神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、リストのピアノ作品全集を取り上げていますが、今回は第9集を取り上げます。元音源はナクソスです。
第9集は、リストオリジナルの作品が殆ど取り上げられていますが、そのほとんどはキリスト教を題材としています。
この第9集ほど、リストの既成概念を覆すものはないであろうと思います。超絶技巧という既成概念で聴きますと、恐らく腰を抜かすでありましょう。その音楽の静謐さと、深遠さで。
作品のほとんどが1860年代以降に書かれた作品です。つまり、演奏家としては殆ど引退をしたような時期に作曲されているのです。このあたりからリストの作風は明らかに変わってきています。その静かさと美しさと言ったらありません。
明鏡止水・・・・・この言葉がぴったりとさえ言える作品が続々と生み出されているのです。リストも人間です。いつまでも超絶技巧で演奏できるわけではないのです。
ピアノという楽器は、とても体力がいる楽器です。以外ですが全身を使って演奏されるもので、腕や背筋は鍛えてないといい演奏は出来ない楽器です。なぜなら、ピアノの弦はぴんと張っている分隠された運動エネルギーがあるので、弾く、つまり叩くことになる演奏者は同じだけの運動エネルギーが必要になるからです。
ですから、リストが永遠に超絶技巧で演奏しつづけることなど無理な話である訳で、リストは比較的長生きしましたから、ピアニストというものがどのように衰え、その中でどのように創作が変化していくのかを、初めて見せつけた作曲家だと言えるでしょう。
この第8集、第9集はまさしく、リストの生涯において変化が生まれた時期の作品であるのです。
さらに、11のコラールにおいては、コラールをピアノ独奏曲としたものです。それは私のような合唱屋からすれば驚くべき話です。まるで合唱団員が練習としてコラールを歌うように、リストもコラールを編曲しているからです。本来ピアノであればコラールは必ずしも要りませんが、バッハがオルガンでコラールを作曲しているように、リストもピアノでコラールを作曲した、と考えていいでしょう。
ここに、超絶技巧とは異なる、純粋な鍵盤楽器弾きとしてのリストがいます。それはショパンのそうであったように、リストもバッハを意識していると考えていいと思います。24の練習曲がないだけ、です。
恐らく、バッハがトーマスカントルだったように、リストも僧侶として、音楽の分野で神に仕える者という意識があったことでしょう。だからこそバッハと自分を重ね合わせ、これ等の作品を生み出したのではないかと思います。バッハも教会のために忙しく仕事をしたわけですが、リストもバッハ同様、演奏者としても忙しかったのです。共感をしたとしても、何ら不思議はありません。
演奏は第3集、第4集で超絶技巧を見せつけた、フィリップ・トムソン。一転してリスト後半生の、静謐で美しい作品をまさしくそのように演奏してみせています。リストは超絶技巧だけはない・・・・・私はそのようにはっきりとした意思表示と受け取っています。
もっと言えば、超絶技巧にこだわっていない分、様々な顔を持つこれらの作品を、天衣無縫、縦横無尽に表現し、天空に無限の広がりを持つ演奏となっています。まるでそこに神がいる、宇宙がある・・・・・
ともすれば、青空すら見える演奏は、爽快感と心の平安を、私たちにもたらしてくれるのではないでしょうか。
聴いている音源
フランツ・リスト作曲
ハンガリー戴冠式ミサより2つの小品(S501/R192)
1.ベネディクトゥス
2.オッフェルトリウム
3.都と世界に-教皇の祝福に(S184/R69)
4.幸あれ、海の星よ(S506/R195)
5.おお、気高きローマ(S546a)
6.降誕祭の歌(S502/R197)
7.主の家にわれらは進みゆく(S505/R178)
8.私たちの主、イエス・キリストの変容の祝日に(S188/R74)
9.教皇賛歌(S530/R190)
10.スターバト・マーテル(S番号なし、1847年以降作曲)
11のコラール(S504b)(合唱曲「12の古いドイツの宗教的旋律」S50第3〜12曲および「わが魂は神をあがめる」S51、「いざ、すべての者は神に感謝せよ」S61のピアノ用編曲)
11.祝福された十字架よ
12.イエス・キリスト
13.わが魂は主をあがめる
14.いざ、すべての者は神に感謝せよ
15.今や、すべての森は憩い
16.おお、血にまみれ傷ついた御頭
17.おお、汚れなき神の小羊
18.おお、悲しみよ
19.王の御旗は
20.神のなされた御業こそいとよし
21.ただ神の摂理に任せる者
22.聖ドロテア(S187/R73)
23.アレルヤ(S183/R68a)
フィリップ・トムソン(ピアノ)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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