かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:早坂文雄 交響詩「ユーカラ」

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリをご紹介します。早坂文雄が作曲した交響詩ユーカラ」を収録したアルバムをご紹介します。

早坂文雄も、ナクソスの「日本作曲家撰集」シリーズで取り上げられている作曲家の一人で、以前からその作品が聴きたいなと思い続けてきた作曲家です。民族派と言いますが、いわゆる今どきの極右とは異なる、真に日本の風俗や文化を真正面から向き合い、作品を紡いだ作曲家だといえるでしょう。

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ウィキを見てみれば、チェレプニン派なので、納得です。こういった作曲家に対して冷遇してきたのは決してリベラルだけではありません。むしろ〇〇会議など、極右界隈もずっと冷遇し続けてきています。つまり、日本の多くのクラシックファンである、と言っていいでしょう。FBなどで、早坂文雄だとか黛だとかがいつ出てきたでしょうか?某議員の言葉「恥を知りなさい」は〇〇会議の皆様にそのままお返ししたく存じます。

さて、そんな早坂がずっと作曲したかった題材がアイヌの伝説だったようで、このアルバムに収録されている「ユーカラ」とは、アイヌの青年英雄の叙事詩が題材となっています。

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アイヌの伝説が残ってきた「口伝」という方法は、古代では世界的に普通の形でした。おそらく、日本神話の元となったものも、口伝だったはずで、それを国家方針としてまとめたのが日本書紀であり、幾分国家色がないのが古事記です。この二つは歴史書と位置付けられますが一方で、口伝されてきた神話を文字に起こしたものだともいえます(特に古事記は)。

そんな古い形態として紡がれてきた「ユーカラ」。それを早坂が組曲(私は事実上の連作交響詩だと思っていますが)にしたいと思ったのには、多分に後期ロマン派における交響詩が念頭にあったはずです。そのイメージから出発し、あくまでもチェレプニン派の一人として創作したのがこの「ユーカラ」だといえるでしょう。それは早坂が語った以下のことから明確でしょう。

「原詩は叙事であるが、音楽は描写的な叙事をせず、これを直観的に抽象化し、形而上の世界のものとすること...」
管弦楽法は、従来の西洋の伝統である肉付を主とした常識的な手法を避け、〈線〉と〈点〉を主とした東洋的感覚によった手法を意図した...」

神々の住む世界を、まるでドビュッシーの「沈める寺」を東洋的感覚で描いているような感じ。それがこの「ユーカラ」だと思います。

ですから、和声的には不協和音全開。ですが、それが全く気持ちよく、違和感ないんです。それは早坂が目指した「東洋的感覚」がしっかり作品として結実しているからであろう、と思います。

それを演奏しているのが、日本フィルなのですが、指揮がなんと!山田一雄、なのですよ、ええ。第九など西洋音楽のタクトを私たちはずっと聴いてきていますが、この「ユーカラ」でもそのタクトはさえわたっています。不協和音多用のこの作品を、実に冷静かつ情熱的にオケを鳴らし、むしろ叙事ではないのにどこかに物語がありそうに聴こえるんです。神々の生命力、というか・・・・・

本来、「ユーカラ」は叙事詩であり、その主人公は青年の英雄です。つまりは英雄譚。ですが、むしろワーグナー巨人族のような、神々の人懐っこさも存分にあるのです。スメタナの「わが祖国」のような物語性がないのに、そこには物語が自然と浮かび上がる・・・・・それは、聴き手の脳内妄想にゆだねられているという、民族派の作品でありながらも、じつはとてもリベラルな部分も内包されているという事実を浮かび上がらせる・・・・・実に素晴らしい演奏です。

もちろん、細部を言えばいろいろありますが、それは我が国では何故か自国の作曲家の作品をコンサートピースに乗せないということを長年やってきているため、演奏例が少ないためだと思います。もっと演奏される機会が増えて、さらに深い譜読みをする指揮者が現れれば状況は一変します。「ヤマカズ」さんに続くのは一体どなたでしょう?おなじ「ヤマカズ」さんなのかな?とも思いますが、さて。今でもこの演奏は色あせないメッセージを豊富に内包しているように、私には聴こえるのですが・・・・・

 


聴いている音源
早坂文雄作曲
交響的組曲ユーカラ
山田一雄指揮
日本フィルハーモニー交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。