かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:BCJ バッハカンタータ全曲演奏シリーズ55

今月のお買いもの、平成26年7月に購入したものを今回からご紹介していきます。まず最初は、BCJのバッハカンタータ全曲演奏シリーズの第55集です。

え、第54集で最後ではなかったの?というア・ナ・タ。そうなんです、私の勘違いだったのです。

ただ、確か第54集を取り上げた時に、「多分」という枕詞は使ったとは思うんですが・・・・・

ただ、第54集が最後ではなかったことは事実ですので、お詫びしたいと思います。

さて、この第55集は、本当に最後です!CDにもそうラベルが貼ってありましたし、また、帯にも記述があるので、これはもうはっきりしています。

その最後の第55集に収録されたのは以下の3曲です。

第69番「わが魂よ、主を讃えよ」BWV69
第30番「喜べ、購われし者たちの群よ」BWV30
第191番「いと高きところには神に栄光あれ」BWV191

1730年代に書かれたこの3つのカンタータは、実はそもそもそれよりも前にでき上がっていた作品に手を加えたものばかりという共通項を持ちます。それはまさしく、バロック的な作品であるという事を示すものでもあります。

第69番はそもそも、1723年に作曲されたBWV69aが元となっています。

マイ・コレクション:BCJバッハカンタータ全曲演奏シリーズ13
http://yaplog.jp/yk6974/archive/850

上記エントリで、1748年にとあるのが今回の第69番で、用途まで同じ市参事会交替式用と一緒です。歌詞もほとんど一緒で、最後のコラールに変更があるのみです(しかも、さらに大規模なものになっています)。この時期のバッハはそれほど忙しくな・・・・・くもないのです。

1748年と言えば、バッハの最晩年に当りますが、息子達との演奏会や、ザクセン宮廷作曲家に任じられるなど、仕事の幅がトーマス・カントル以外に広がっていた時期なのです。その上、バッハ齢63。

皆さんは、63歳という年齢で、バリバリ働けますか?ごく一部の社長さん以外は、もうそろそろ引退して悠々自適に生活したいよという年齢なのではないでしょうか。どんなに健康でも、です。若いころと違って、馬力がきかないですから。当然、バッハもそんな状態であり、だからこそ、バロック時代特有の「使いまわし」をした、と推測されます。

次の第30番は、1738年の完成ですが、それ以前の1737年に成立していた世俗カンタータ「楽しきヴィーダーアウよ」BWV30aを原曲とする教会カンタータです。イエスの道を備えるものとしてのヨハネの予言を扱った作品ですが、そもそもヨハネの祝日を祝う作品なので、随所に金管が顔をのぞかせ、祝祭感にあふれています。ただ、所謂「お祭り騒ぎ」にはしたくなかったようで、最初と最後の合唱部分では世俗カンタータで使われていたトランペットをティンパニを省いています。ここにバッハが当時至っていた心境、教会音楽に身を捧げるという部分が出ているように思われます。

最後の第191番は完成された時期が確定されておらず、1743〜46年頃であろうと言われています。その中で一番有力視されているのが、1745年です。

実は、この第191番は、みなさま聴きますと、あれか!と驚かれると思います。この第191番の原曲は、ロ短調ミサのグローリアと全く一緒の、1733年にザクセン選帝侯に捧げらたミサ曲だからなのです。

ロ短調ミサ曲について
(その1:ロ短調ミサを巡る謎)
http://www.prmvr.otsu.shiga.jp/ensemblevoce/Bach/Bach6.html

マイ・コレクション:ソリストがいないロ短調ミサ
http://yaplog.jp/yk6974/archive/724

3曲から成っていますが、そのうち第1曲から第2曲までは、完全にロ短調ミサのグローリアです。つまり、歌詞が一緒です。その上当然ですが、カンタータのうち唯一のラテン語です。

この、ラテン語であるという点から、学者の間で様々な議論がなされてきました。そして最近、有力で説得力のある説がカナダの学者から出されたのです。1744〜45年にかけて勃発した、第二次シュレジア戦争の終結式典が1746年に行なわれていますが、そのための作品であるというものです。

手稿譜には、クリスマス用という記述以外に、第2曲と第3曲の冒頭に「講話後に」という書き込みをしているからです。勿論、クリスマスを祝う言葉の後とも取れますが、実は、1745年のクリスマスというのは、第二次シュレジア戦争講和調印式がライプツィヒの大学教会で行われた日なのです。

第二次シュレージエン戦争
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A8%E3%83%B3%E6%88%A6%E4%BA%89

