものが欲しいなあと思っていましたが、こうやって実際に弦楽四重奏団とのセッションを聴いていると、むしろ「ます」はソリストが集まった方が素晴らしい演奏になるのでは?という気すらしており、自分の不満を恥じるばかりです。
聴いている音源
フランツ・シューベルト作曲
ピアノ五重奏曲イ長調作品114D.667「ます」
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
クリ―ヴランド弦楽四重奏団
ドナルド・ワイラースタイン(ヴァイオリン)
マルタ・ストロギン・カッツ(ヴィオラ)
パウル・カッツ(チェロ)
ジェイムズ・ヴァン・デマーク(コントラバス)
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