かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:小川典子のドビュッシー2

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、ドビュッシーの作品を収録したアルバムをシリーズでご紹介していますが、今回は小川典子の第2回目となります。

このアルバムはドビュッシーのピアノ作品全集として収録されたものですが、図書館には全部そろっていないのが残念です。でも、それ故様々な演奏を聴き比べることができます。この第3集もその一つだと言えます。

というのは、このアルバムに収録されている作品で、このシリーズで初めて出てくる作品は、英雄的な子守歌、慈善団体「負傷兵の衣類」のための小品、そしてエレジーの3つだけです。そしてその3つを聴きたくて借りたのがこのアルバムなのですが、その上で、前奏曲第2番と「おもちゃ箱」は既出ですから、当然聴き比べになります。

演奏に入る前に、作品の御紹介から参りましょう。「英雄的な子守歌」は1914年に作曲され、ベルギー国王アルベール1世に献呈されました。当時第1次大戦。ドイツ軍の侵攻に対してアルベール1世が抵抗したことに感動して作曲されたものですが、とても静かな作品です。そこにドビュッシーの繊細さが見え隠れします。

ドビュッシー : 英雄の子守歌−ベルギー国王アルベール1世陛下とその兵士たちをたたえて
Debussy, Claude Achille : Berceuse héroique pour rendre hommage à S.M. le Roi Albert 1er de Belgique et a soldats
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/663/

慈善団体「負傷兵の衣類」のための小品も当然大戦絡みの作品で、1915年に作曲されています。そして「エレジー」も1915年の作曲。これもはやり大戦絡みの慈善支援が目的で書かれました。

ドビュッシー : アルバムのページ(負傷者の服のための小品)
Debussy, Claude Achille : Page d'album(Pièce pour le vêtement du blessé)
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/3110/

ドビュッシー : 悲歌
Debussy, Claude Achille : Elégie
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/3111/

その上で、これら3つの作品を挿むように、「前奏曲第2番」と「おもちゃ箱」が収録されているのです。これは単に漫然と総編集されたのではないと思っています。明らかな意味があります。

一つには、作曲時期が言えるでしょう。収録されている作品は1910〜1915年という時期に書かれた作品たちです。では、その時期ドビュッシーに多大な影響を与えたものはなんだったのか。それは・・・・・

戦争です。第1次世界大戦はバルカン半島における一発の銃声から瞬く間に戦争へと拡大し、戦線も拡大しました。それまで人類が経験しないスピードと規模で拡大していく戦線に、人々は様々な形で巻き込まれていきます。近代戦の曠野である第1次世界大戦は、ドビュッシーの精神状態や、作品に大きな影響を与えたのでした。

この作品たちは、ドビュッシーが第1次大戦前後、きな臭い時代に書いた作品なのです。それを見事までに反映しているのが、じつは前奏曲第2番です。ドビュッシー愛国心が見て取れる作品なのですが、皆さまお分かりでしょうか。第2巻の第11曲「交代する三度」がそれです。なぜか。

交代するとは、バロック時代のチェンバロの弾き方、特にフランスバロックの作曲家、ラモーが示した弾き方なのです。それをピアノで行う・・・・・本来なら、古くさいとして取りあわないところですが、ドビュッシーは自らの知的作業の結果として、フランス人としての誇りをこの作品に込めたのでした。そしてチェンバロの弾き方がピアノでも導入できることを、みごとに証明してみせたと言えます。

それはおそらく、その後バロック時代の鍵盤作品をピアノで弾くということにつながって行ったのは間違いないと思います。その点で、ドビュッシーが「前奏曲」で果たした音楽史的役割は巨大すぎる程大きかったのです。その上で、時代のきな臭さに対して、何か違和感を持っていたことが、この「交代する三度」で明確になっているのです。後期ロマン派の一ジャンルである「国民楽派」で、文化は、芸術は本当にいいのだろうかというドビュッシーの問いが、明確なのです。

「おもちゃ箱」にしても、作品の半分くらいは実は戦闘シーンで占められています。実際に兵隊がドンパチを行うのではなく、おもちゃの人形を使って比喩しているのです。戦争は、あるいはもっと単純に争いはどのように起るのか、その時人はどのように行動するものなのか、そしてどのように生きれば幸せなのか。それを聴く者に考えさせる作品がじつは「おもちゃ箱」なのです。

小川女史は全体的に幻想的に、ゆったりと弾いています。それは小川女史がこれらの作品を基本的には印象派としてとらえている証拠なのですが、一方で象徴主義という側面も実はわすれてはおらず、特におもちゃ箱も幻想的に弾くことで、作品が持つ深層をはっきりと浮かび上がらせることに成功しています。中井女史は戦闘シーンなどをはっきりと弾くことで作品の構造がわかるのでそれも素晴らしい演奏ですが、この小川女史の演奏も、ドビュッシーの内面性まで踏み込んだかのようで、また味わい深い演奏となっています。

その上で、第1次世界大戦前後の作品で、かつ戦争に関連する作品をずらりと並べてみせて、聴衆が何を受け取るのかを試されていると言えましょう。私たちはこれらの作品から何を受け取り、学び、成長していくか・・・・・ドビュッシーの作品を通して、小川女史に試されているように思います。




聴いている音源
クロード・ドビュッシー作曲
前奏曲集第2巻
英雄的な子守歌
慈善団体「負傷兵の衣類」のための小品
エレジー
おもちゃ箱
小川典子(ピアノ)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




このブログは「にほんブログ村」に参加しています。

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ 合唱・コーラスへ
にほんブログ村