神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はサー・マイケル・ティペットの管弦楽作品集を紹介します。
そもそも、ティペットですが、我が国のクラシックシーンで演奏されることは少ないように思いますが、母国英国では実に有名で高名な作曲家です。
マイケル・ティペット
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%9A%E3%83%83%E3%83%88
シンフォニストでもあり、さらには多作家でもあるティペットは、合唱指揮者としても優れています。そんなティペットの、まずは管弦楽作品を聴いてみようというのが、このディスクを借りたきっかけでした。聴いたことがない作曲家でしたし。
いや、本来は優れた合唱指揮者であるからこそ、合唱作品を聴いてみたいと思うわけなんですが、そもそも、我が国でそれほど有名とは言えないティペットですから、さすがの県立図書館であっても、それほどライブラリが多いとはいい難いのが実情です。ですから、すでにある管弦楽作品のものを聴こうと思ったわけなのです。
管弦楽というよりは、このアルバムはむしろ「弦楽作品集」と言ったほうがいいと思います。第1曲の「2つの弦楽オーケストラのための協奏曲」はまさに弦楽オーケストラのための作品で、古典派的な和声の上で様式的には合奏協奏曲である作品です。
第2曲めの「コレルリの主題による協奏的幻想曲」もそうです。引用がコレルリですからバロックですが、基本和声的な作品ですのでむしろ古典派以降の和声が反映されています。
一方で最後の歌劇「真夏の結婚」から典礼の踊りでは、和声が20世紀的になっており、ティペットという作曲家の位置づけが何であるのかが明確になっています。あくまでも現代イギリスの作曲家なのです。けれども、イギリスというお国柄、大陸よりは不協和音を多用してはいないんです。では保守的なのかと言えば、ブリテンなどと交流があった人ですからむしろラディカルな人。革新的なスタンスだったと言えるでしょう。そのうえで、伝統はしっかり踏まえる。そこに魅力があるんですが・・・・・
我が国ではむしろ、保守的な人たちからは個性がないとされ、リベラルな人たちからは自己主張のない体制迎合派とされ、ともに蔑んでいるのがとても残念です。ティペットはティペットが生きたいように生きたわけですし、書きたいように書いただけです。体制に迎合的であれば良心的兵役拒否などしないはずです。自分の表現のためにはあらゆるものを吸収したかっただけです。誰かに着いてそのスタイルでというのでは壁が突破できなかったからこそ、ティペットは25歳になって再び王立音楽大学の門戸を叩いたのですから。そんなことができる作曲家などほとんどいません。ともすれば恥、ですから。けれどもティペットはそんなことお構いなしに、自分の個性のために再入学したのです。
最後の「真夏の結婚」では管楽器も入り、まさに管弦楽作品集というにふさわしい内容になりますが、「音楽は魂の喜びを感じるもの」という私の視点にピッタリあう作品だとも言えます。もちろん、第九のように泣くかと言えばそうではありませんが、それでも、私自身の魂にどこか郷愁や癒やしを与えてくれる、優れた作品だと言えます。
そんな作品たちを振るのがアンドリュー・デイヴィス。オケはBBC響。このオケ、日本ではあまり聴かれることのないオケなんですよね。けれども実にステディな演奏をしますし、チャイコフスキーの交響曲全集では情熱的な優れた演奏も残しているオケなんです。イギリスと言えばロンドン響やロンドン・フィルが圧倒的に有名なんですが、それだけではないんです。ロンドンだけが音楽が盛んでもないわけですし。エディンバラの音楽祭もありますし、イギリスは音楽が盛んな国だと言えるでしょう。だからこそクラシックだけではなく、反体制の音楽、例えばセックス・ピストルズなども出るわけなんです。ビートルズはもう当然ですし、ユーロ・ビートといえば基本イギリスを指します。それはクラシック音楽が育んだものでもあるわけで、イギリスの反体制の音楽はそういった歴史や伝統を踏まえた上での批判となっているわけなんです。
そういった音楽の「芳醇さ」に目を向ける人が意外と少ないんですよねえ。この演奏もステディな割には生き生きとしており、国営放送だからといってだめだとは必ずしも言えない典型だといえます。N響を批判する人たちにはぜひとも聴いて欲しい演奏だなあと思います。その批判、本当に正しいの?と反芻することになるのでは?と思います。
聴いている音源
サー・マイケル・ティペット作曲
2つの弦楽オーケストラのための協奏曲
コレルリの主題による協奏的幻想曲
歌劇「真夏の結婚」から典礼の踊り
アンドリュー・デイヴィス指揮
BBC交響楽団
BBC交響合唱団
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