東京の図書館から、小金井市立図書館のライブラリを御紹介しています。今回はヒンデミットの管弦楽作品集をご紹介します。
恐らく、当ブログでは初登場になる、ヒンデミット。学校の音楽鑑賞の時間でも殆ど取り上げられることはない作曲家なので、名前は聞いたことはあるけれど・・・・・って作曲家ではないでしょうか。
ヒンデミットは20世紀ドイツの作曲家です。最も有名な作品はオペラ「画家マティス」ですが、世界史を選択した人であれば、退廃音楽指定されてしまった作曲家としてご存知かもしれません。
パウル・ヒンデミット
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88
ウィキを見ますと、実に多作家だったことが分かります。当時のドイツを代表する作曲家と言ってもいいのではないでしょうか。しかし、ナチスに協力しなかったと言うだけで、ヒンデミットの音楽は退廃音楽という烙印を押され、戦時中は演奏を禁じられました。
退廃音楽
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%80%E5%BB%83%E9%9F%B3%E6%A5%BD
この退廃音楽の項目を読んで、どこかの国と一緒だなって思った人、いますよね。私達の国のお隣もそうですし、今や日本も同様になりつつあります。そんな中で、ヒンデミットを採り上げる価値は、今まさに上がっていると言っていいでしょう。
ヒンデミットもご多分に漏れず、亡命した一人でした。ただ純粋な20世紀音楽の推進者だったと思いますが、芸術に興味がないとこのようになってしまうという典型だと思います。できれば、為政者は音楽でなくてもいいので芸術に興味がある人がトップに座ってほしいものです。
ヒンデミットはそんな人生の中で、祖国や亡命先で自分の音楽を紡ぎだしていきました。このアルバムは、ヒンデミットの亡命時代とドイツにいた時代の作品とを収録していますが、ヒンデミットという作曲家の才能の豊かさと、私達がヒンデミットに抱くイメージをいい意味でぶち壊してくれる作品が並んでいます。
まず第1曲の「ウェーバーの主題による交響的変容」は、まさにいい意味で私たちのヒンデミットという作曲家のイメージをぶち壊してくれる作品です。アメリカ亡命時代の1943年に作曲され、もともとがロマン派の作曲家ウェーバーの作品から主題を取っているため、旋律線がはっきりしている作品ですが、和声がロマン派だったり20世紀的だったりと、ヒンデミットの個性が存分に発揮されている作品です。
ウェーバーの主題による交響的変容
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%81%AE%E4%B8%BB%E9%A1%8C%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E7%9A%84%E5%A4%89%E5%AE%B9
ある意味、とてもヒンデミットらしい作品だと言えます。なぜなら、ヒンデミット自身はロマン派からの脱却を図った作曲家です。そのヒンデミットが、主題としてはロマン派の作曲家の作品を選んだわけですから。でも、かれは自身の「新即物主義」を、主題こそロマン派ですが、展開して行った作品なのです。
その上で、この作品は4楽章それぞれが変奏曲となっています。それは決してクラシックの伝統から外れるものではありません。ですから、この作品はヒンテミットらしさが詰まっている作品だと言えるでしょう。要するに、ロマン派というのはある意味耽溺とも言えますから、その耽溺から脱却する音楽とは何ぞや?ということを明確に表現したと言えるでしょう。
2曲目が「気高き理想」。同名のバレエ音楽をまとめたものですが、特徴的なのが第3楽章の「パッサカリア」です。バッハの対位法を好んだヒンテミットらしい作品だと、これも言えるでしょう。ただ、パッサカリア自体は舞曲なので、バレエであまり出てこないだけで組曲に入っていること自体はおかしなことではないのです。このあたりに、私達が20世紀と言うとついシェーンベルクなどの12音階や無調を想像してしまうんですが、20世紀音楽とはその無調とも距離を置く作曲家もたくさんいた時代なのです。ですので私は一派ひとからげで言う場合「20世紀音楽」という言い方を取っています。ですからまさに、この「気高き理想」は20世紀音楽らしい作品だと言えるでしょう。
最後が交響曲「画家マティス」。じつはこの作品も、元は同名のヒンデミットが作曲したオペラなのです。
画家マティス (交響曲)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%AE%B6%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9_(%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2)
画家マティス (オペラ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%AE%B6%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9_(%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9)
オペラも並べたのは、そのほうがこの交響曲の特色が理解しやすいからです。この交響曲は実は、オペラに先立って成立しており、オペラのエッセンスとも言えます。その上でオペラは、実に政治的な作品でもあります。新即物主義が政治的主調があまりないと言われていますが、この画家マティスに関してはかなり政治的な作品だと言えるでしょう。それを踏まえると、なるほど、だから交響曲は3楽章なのだなと納得するのです。そう、キーワードは「自由」です。私はそう思います。
作曲は1934年。ナチスの一党独裁が著しい時期です。そんな時代にヒンデミット自身がどう生きようとしていたのか・・・・・この交響曲はオペラのエッセンスとして、明快に宣言しているわけです。つまり、ナチスの好きな音楽など書かない、私は私のままでいい、と言う事です。だから、交響曲は3楽章というわけです。当時の人達であれば、3楽章ということでどんなオペラかを、明確に理解したことでしょう。だからこそ、ヒンデミット事件が起こったと言うことになります。単にユダヤと一緒に音楽をしていたということだけで退廃音楽指定になったとは思えません。この交響曲、ひいてはオペラが、反体制を宣言するものだったからにほかなりません。
ヒンデミット事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88%E4%BA%8B%E4%BB%B6
そして、このアルバムのオケが、フィラデルフィア管弦楽団なわけなのです。フィラデルフィアと言えば、アメリカ独立宣言が書かれた場所です。その上で、アメリカメジャーオケの一角を占めるオケが、ヒンデミットを採り上げるということは、多分にこのアルバムは自由の国アメリカというものを象徴するアルバムだと言えるでしょう。
フィラデルフィア管弦楽団
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3
指揮がサヴァリッシュ。1993年〜2003年までサヴァリッシュはフィラデルフィア管の音楽監督を務めていますが、就任翌年に収録されたのがこのアルバムです。サヴァリッシュのステディな解釈とタクトは、フィラデルフィアの豊潤で美しいサウンドを、時に生き生きと、時に荘厳にさせ、その実力を引きだしています。20世紀音楽だとついその和声にだけ興味が行きがちですが、和声も含めたアンサンブルの美しさもしっかりと表現されているのが素晴らしい演奏だと思います。フィラデルフィアサウンドで聴くヒンデミットはとても美しく、ヒンデミットが目指した「美」というものが、演奏者を通して私たちにしっかりと伝わってきます。
聴いている音源
パウル・ヒンデミット作曲
ウェーバーの主題による交響的変容
組曲「気高き幻想」
交響曲「画家マティス」
ジェフリー・ケイナー(フルート・ソロ、�B)
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
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