今月のお買いもの、今回はバッハの協奏曲を復元しようという趣旨のアルバムです。その名も「バッハ・コンチェルト・リコンストラクション」。ジョルジョ・サッソ指揮、インシエメ・ストゥルメンターレ・ディ・ローマの演奏です。ブリリアント・クラシックスから出ているもので、銀座山野楽器で630円での購入です。
このブログでも、教会カンタータをご紹介している時から、バッハは自分の作品を使いまわしていると常に述べていますが、実はこの復元はまさしくその使いまわしの作品から行っているのです。
私たちはつい、新たな刺激を新たな作品で期待してしまいます。もちろん、それが一番いいわけではありますが、既存の作品を別な視点で見てみるということも、新たな発見ということでそれは刺戟ではないでしょうか。バロックの時代はそんな「別の視点で見てみる」という刺戟に満ちあふれた時代でした。
というよりも、つかいまわしを特段悪い目で見るようなことはなかったため、自作編曲ということが盛んに行われた時代です。そういうことが後に、象徴主義や新古典主義音楽へとつながっていきます。
さて、そんないかにもバロックらしい作品が収録されたこのアルバムには、そういった作品が4曲収録されていますが、実は現在ではすべて「チェンバロ協奏曲」として伝わっています。
チェンバロ協奏曲 (バッハ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)
このアルバムに収録されたのはそのうち、収録順に第1番(BWV1052)、第8番(BWV1059)、第4番(BWV1055)、そして3台用第2番(BWV1064)です。実はチェンバロ協奏曲はバッハの人生のうち後半生の作品で、特に音大生を中心にした器楽アンサンブルで、息子達のお披露目の場所でもあったコレギウム・ムジクムのために用意された曲です。しかしこのチェンバロ協奏曲も実はパロディ、つまり編曲がほとんどでして、主にケーテン時代の協奏曲が基礎になっています。
ケーテン時代は、バッハの人生のうち器楽曲が多く作曲された時期で、協奏曲も多く作られています。ライプツィヒ時代の初期にケーテン時代の教会カンタータを編曲、あるいはそのまま使ったように、コレギウム・ムジクムの演奏会でも同様のことをしたわけなのです。
まず、第1曲目のBWV1052ですが、もともとはヴァイオリン協奏曲とされています。
チェンバロ協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)#.E3.83.81.E3.82.A7.E3.83.B3.E3.83.90.E3.83.AD.E5.8D.94.E5.A5.8F.E6.9B.B2.E7.AC.AC1.E7.95.AA_.E3.83.8B.E7.9F.AD.E8.AA.BF_BWV1052
このアルバムでは、実際はオルガン協奏曲としても教会カンタータ第35番で使われていることから、純粋にオルガン協奏曲として「オルガンとオーボエ、弦楽と通奏低音のための」協奏曲として復元されています。その復元の元となった曲に関しては、私も取り上げています。
今月のお買いもの:バッハカンタータ全曲演奏シリーズ44
http://yaplog.jp/yk6974/archive/639
今月のお買いもの:BCJ バッハカンタータ全曲演奏シリーズ49
http://yaplog.jp/yk6974/archive/778
第1楽章は第188番から復元されていますが、復元というかそのまま使われています。
「第1曲目はオルガン協奏曲かと思わせるような曲で全体の序曲となっており、そのため全体的にはまるでオペラのような感覚さえ受けます。じつはこの第1曲目はこの曲の直筆譜が細かく切り刻まれ各地の図書館や個人コレクターによって補完されていたため、第249小節以下しか伝わっていないのですが、それがチェンバロ協奏曲ニ短調の第3楽章と同じ音楽であるため、そこから復元されています。つまりまさしく、この序曲は協奏曲なのです。」
と第188番を取り上げた時に述べています。ですので、聴き慣れた曲が私にとっては流れてきますが、それゆえに少しだけ違和感があるのも否めません。協奏曲自体はバッハの真作かは議論になっていますが、第188番自体はその疑惑が事典を見る限りないので、恐らくバッハの作品と言って現時点では差し支えないと思いますが、なら、協奏曲として使うのであれば、第1楽章のシンフォニアの終止が、そこで終わってしまうような雰囲気を持っていて、まさしくシンフォニアそのものであるのに違和感を感じるのです。
