かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:田部京子のドビュッシー

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、ドビュッシーの作品をシリーズでご紹介していますが、今回はその第4回目。田部京子が演奏するアルバムをご紹介します。

収録されている曲の内、このアルバムで新たに出てくる曲は、小さな黒ん坊、子供の領分、レントよりも遅く、そして喜びの島の4曲で、後はすでにこのブログでも簿価の演奏で取り上げている作品です。

全集ではないわけですからこういったことは仕方ないんですが、その代わりいきなり演奏の違いなどを体験できると言う点では、全集がないことも素晴らしいことです。

まず、田部京子について語っておきましょうか。

オフィシャルサイト
http://www.kyoko-tabe.com/

田部京子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E9%83%A8%E4%BA%AC%E5%AD%90

シューベルト弾きとして有名な方ですが、ディスコグラフィなどを見てみれば、古典派から印象派までを弾く幅広い表現力を持つピアニストであることが一目瞭然です。実際、このアルバムでもアコーギクの使い方が絶妙で、タッチはしなやかで気持ちいいほど柔らかいと思えば、しっかりと力強いタッチも聴こえてきて、それが各々の作品の生命力を十二分に現出させています。

新たに出てくる4曲の内、小さな黒ん坊は、その次に新たに出てくる「子供の領分」の最終曲「ゴリウォークのケークウォーク」にも通じる作品で、子供が面白がりながらも練習する風景が切り取られた様子がはっきりとわかる作品で、その面白さや軽妙さがしっかりと表現されている点からも、田部女史の実力を測ることができます。

ドビュッシー : 小さな黒人(ケークウォーク) ハ長調
Debussy, Claude Achille : The little nigar(Cakewalk) C-Dur
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/665/

子供の領分
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%90%E4%BE%9B%E3%81%AE%E9%A0%98%E5%88%86

子供の領分は、ドビュッシーが娘のために書いた作品ですが、ドビュッシーが先人たちを時には批判的に見ている点も注目です。最初の曲である「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」 はこのブログでも取り上げたことのあるクレメンティの練習曲集『グラドゥス・アド・パルナッスム』のパロディ。この姿勢が後に前奏曲において調性にこだわらない点へとつながっていたのではないかと私は思います。その点でこの「子供の領分」はまさしくドビュッシーらしい作品とも言えましょう。

田部女史がこの作品をもっとも中ほどに持ってきたという点も私は注目しており、恐らくですが、私と同じ理由で中ほどに持ってきたのではなと思います。つまり、この作品はドビュッシーの音楽に対する姿勢がよく出ている作品である、という事です。だからこそ、ほぼメインというべき部分に持ってきたのでしょう。

次の「レントよりも遅く」はコンサートピースでもある小さな作品ですが、実に美しい作品です。実際にはワルツで、ゆったりとした時間が流れていく様子が音楽で絶妙に表現されています。

ドビュッシー : レントより遅く(ワルツ) 変ト長調
Debussy, Claude Achille : La plus que lente(Valse) Ges-Dur
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/661/

ウィキでは説明がなかったこの作品へはピティナではあったのはさすがです。

新しく出てきた作品の内最後の「喜びの島」は、ドビュッシー象徴主義を代表するような作品です。絵画からインスピレーションを得たのかどうかは定かではないんですが、もしそれが事実だとすれば、誠に象徴主義的作品になるからです。

ドビュッシー : 喜びの島 イ長調
Debussy, Claude Achille : L' Isle joyeuse A-Dur
http://www.piano.or.jp/enc/pieces/700/

http://www.louvre.fr/jp/oeuvre-notices/%E3%80%8A%E3%82%B7%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%B3%B6%E3%81%AE%E5%B7%A1%E7%A4%BC%E3%80%8B

この絵は決して印象派の絵画ではないんです。それを音楽で表現しようとしたのがこの作品なのです。かなり写実的な作品の印象を音楽で表現したらどうなるだろうというのがこの作品なのですね。ですから、単に印象派としてはこの作品も視点としてはどうなのだろうと思います。

その他は既出の作品ですが、特にすばらしいのはアルバムタイトルにもなっている「版画」で、最終曲「雨の庭」はしとしとではなく本降りの雨になっています。しとしとの表現が多い中で田部女史は本降りを選択したのです。それは作品や楽譜としっかり向き合い、スコアリーディングがしっかりなされた上での結論であり、じつはとても誠実なのですが、2曲と最後とのコントラストが素晴らしい!ドビュッシーコントラストを廃したとも言われますが、それは古典派的なと言う意味であって、実際には実に所々に様々なコントラストがあって、それはその当時の壮大な実験であったということを私たちに教えてくれます。

そして何より彼女の表現力が存分に出ている作品は最終曲「月の光」です。印象派的なゆったりとした音楽である一方、月の光の美しさは象徴的に表現されており、これぞドビュッシーの表現としては適切ではないだろうかと言うべき作品です。ここでも、アコーギクを存分に使うことで、古典派とは異なるコントラストが存在しているのに気が付かされます。

実にドビュッシーを知るにいい教材であり、さらに素直に耳をかたむければ、その幻想的な世界へ連れて行ってくれる、品がいいアルバムではないかと思います。




聴いている音源
クロード・ドビュッシー作曲

版画
2つのアラベスク
小さな黒ん坊
子供の領分
レントよりも遅く
喜びの島
月の光(「ベルガマスク組曲」より)
田部京子(ピアノ)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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