東京の図書館から、今回は小金井市立図書館所蔵のフォーレ、ピアノ作品全集から第4集を取り上げます。
第4集は小品集、前奏曲集、ヴァルス・カプリス、マズルカの4ジャンルが収録されています。
え、小品集って、小品を集めたものでしょ、それってジャンルになるのかという意見もあるかもしれません。じつは、小品集で作品番号が付いているんです。作品84です。
小品集とありますが、実際にはいろんな様式が詰まった作品をひとまとまりにしたものです。その中にはフーガもあります。作品84という後年の作品番号でありながら、古風な雰囲気も漂う作品です。其れもそのはず、1869年から1902年にかけて作曲されたものをひとまとまりにしているからです。
フォーレの楽曲一覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%81%AE%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E4%B8%80%E8%A6%A7
むしろフォーレらしいと感じるのは次の前奏曲集でしょう。バロックから続く伝統でもあるこのジャンルを、印象派の音楽として見事に時代に即している点は素晴らしいです。
前奏曲 (フォーレ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC)
続くヴァルス・カプリスは文字通り、ワルツとカプリース(奇想曲)という二つのジャンルが融合した作品です。4曲それぞれに作品番号が付いており、しかもばらばら。それはこのジャンルをフォーレは生涯作り続けたということを意味するのです。しかもそれはショパンの影響下にあります。それでいて、しっかりと印象派でもあります。
最後がマズルカですが、これもザッツ印象派という作品で、本来フォーレはフランス人なのにマズルカなんです。ということは、これもショパン・リスペクトだと言えます。
そうすると、この第4集に並んでいる作品はどれも、実はオリジナリティは様式としては薄いと言うことになります。でも、聴いているほうは少なくとも和声においては独創的なものを受け取ります。じつは、それこそが印象派という時代の特徴なのです。それがよく表れている編集だと言えます。
印象派とはどんな運動だったのでしょうか。それは、和声の変革、だったんです。決して様式を変えようとかではないんです。ではなぜ和声だったのか。それは、フランスに置いては帝国主義の時代に、国民国家として愛国心がぼっ興したのと軌を一にしています。ドイツ的なものではない何かを模索する・・・・・ドビュッシーがフランス・バロックに範をとり、標題音楽をメインにするとしたときに、たどり着いたのが和声の変革により、古典的な和声の展開の呪縛から逃れようとする運動、それが印象派です。
あくまでもそれは音楽史上で、です。絵画における印象派はまた別な側面がありますが、ただ、音楽史上で成立するために絵画の運動が果たした役割は大きかったのです。絵画が一つのインスピレーションを与え、絵画的にするにはどのようにしたらいいのかを模索した結果が、和声の改革だったわけですから。
フォーレはその延長線上にいる上に、特に小品集作品84がそうなのですが、時代の大きな転換点にいたことが明らかなのです。フォーレが若かりし頃は、時代が大きく変わる時期だったことが、小品集に収められている作品を聴きますと分かる訳なのです。
ユボーは当たり前に弾いていますが、だからこそ小品集では古典的な響きも聴けますし、そのほかでは明らかに印象派的な和声を味わうことができるのです。この自然体の演奏は、私達に様々な気づきを与えてくれるだけではなく、その後サティへと繋がっていく運動の中で培われた、気軽さの中にある気品を楽しむということを経験することができます。
ユボーのその音楽史をしっかりと踏まえつつ、おくびにも見せないその演奏は、しなやかでまるでベルベット。しかしよく網目を見るとしっかりとした造作になっていると言ったところです。地に足がしっかりとついていることで実現したと言えるその演奏は、いつなんどきでも、私達を優しく包んでくれます。
これでこの全集に収録された作品のすべてが終了なのですが、俯瞰すれば、フォーレのピアノ作品とはまさに、時代を映す鏡だったと言えるでしょう。ピアノ曲と言えば印象派ではラヴェルやドヴュっしーなのですが、フォーレという作曲家もいると言うことを、私達聴衆もしっかりと胸に刻むと、また世界は広がるのだと言うことを、この全集から得られたことは、私にとって誠に喜ばしいことです。
聴いている音源
ガブリエル・フォーレ作曲
小品集 作品84
前奏曲集 作品103
ヴァルス・カプリス
第1番イ長調作品30
第2番変ニ長調作品38
第3番変ト長調作品59
第4番変イ長調作品62
マズルカ 変ロ長調作品32
ジャン・ユボー(ピアノ)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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