かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:BCJ バッハカンタータ全曲演奏シリーズ 世俗カンタータ5

今月のお買いもの、平成27年10月に購入したものをご紹介しております。今回は銀座山野楽器にて購入しました、BISのBCJバッハカンタータ全曲演奏シリーズの世俗カンタータ第5集をご紹介します。

教会カンタータから数えて第60集目になるこのアルバムは、BWV213と214と、並んで収録されており、実際に成立した年代も同じとなっています。

そして、このアルバムには、「バースデイカンタータ」との記載がありますが、ともに誕生日祝賀用として完成されました。

まず、第213番「われら心を配り、しかと見守らん(岐路に立つヘラクレス)」BWV213は、1733年9月5日、ライプツィヒで初演されました。そしてその日が誕生祝賀の日であったわけですが、その対象はザクセン皇太子、フリードリッヒ・クリスティアンです。

フリードリヒ・クリスティアン (ザクセン選帝侯)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3_(%E3%82%B6%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%83%B3%E9%81%B8%E5%B8%9D%E4%BE%AF)

この作品は音楽劇伴っており、ヘラクレスである主人公(つまり、フリードリッヒ)が人生の様々な岐路で正しい方向を選んでいくという内容になっています。史実ではその通りに、ザクセンを混乱に陥れたハインリヒ・フォン・ブリュールを解任しています。

この作品に感化されというわけなのかどうかまでは、ネットでは調べることができませんが、少なくとも正しいことをしようとする人であったのかもしれません。バッハがテクスト作者ピカンダーと共に世俗カンタータを作曲するときには、必ず依頼主を称える内容にするからです。となれば、ザクセン皇太子であるフリードリヒの人格を考えるであろうと想像できるからです。

私のような俗人からすれば、かなり耳の痛い内容が並んでいるのですが、それでも、こういった生き方はしていきたいなあって思います。快楽と徳と、常にどちらの道を選ぶのかと言われ、徳を選んでいくその内容は、さすがフリードリッヒだなあと思います。

そして、この作品にはこだまがあるのですが、普通は舞台遠くにもう一人配置するようですが、このアルバムではソリストは一人でやっており、どうもfとpを使い分けているようです。確かに、初演は現在のオーケストラなどに比べれば人数は少ないはずで、BCJのやり方が初演に近かったのでしょう。

そしてもう一つの曲が第214番「鳴れ、太鼓よ!響け、トランペットよ!」BWV214です。第213番と同じ1733年の、これは12月8日にライプツィヒで初演されており、ザクセン選帝侯妃(兼ポーランド王妃)マリーア・ヨーゼファの誕生祝賀のために書かれました。

実は、このマリーア・ヨーゼファは、第213番を献呈されたフリードリッヒの母なのです。

マリア・ヨーゼファ・フォン・エスターライヒ (1699-1757)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%92_(1699-1757)

この作品も音楽劇になっていまして、戦いの神ベローナ、学芸の神バラス、平和の神イレーネ、うわさの神ファーマが登場して、ヨーゼファを称えるという内容なのです。その4神は合唱4部にそれぞれ振り分けられています。

いやあ、バッハさんも大変ですねえって感じです。ウィキのフリードリッヒのページを見て頂ければお分かりかと思いますが、実はヨーゼファはフリードリッヒを皇太子にはしたくないのですね。そのフリードリッヒへ曲を書いたバッハに、自分の誕生祝賀の曲を依頼したわけですから、それを受けるバッハはそりゃあ、そそうの無いようにしないといけないですから。

ま、カンタータ作曲には手馴れているバッハは、みごとに両立させたからこそ、二つは残ったわけですが、世俗カンタータがこの二つが並び残っているというのは、因果なものだと思います。ヨーゼファがちょっかいを出してオーストリア継承戦争に介入して、その外交交渉で失敗して失脚するのですが、息子フリードリッヒはその母が失脚したオーストリア継承戦争がきっかけで勃発した7年戦争で疲弊した国を建てなおすため、ハインリヒ・フォン・ブリュールを解任するわけですから。

七年戦争
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E5%B9%B4%E6%88%A6%E4%BA%89

