かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:バルトークとシェーンベルクの作品をピアノで

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、バルトークの「中国の不思議な役人」とシェーンベルクの室内交響曲第1番を、それぞれピアノで演奏したアルバムをご紹介します。

第1曲目に収録されているバルトークの「中国の不思議な役人」は、結構勘違いして知られている作品ではないでしょうか。どんなジャンルの作品だと皆さん思っていらっしゃいますか?あったりまえでしょ!バレエです!私も踊りましたから!という人も少なくないかもしれませんが、そればブッブー!です。

正解は、パントマイムなのです。

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もちろん、一度はバレエとして上演されていますので決して間違いではないんですが、そもそもはパントマイムのための作品なんです。いろんな解釈がこの作品には存在しますが、パントマイムとなると、これは強烈な社会への風刺、あるいは批判ととるべきだと私は思います。

ヨーロッパにおいて、日本人以上にわけわからず、下手すれば気持ち悪く感じられていたのが、中国人だと言えるでしょう。ですがバルトークがこの作品を作曲した時代、すでに辛亥革命が起こった後です。

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つまり、ここでいう「中国の不思議な役人」とは、清王朝の役人を指しています。ですがそれは中国批判として描かれるのではなく、むしろ当時のヨーロッパにおける中国人差別に対するアンチと考えるのが、作品の内容からは自然でしょう。そしてもう一つのアンチ、それは女性を性の道具として使い、奴隷的に扱っていた男性たちに対するアンチでもあると言えるでしょう。

そのテクストに合うためにはバレエでは不足で、パントマイムを選択したのだと思います。

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差別をしていることを面白おかしく見せることで、如何に差別がおかしいことなのかを考えさせる・・・・・バルトークはよく考えたものだと思います。そうなるとこの作品をバルトークがバレエとして上演することに難色を示したことが腑に落ちます。

だからこそなのか、実は初演は4手ピアノで演奏されています。勿論バルトークはそもそもはオーケストラの伴奏で書いているのですが、初演があえて4手ピアノのためであるという点にも、この作品によってバルトークがいかに異議申し立てをしたかったがわかるのです。

そもそも、管弦楽作品をピアノ版へ編曲するという場合、それは広く聴いてほしいという古典派いらいの伝統があります。下手すればオーケストラを用意できない場合もあるからです。そのためバルトークもいち早く作品を知ってほしくて、4手ピアノ版の編曲を手掛け、それによりとりあえず聞いてもらうという選択をしたのだと思います。このアルバムが4手ピアノ版を選択しているというのには、そのような経緯が踏まえられていると考えていいでしょう。

2曲目のシェーンベルクの室内交響曲第1番も、シェーンベルクの意欲作で、初演時には物議を醸しだした問題作です。しかしマーラーが支持したことから、日の目を見たと言えるでしょう。ですが物議を醸しだしたがゆえに、やはりより多くの人に聴いて判断してほしいという意味合いがあって、この作品もピアノ版が存在するのだと私は判断しています。

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この演奏は、実はロケーションがハンガリーのブタペスト市庁舎というのがミソだと私は思っています。バルトークの「中国の不思議な役人」はハンガリーでは上演禁止となり、なかなか演奏されなかった作品です。その作品を、広く聴いてほしいという4手ピアノ版で、上演禁止となったハンガリーはブタペストの、しかも権力の象徴の一つでもある市庁舎で演奏するということは、いろんな意味でのアンチであると考えます。そして同じようにアンチの意味があるシェーンベルクも・・・・・

おどろおどろしい「中国の不思議な役人」も、そしてシェーンベルクの室内交響曲第1番も、それぞれブタペストという都市において、アンチの意味合いを持つと言える作品だと言えるでしょう。とはいえ、折角の演奏機会を存分に活かそうと、自然体で臨む演奏は逆にヨーロッパにおける様々な抑圧の歴史を思い起こさせるのに十分で、私にとっては胸に突き刺さるような印象すら受けます。できればどちらも、オーケストラ版を聴いてみたいと思わせる、自然体かつ意欲的な演奏に感じられます。じわじわと感動が魂を貫いていく、素晴らしい演奏です。ぜひとも多摩地域に方には借りてほしい一枚です。

明日は、日本人の私たちだって、差別され抑圧されるかもしれないのです・・・・・

 


聴いている音源
バルトーク・ベラ作曲、編曲
パントマイム「中国の不思議な役人」作品19Sz.73(全曲)
アーノルト・シェーンベルク作曲・編曲
室内交響曲第1番作品9
ゾルターン・コチシュ(ピアノ)
エードリアン・ハウザー(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。