令和2年、2020年初の神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーは、日本の現代音楽作曲家、一柳慧の協奏曲集を取り上げることから始めます。
今年最初のエントリでもあるこのエントリが一柳というのも、面白いことだなあと思っています。以前、一柳を取り上げていますが、その時はほかの作曲家の作品が混じっている中でだったと思います。
今回はそうではなく、一柳の作品のみ、しかも協奏曲を集めたアルバムということになります。しかもこのアルバム、それぞれの世界初演を収録したものでもあります。
もう一度、一柳をご紹介しておきましょう。神戸生まれの一柳は、その環境から様々な音楽を吸収しており、単に現代音楽と言っても、その顔は様々なです。
例えば、このアルバムの作品たちで説明すれば、まず第1曲目の「ピアノ協奏曲第4番」は「JAZZ」と名付けられた作品で、初演はジャズピアニストである山下洋輔が担当しました。ジャジーというよりはむしろジャズと現代音楽の融合的な作品で、山下がクラシック作品では得意とするガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」ほどのジャジーな感じはありません。むしろそのジャズ的な部分を多分に現代音楽として表現したというほうが正しいだろうと思います。ゆえに、不協和音バリバリなのですが、意外にノれる!横浜開港150周年を記念しての作品ですが、その不思議な世界は、一度聴きますと魅了されます。
第2曲目の「ピアノ協奏曲第5番」は「フィンランド~左手のための」と題されています。まるでラヴェルのようですが、じつは委嘱したのはピアニストの館野泉。2012年の作品ですから、すでに館野氏が左手だけで活動している時期なんです。そして館野氏の活動の本拠がフィンランドであり、一柳もフィンランドとかかわりがあることから名づけられました。が、私にはこの曲、多分にシベリウスの影響が強いんじゃないかという気がするんです。第1楽章が暗く重く始まるのですが、だんだん明快な音色になっていく様子は、まさにフィンランドの苦難の歴史と、館野氏の苦労とが重なっているかのように聴こえるんです。
最後の「マリンバ協奏曲」はマリンバ奏者の種谷睦子による委嘱作品。マリンバの固い音が心地いい!固い音はともすればいやな音になりがちなのですが、マリンバだとそれな不思議とないんです。まるでマリンバの美しさを掬い取ったかのような作品は、絶品!
演奏するは、かつて私が初めて第九を歌った時に指揮してくださいました藤岡幸夫氏。オケは関西フィル。一柳が神戸出身だということでの縁なのかもしれませんが、「ピアノ協奏曲第4番」は神戸ではなく横浜開港150周年記念なのですが・・・・・ですが、神戸と横浜の共通点と言えば、狭い平野部と迫る山、そして同じ海外貿易港として真っ先に新しいものが入ってくるというモダニズムだと思います。そんなモダニズムを一柳的に詰め込んだ作品を、オケもかなり張り切って演奏しているのがわかります。またマリンバ協奏曲では、マリンバと金管のなんと美しいこと!響きあい溶け合うことで、一つの幽玄な世界すら表現しているのは、素晴らしいことです。
関西フィルは、大フィルに隠れてあまり有名ではない側面もありますがかなり堅実なオケだと、聴く範囲では思います。特にこの3曲は藤岡「さん」が振っているので、こりゃあ、ロケンローするな~と思いつつ聴いています。藤岡幸夫という指揮者だからこその、作品の魅力が引き出されたのかもしれません。
いずれにしても、一柳慧も、優れた作品ぞろい。御年80を超えていますが、これからも目が離せない作曲家ですし、また、関西フィルも、関西の方は見逃せないと思いますよ!
聴いている音源
一柳 慧作曲
ピアノ協奏曲第4番「JAZZ」(2009)
ピアノ協奏曲第5番「フィンランド」~左手のための(2012)
マリンバ協奏曲(2012)
山下洋輔(ピアノ)
舘野泉(ピアノ)
種谷睦子(マリンバ)
藤岡幸夫指揮
関西フィルハーモニー管弦楽団
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