かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:サティ ピアノ・ソロ作品全集2

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、だいぶお久しぶりでシリーズのサティが作曲したピアノ・ソロ作品全集の第2集を取り上げます。

この第2集には、「若いころの作品、ばら十字教団、カアフェコンセールとミュージックホールの作品」が収録されています。とは言えなんのこっちゃと思いますよねえ。サティ、名前は知っているけれど・・・・・という人、多いんじゃありませんか?意外と近くに合ったりもするんですけれど、サティの音楽は。

特に、「カアフェコンセールとミュージックホール」のために作曲された作品は親しみやすく、サティの音楽の根幹をなすものの一つでもあります。サティはクラシック音楽を再びバロック同様BGMに戻そうと資力した人でもあります。しかもそのクオリティの高さを追求した人でもあります。

当時クラシック音楽に必要だった様々な素養をフル活用して、人々が楽しめる音楽を、自らの芸術として引き受けた人、それがサティだといえます。だからこそ彼はむしろ質の高いBGMを創ることをいとわず、庶民目線を常に忘れない人でもありました。

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サティの音楽には休符が多用されているとはよく言われるのですが、かといって休符が特徴ではありません。音がない、ということを厭わなかった人という意味では異端児ですが、それは彼の西洋音楽に対する批判精神の一部でしかありません。サティの音楽はバロックに範をとりますが決してバロックではなくむしろそのあとの時代の象徴主義印象派という、新しい和声を追求する音楽運動につながっていくものです。音楽の性質は似ていても、和声は全く異なるものです。サティの音楽は個性的ですが、その個性が二つの音楽運動を生んでいく、ということになります。一つは象徴主義、そしてそこから出る新古典主義音楽。そしてもう一つは印象派です。

サティの個性的な音楽は、その二つの運動の種ともいうべきものです。そのうえで本人は名誉にこだわらず、あえて音楽が「そこにあればいい」ということを大切にした人です。サティの教養だとか哲学性とかが賛美されることも多いのですが、彼の音楽の根幹は「別に崇められなくてもいい、そこにあればいい」というもの。親しんでもらえればという意思にあふれています。

だからこそ、たとえば「ジュ・トゥ・ヴ」などは20世紀後半には日本でCMで使われます。これはサティの精神をよく受け継いだものでもありました。私は当時おしゃれだとは思ったのですがバリバリベートーヴェンしか聴いていない時期。サティの音楽の良さなんて、全く気付かずに青春時代を過ごしてしまったのは、今となっては本当にもったいないなあと思います。今だったら女の子の一人や二人・・・・・いや、そんなに美男子ではありませんけどね、決して・・・・・

でも、こういったおしゃれな音楽に興味を持つ女性は結構いらっしゃるわけですし。ですから本当にサティの音楽をもっと聴いていられるだけの余裕があったなら、女性ともっと親交があったかもしれないと、本当に残念なんですよねえ・・・・・まあ、仕方ありませんけど。今となってはもううん十歳のお〇さんですからねえ・・・・・

でも、サティに触れた当時、本心で私はサティの音楽を軽蔑していたと白状します。しかしそれは間違いでした。彼の音楽はBGMを目指したとはいえ、その「BGMであること」に魂をつぎ込んだわけなのです。そこを理解できなかったし、素直に楽しめませんでした。

この全集を借りるとなって初めてサティの音楽の全体像が分かり、本当に私はバカだったとしか思えないんです。おかしな題名に隠されたレトリック。それを「ただ音楽としてあるものを楽しみつつ思考する」というサティの高等芸術。どこまで聴いても見事としか言いようがありません。

それをとつとつと、朴訥に弾くのがティボーデ。この第2集でさらにその芸術性が露になったような気がします。サティの作品が軽薄だなんて、本当なの?と次々と問いかけてきます。音が長いのがサティの特徴だって?本当に?(ニヤリ)だとか、次々に繰り出すその事例に、こちらは「まいりました~」と水戸黄門よろしく演奏という「印籠」にひれ伏すしかないのです。そう、ティボーデはまるで助さん格さん。サティの音楽が黄門さま。庶民とともにある音楽をサティは目指しましたけれど、もうティボーデの演奏からは私がお悪るうございました!というしかありません。何を血迷った思考をしていたんだろう、何を一面だけで判断していたんだろう、と。

だからこそ、サティのような普段聴いてこなかった作曲家の作品こそ、全集で俯瞰するのがいいんです。この「参りました」感がなぜかティボーデのピアノだと心地いい。こういう演奏こそ、プロの仕事。もう一度言います、参りました!降参です、許してください(いい加減演奏を止めればいいじゃんと影の声)

 


聴いている音源
エリック・サティ作曲
アレグロ(1884)
ワルツ=バレエ(1885)
幻想曲=ワルツ(1885)
若い令嬢のためにノルマンディの騎士によって催された祝宴(1889?)
4つのオシーブ(1889)
ばら十字教団の最初の思想(1891)
「至高存在」のライトモティーフ(1891)
ばら十字教団の鐘の音(1892)
ゴチック舞曲(わが魂の最も大いなる静けさと堅固なる平穏のための9日間の祈祷)
ヴェクサシオン(1893)
モデレ(1893)
世俗的で豪華な唱句(1900)
ジュ・トゥ・ヴ(1897)
やさしく(1902)
金粉(1902)
エンパイア劇場の歌姫(1904)
ピカデリー(1904)
カルフォニアの伝説(1905)
風変わりな美女(1920)

ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。