かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:天満敦子 夢のあとにApres un Reve

東京の図書館から、府中市立図書館のライブラリから、事実上の3回シリーズで天満敦子のアルバムをご紹介していますが、最終第3回の今回は、「夢のあとにApres un Reve」を取り上げます。

「心の歌」という副題もついているこのアルバム、いつもの通り収録曲は最後に挙げておきますのでそちらを参照していただきたいのですが、確かに私たちがよく知っているクラシックの小品が並んでいるように見えます。特にタイトルになっているフォーレの「夢の後に」は心の琴線を揺らします。

しかし、これまでの天満さんの選択を見ている限り、そんな単純ではないと断言したいのです。よく収録曲を見てみると、ところどころ民謡を原曲とする作品が散見され、そのうえでバッハなどの作品も並んでいます。これは何を意味するのか?

そんな意味はない、と切って捨てたり、考えなくても十分楽しめるアルバムだと思いますが、しかし最後はこのアルバムに関してはタイトルになっている作品ではなくラフマニノフの「ヴォーカリーズ」です。得意なツィゴイネルワイゼンは前半に収録されています。そのうえでで、です。

収録曲をよく見てみると、間宮芳生の「二つの鹿児島民謡」が中間にきています。そうなると、このアルバムにはかなりメッセージが込められていると考えたいと思います。

特色としては、以下の3つになるかと思います。

①バッハ以来のクラシック音楽の伝統
②19世紀末~20世紀にかけて勃興した民謡採集運動
③バッハの鏡像カンタータ

①バッハ以来のクラシック音楽の伝統
私たちが馴染み深い作品はほぼバッハ以来の伝統に則した作品だと言えるでしょう。

②19世紀末~20世紀にかけて勃興した民謡採集運動
3曲目の「チャールダーシュ」、5曲目の「ツィゴイネルワイゼン」、6曲目の「二つの鹿児島民謡」、11曲目の「バスク瞑想曲(CDDBでは「奇想曲」と引っ張ってきておりそちらのほうが適切かと)」、そして12曲目の「古謡」がそれにあたります。特に間宮の「二つの鹿児島民謡」はそれぞれ実際に鹿児島にある民謡であり間宮が採集したものになります。特に「ちらん節」は間宮によって合唱曲にもなっています。

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③バッハの鏡像カンタータ
2つを踏まえて、収録曲のほぼ中間に位置しているのが間宮の「二つの鹿児島民謡」。そしてそれをはさむように前半と後半に分かれています。きちんとした鏡像ではないんですがこの間宮の作品を真ん中に持ってくることにより、バッハの鏡像カンタータのような役割を果たし、隠されたメッセージを秘めることにつながっています。

実は、ピアニストの有馬志享(しきょう)は鹿児島出身なのです。そうなると、タイトル「夢のあとに」は二つの意味を持つことになります。一つは客寄せパンダ、そしてもう一つは民謡という私たちの心のふるさとがまるで「夢のあと」のような意味を持つ、ということです。

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いろんな「夢のあと」が、ここには収録されている・・・・・聞き手はどの夢を見たのですか?という問いかけもありますし、様々な受け取り方を提案している、と言えるでしょう。天満さんと有馬氏には明快なメッセージがあるけれど、その受け取り方は皆様に任せましょう、というような。

特に間宮の「二つの鹿児島民謡」は、意外と我が国保守が忘れている視点です。その意味ではこのアルバムには天満さんがヨーロッパで得た知見がぎっしり詰まっていると考えていいでしょう。ある意味、我が国の聴衆に対する静かなアンチなのです。そしてそのアンチを納得させてしまう・・・・・この説得力、やはりプロならではと言えるでしょう。

こう見てくると、3つの天満敦子さんのアルバムをなぜ府中市立図書館がそろえたのかが、おぼろげながら見えてきます。そしてそこには、府中市立図書館の司書さんの意図が、明確に示されていると思うのは私だけなのでしょうか。さすがいい仕事を司書さんしているなと思います。鹿児島のどこぞの図書館のように法律に定められた役割を放棄して単に流行に走ってしまったのとは、正反対のまさにブレない仕事をしています。最大の評価をしたいと思います。

 


聴いている音源
天満敦子 夢のあとにApres un Reve 心の歌
イントラーダ(導入曲、デュプラーヌ)
タイスの瞑想曲(マスネ)
チャルダッシュ(モンティ)
ニグン(パール・シュム組曲より、ブロッホ
ツィゴイネルワイゼンサラサーテ
間宮芳生作曲
二つの鹿児島民謡
 ちらん節(知覧郡)
 草切節(種子島
ブニャーニの様式による前奏曲アレグロ(ブニャーニ/クライスラー編)
G線上のアリアヨハン・セバスティアン・バッハ
ラルゴ(ヴェラチーニ)
バスク瞑想曲(サラサーテ
古謡(竹内邦光)
夢のあとに(フォーレ
ヴォカリーズ(ラフマニノフ
天満敦子(ヴァイオリン)
有馬志享(しきょう)(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。