結局は、その7年戦争でザクセンは同じドイツ諸侯でありながらも、プロイセンのフリードリヒ大王の攻撃にあって宮廷が亡命を余儀なくされるのですが、しかし両陣営とも戦費調達が厳しかったことを考えれば、実はフリードリッヒの選択はあながち間違ってはいなかったと言えます。その人格を称えた第213番にはこだまが存在しますが、そういった手の込んだ内容になっているという点でも、実はバッハはどちらかと言えばフリードリッヒのほうを買っていたのではないのかなあと思います。第214番にはそれほどの演奏上のむずかしさはないと思われますので。

さて、政治的なことはこのあたりまでにして、この二つの作品は翌年クリスマス・オラトリオに転用されます。

クリスマス・オラトリオ (バッハ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AA_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)

ウィキでは、「改作した『クリスマス・オラトリオ』は、原曲のカンタータからの転用が自然に行われており、両者がよく対応しているため、バッハは2つの世俗カンタータを作曲した1733年に再度クリスマス用の宗教曲に転用する構想を予め練っていたと考えられている。」との記述がありますが、わたしもそれを支持します。それは、特に第213番で顕著に出ていまして、第3曲目ソプラノのアリアが、シシリアーノなのです。それはどんなシーンかというと、実は第213番ではクリスマスとは関係がなく、「快楽」がヘラクレスを誘う場面なのです。

これはうなりますね。つまり、翌年のクリスマスに転用できるように、クリスマスらしい、バロックの伝統であるシシリアーノを何処に入れれば違和感がないかという事が、計算し尽くされているからです。シシリアーノはクリスマスを待ちわびる場面で使われ、クリスマスを暗示するものです。その待ちわびるワクワク感を、快楽へと向かいそうになるそのワクワク感に転用しているのですから・・・・・・

さすが、バッハ、そしてピカンダーです。聴き手からすれば、「おや?もしかすると来年も使うのかな?」と予感させるわけで、そして見事に使うわけです(クリスマス・オラトリオでは第19曲目「眠りたまえ、わが尊びまつる者、安けき憩いを楽しみ」)。実際にはクリスマス・オラトリオなので12月25日以降を取り扱うのでシシリアーノ自体も使いどころが難しいにもかかわらず、誕生祝賀でもクリスマスでも、みごとな使用です。

バロック音楽を聴く楽しみを、存分に味わえる作品だと言えるでしょう。

演奏面では、すでに申していますが第213番ではこだまが入っていますが、その表現が見事です。どうやって録音したのかはよくわかりませんが、マイクをソリストだけに近くにおいて、こだまはマイクから遠ざけてというやり方かもしれませんし、実際にfとpを歌い分けているようにも聴こえます。ヘラクレスに徳を説くテノールには桜田亮。いまや堂々としたソリストで、日本を代表するソリストと言っていいでしょう。その他の海外勢、特にヘラクレスであるアルト(カウンターテナー)であるロビン・ブレイズとの二重唱はうっとりします。このカウンターテナーを使うというのは、まさしくBCJならではですが、第213番ではぴったりであるように思います。まだ幼いフリードリッヒを投影しているわけですが、カウンターテナーを使っていると言う点で、多分当時の人はある程度種明かしになっていたと思われ、その様子も想像できる楽しい演奏だと言えます。

合唱は特に第214番で素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれまして、安心できるものです。もう、今や毎回安心できるクオリティを叩きだしているBCJの合唱ですが、世界レヴェルだと言っていいでしょう。大きなホールではという意見もありますが、バッハの合唱作品のほとんどは所謂古典派以降に建設された大ホールで演奏されたのではなく、教会の聖堂で演奏されたもので、それほど大きなところで初演されたわけではありません。私はこのままでいいと思います。むしろ、BCJ以外の団体が奮起して、大きなホールなら私達に任せとけ!としてほしいですね。日本のプロ合唱団と言えば東京混声合唱団ですが、それ以外の奮起があればなあと思います。もしかすると、アマチュアから出るかもしれませんねえ。例えば、フィルハーモニック・コーラスさんとか・・・・・

バロックの合唱曲というのが、もっと日本でBCJ以外で演奏されるようになれば、状況は変わるように思います。




聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第213番「われら心を配り、しかと見守らん(岐路に立つヘラクレス)」BWV213
カンタータ第214番「鳴れ、太鼓よ!響け、トランペットよ!」BWV214
ジョアン・ルン(ソプラノ)
ロビン・ブレイズカウンターテナー
桜田亮(テノール
ドニミク・ウェルナー(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS 2161 SACD)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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