神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はトヴェイトのピアノ協奏曲を取り上げます。
トヴェイトは、最近スポットライトが当たり始めたノルウェーの作曲家です。
ゲイル・トヴェイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%88
20世紀ノルウェーを代表するような作曲家でありましたが、災害により多くの作品を失い、現在残っている作品はわずかですが、どうやら完全に灰燼に帰したわけではなく、一部のこったものや、録音から楽譜を起こしたりする作業が現在行われています。
民族音楽の採集を行った人で、その点では19世紀〜20世紀にかけてブームになった民謡採集の動きに影響された作曲家であり、また新古典主義音楽の流れに属する作曲家だとも言えるでしょう。
民族音楽を使ったその作品は、とても聴きやすさを持っており、その上ことさらにナショナリズムをあおるようなものではありません。むしろパトリオティズムの延長線上にあると言っていいでしょう。
ウィキには主な作品としてピアノ協奏曲が出てきますが、この音源ではそのうち第1番と第5番が収録されております。まず第1番は1927年に作曲された作品で、19分ほどしかない短い作品ですが、3楽章制を採用している一方で、古典的な急〜緩〜急とはなっておらず、全体がゆったりとしたテンポが貫き通されています。むしろ幻想曲と言ってもいい作品です。
1954年と戦後に作曲された第5番はむしろ第1番に比べれば古典的で、急〜緩〜急をとります。第1番よりは民族色は後退しますが、むしろ古典的な様式に民俗色がきちんと落とし込まれ、優れた作品だと言えるでしょう。
20世紀の作品と言えば、例えばストラヴィンスキーなどが想起されるものですが、こういった旋律的ですが、しかしナショナリズムとは一線を画した作品が多く書かれた世紀でもありました。それはまさしく、いかに20世紀がナショナリズムの時代であり、戦争の生気であったかの裏返しであると言えるでしょう。それは視点を変えれば、実は12音階などとも共通する視点を持っているのです。
つまり、人間の表現はどうあるべきかという「問い」です。人間そのものを、外見も内面もどう表現するのかというのが、主に12音階などが辿った道ですし、トヴェイトのように、風景などを題材にした作曲家たちは、民謡などにその原点を求めていきました。共通するのは、ナショナリズムによって、二度の世界大戦が勃発し、人間は絶滅寸前まで行ってしまったという、危機意識だと言えるでしょう。
ナショナリズムをあおるために、後期ロマン派の派生として国民楽派が生まれ、多くの優れた作品が生み出された一方で、その作品たちは人間を戦争へと駆り立てていきました。科学技術が進むにつれて、戦場はより悲惨なものとなって行き、遂には人間自身が絶滅するかもしれないという、核兵器の登場となるのです。
そういった時代感覚を持っている芸術家たちは、二度の大戦の経験を、どう消化して作品に反映させるかに腐心しました。このトヴェイトの作品も、その流れにそった作品だと言えるでしょう。特に第5番は、不協和音も絶妙に使われつつ、劇的な作品となっており、第1番に比べれば濃い作品となっています。
演奏は指揮者はノルウェーですが、オケはスコットランドです。元音源はナクソスですが、ナクソスお馴染みのロイヤル・スコティッシュ管弦楽団はステディな演奏で、この作品が持つ「秘めた愛国心」を十分に表現していると言えるでしょう。秘められた心に、秘められた想い・・・・・ことさらに歌い上げないからこそ、それは実は難しいものですが、いとも簡単に実現しているのはさすがだと言えます。
勿論、それはアンサンブルの素晴らしさからくるものですし、それはプロオケであれば当たり前だとも言えますが、有名オケではないオケの演奏でそれが聞き取れるというのは実に幸せな瞬間ですし、そこにヨーロッパの芸術の深さと、重層を見ることができます。
こういった作品は、ともすればつまらないかもしれません。しかしじっと耳を澄ませて聴いてみれば、実に多くのものが詰まっていることに気づきます。みずからの知性を磨くのには、素晴らしい作品だと言えるでしょう。
聴いている音源
ゲイル・トヴェイト作曲
ピアノ協奏曲第1番ヘ長調作品1
ピアノ協奏曲第5番作品156
ホーヴァル・ギムゼ(ピアノ)
ビャーテ・エンゲセット指揮
ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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