神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回と次回の2回で、ロッシーニの「弦楽のためのソナタ」を中心に収録したアルバムをご紹介します。
ロッシーニと言えば、言わずと知れた古典派のもう一人の大家です。ベートーヴェンが貶める発言をしていることから日本ではいまいちの認知度だと思うんです。これは以前ロッシーニの宗教曲をとりあげた時にも付言しているとは思いますが・・・・・
古典派、というよりは古典派から前期ロマン派における、というほうが正しいのだろうと思います。とはいえ、彼の有名な作品は古典派の様式から大きくはみ出すものではないので・・・・・とはいえ、ロッシーニは年齢的にベートーヴェンよりも15歳ほど若いので、当然ですがベートーヴェンや前期ロマン派のほかの作曲家たちの影響を強く受けています。
だからこそ、オペラの様式は古いのですが、宗教曲をコンサートピースとして作曲するというのはロマン派的という、スタンダールの言葉を借りて私的に表現すれば「遅れてきたベートーヴェン」とも言えなくもないのです(ただ、その音楽はかなり正反対ですが)。
そんなロッシーニの、弦楽のための「ソナタ」、なんです。ソナタと言えば通常は、ピアノ以外はピアノとほかの独奏楽器の二重奏によるソナタ形式を持つ多楽章作品のことを指しますが、ここにはピアノはありません。むしろ、この作品は「弦楽セレナーデ」です。実は編集方針もこの作品を弦楽セレナーデとして扱うことで統一されており、この1枚目のカップリングはヴォルフの「イタリアのセレナード」(イタリア風セレナーデとも言われます)です。
諧謔的な要素もあって楽しい第1番、壮麗さも備える第3番など、聴いていて飽きないものばかり。いや、こんなの精神性が・・・・・って、待って。人間の精神って、それほど高いものですか?
低い点もあるからこそ、ベートーヴェンは高みを目指したわけです。一方ロッシーニは、人間の喜怒哀楽こそ精神性だ、と言わんばかりの作品を数多く残しました。おふざけなものから極めてまじめなものまで。だからこそ各地で熱狂で迎えられたのでしょうから。それはベートーヴェンはひがむでしょうけれど、それはベートーヴェンの問題であって、ロッシーニの作品の問題ではありません。そもそも、私としてはベートーヴェンは極めて人間的なので楽聖とは位置付けたくないですし、典型的なAC(アダルト・チルドレン)ですしね。その「生きづらさ」から私たちを勇気づける作品を紡いだ作曲家だと思っています。私もそこに感動するのです。
一方、ロッシーニはとことん楽しい!そしてその楽しさには、喜びも内包され、よく聴けばとても高い精神性を持っていることに気が付かされます。この「弦楽のためのソナタ」においてもそれは同様です。現代に生きる私たちは、ベートーヴェンの言葉にとらわれる必要などなく、もっと自由に二人の作品の精神性を楽しみ、味わうほうが人生は豊かだと思います。
ヴォルフの作品はロマン派の香りがするものですが、ロッシーニよりはまじめな雰囲気漂う作品。けれども、それがロッシーニと何ら対抗せず自然なのが印象的です。
そんな二つを演奏するのは、イ・ムジチです。コンサートマスターが誰なのかまでは記載がないのでわかりませんが、録音年代を見るとカルミレッリではないみたい。いずれにしても、室内オケの自在さが存分に発揮されている生命力ある演奏は、ロッシーニの作品が持つ「人間賛歌」を存分に歌い上げていますし、またヴォルフの作品の自然体であることも浮かび上がっており、さすがプロであるなあと思います。できればこういった作品が、ソーシャル・ディスタンスの実験として、コンサートピースに上がってくれると嬉しいのですが・・・・・そうすれば、ある程度落ち着いた状況でコンサートが復活できる可能性を秘めている、と私は思うのですが・・・・・
オケの各楽器の距離は、楽器の性能等様々な総合観点から今に至ったものです。ですから、いまよりさらに距離を取ることが果たしていいことなのかは正直わかりません。けれども一度やってみる価値はあります。そこからのトライアンドエラーから、ワクチンができるまで何が演奏できるのかが浮かび上がるような気がするのです。そしてそれは、これからも人類が種として存在する限り、経験としてデータベース化されるものだと確信しています。
聴いている音源
ジョアッキーノ・ロッシーニ作曲
弦楽のためのソナタ集
第1番ト長調
第2番イ長調
第3番ハ長調
第4番変ロ長調
第5番変ホ長調
フーゴ・ヴォルフ作曲
イタリアのセレナード ト長調
イ・ムジチ合奏団
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