シレジア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%82%A2

すでにマウンダー極少期は終りを告げ、太陽活動は活発に戻っていましたが、だからこそ、領土をめぐった戦争が勃発したとも言えましょう。中世の戦争は人対人ですから、人員が確保できなければ戦争などできないのです。日本でも戦国時代、農民を動員することのできない農繁期は戦が少なかったのと同じ理屈です。

ともかくも、戦争が終わった安堵感を表わすことが必要とされたと推測されます。というのは、調印式に関する史料は残っているものの、そこには演奏された音楽に関する記述がないからです。しかし、ないからと言って演奏されなかったと断定はできません。こういった祝い事では音楽が演奏される、もっと言えば、バッハの音楽が披露されるのがライプツィヒでは恒例だったからです。特段の記述がない限り、バッハの音楽が演奏されたが、その音楽があまりにも当たり前すぎて記録されなかったと考えるのが自然です。

そこで、クリスマス用という点と、講話、つまりスピーチの後にという書き込みが両立し、なおかつ、平和を願う歌詞、というポイントが見事にはまるのが、1745年12月25日という日なのです。その上、ライプツィヒという土地、つまりザクセンでは当たり前すぎる音楽となると、1733年にザクセン選帝侯に献上された音楽を基とする、第191番である、という事になりますので、第191番が演奏されたのが、その講話調印式である、という事なのです。

ウィキの記述をみていただくと分かると思いますが、第二次シュレジア戦争が終わったのが1745年12月17日です。CDのブックレットに依れば、ライプツィヒに戦争終結が伝えられたのは早くても12月22日頃とあり、あまりにも時間がなさすぎる中で要求にこたえるには、パロディ、つまり「使いまわし」をするしかなかったと思われます。音楽だけでなく歌詞までラテン語のまま一緒というのは、それが理由であろうと言われています。

こうして見ると、最後の第191番は教会カンタータシリーズを飾るにふさわしい音楽であると同時に、編集は誠にバロックを意識したものとなっています。バッハの音楽というものが、音楽史に置いてはどんな位置づけになるのかを、パロディという形で見せているわけです。ルネサンスから受け継いだものを、古典派へと受け渡す―それが、バッハであったように私は考えています。そしてそれは、彼の息子達によって実行され、ハイドンモーツァルトベートーヴェンと受け継がれ、それ以降の作曲家たちによってさらに発展を遂げていくこととなるのです。

思えば、1995年に第1集が発売され、その時はほぼオール日本人キャストだったBCJも、ソリストは全員外国人です。それは日本人に優秀な人がいなくなったのではなく、外国のソリストが是非所属して一緒にやりたいという団体にBCJが育ったことを意味します。演奏は全く淡々と、端正さを前面に出しつつ、祝祭感ある作品は祝祭感を、生真面目な作品は生真面目さをきちんと出しているのは如何にも自然で、ヨーロッパの他団体の演奏と遜色ないどころか、高いレヴェルをキープしていると言えましょう。テンポ感の良さ、アンサンブルの美しさ、アインザッツの力強さとしなやかさ。どれをとっても文句のつけようがありません。

初期のアルバムでは、やや難点も見られたBCJが、今やすっかり成長し、古楽団体として日本のなんて付けずに、普通に古楽団体のBCJと言えるだけの風格を備えたことは、初期から追っかけて続けてきた私にとっては、感慨深いものがあります。そして、それは私の誇りでもあります。全部そろえると決意して早20年。その間に、社会でも、私自身でも様々なことがあり、走馬灯のように思い出されます。それを乗り越えつつ、BCJの成長と羽ばたきを見守ってきました。

こうして、教会カンタータ最後のアルバムを聴きますと、ファンの一人として、よかったなあという一言です。これからは、日本のみならず、古楽団体を代表する団体としてBCJは認知されていくことでしょう。

さて、これでBCJは終りじゃないんです。第54集のときも触れたかと思いますが、すでに世俗カンタータ全曲演奏シリーズが始まっています。さらに、すでにバッハ以外のバロック作曲家の作品も取り上げており、いずれBCJのそういったアルバムも取り上げて良ければいいなと思っております。是非ご期待ください!




きいているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第69番「わが魂よ、主を讃えよ」BWV69
カンタータ第30番「喜べ、購われし者たちの群よ」BWV30
カンタータ第191番「いと高きところには神に栄光あれ」BWV191
ハナ・ブランコヴァ(ソプラノ)
ロビン・ブレイズカウンターテナー
ゲルト・テュルクテノール
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(キングレコード KKC-5362)※BIS-2031SACDと同一

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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