私としては、バロックの協奏曲がそんな終わり方をするだろうかという疑念を持っています。もしかすると、このあたりはバッハはそのままではなくて、音符を少しいじっているのではないかという気がします。であれば、特段不自然ではなくなるからです。最後リットしていますがそれもシンフォニアとしてカンタータでは使っているからであって、協奏曲としてはおそらくリットの記号がついて演奏されたのか、私には疑問です。このあたりはもう少し考察をしてほしかったなあと思います。その点では、できればこういった作品をBCJも扱って欲しいなあと思います、鈴木氏であれば、どんな考察をして演奏するのだろうかと、わくわくします。
次に、BWV1059です。原曲は消失したオーボエ協奏曲ですが、チェンバロ協奏曲としても断片でしか伝わっていません。しかし、ウィキにもあるようにカンタータ第35番から復元が可能です。
チェンバロ協奏曲第8番 ニ短調 BWV1059
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)#.E3.83.81.E3.82.A7.E3.83.B3.E3.83.90.E3.83.AD.E5.8D.94.E5.A5.8F.E6.9B.B2.E7.AC.AC8.E7.95.AA_.E3.83.8B.E7.9F.AD.E8.AA.BF_BWV1059
そしてその第35番も、私は取り上げています。で、なぜ私がBWV1052で違和感を感じるかといいますと、BWV1059も第1楽章は第35番のシンフォニアから復元されているからです。
今月のお買いもの:BCJ バッハカンタータ全曲演奏シリーズ37
http://yaplog.jp/yk6974/archive/435
「第35番「霊と心は驚き惑う」BWV35も同様の構造ですが、今度はさらに2部構成となります。そのそれぞれがやはりシンフォニアで始まり、アリアで終わるというかたちをとります。よほどいそがしい中でカストラートのための音楽を生み出す必要があったのでしょう。同じ形式なのに、全く飽きません。神の奇跡に驚くことで神の摂理を紹介し賛美し、その恵みをわたしに与えてほしいと願う内容です。」
と述べたように、第35番も第1曲目はシンフォニアです。しかし、この作品は全く遜色ありません。第1楽章の終止が次の楽章を予感させるようになっていて、協奏曲として違和感がないのです。もともとオーボエ協奏曲として伝わっているという事実が、その自然さを雄弁に物語っているように思います。むしろ、バッハはオーボエ協奏曲の第1楽章と第3楽章を、第35番に於いて第1部と第2部のカンタータに転用して後年のチェンバロ協奏曲の編成の基礎を作り、後年チェンバロ協奏曲として復元したと言えましょう。逆に、オーボエ協奏曲としても復元可能だとも言えます。たとえば、BCJやラ・プティット・バンドなどがその復元を行ったら、面白ろそうですね。
第3曲目がBWV1055です。元々はオーボエ・ダモーレもしくはヴァイオリン協奏曲ハ長調であるとされていますが・・・・・
チェンバロ協奏曲第4番 イ長調 BWV1055
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)#.E3.83.81.E3.82.A7.E3.83.B3.E3.83.90.E3.83.AD.E5.8D.94.E5.A5.8F.E6.9B.B2.E7.AC.AC4.E7.95.AA_.E3.82.A4.E9.95.B7.E8.AA.BF_BWV1055
このアルバムではなんと、ヴィオラ・ダ・ブラッチョ協奏曲として復元しているのです。
ヴィオラ・ダ・ブラッチョ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A7
基本的にはヴィオラ協奏曲と現代人は判断しておいて構わないと思いますが、ヴィオラそのものではありません。ただ、もしモダン楽器で演奏するのであれば、ヴィオラであるということです。
なぜヴァイオリンではなく、ヴィオラなのかは、ブックレットの英語解説を拾い読みしてみますと、ピッチ、特に音の高さからいって、ヴァイオリンよりはヴィオラのほうが適切であるという演奏者の判断のようです。となると、たとえばBCJだったら、通説どおりなのかそれともヴィオラにするのか、聴いてみたいと思いますね〜。
最後のBWV1064ですが、原曲は3台のヴァイオリンのための協奏曲ですが、このアルバムではさらにオーボエやバスーンまで加えた協奏曲にしています。
第2番 ハ長調 BWV1064
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F)#.E7.AC.AC2.E7.95.AA_.E3.83.8F.E9.95.B7.E8.AA.BF_BWV1064
ヴァイオリン協奏曲として成立したのは1713〜14年、ヴァイマールにおいてです。その時にはなかった木管楽器を加えた理由は、ブックレットやバッハ事典における他の作品の編成から推測するに、他の作品ではオーボエやバスーンが使われているケースがあるからだと思います。もしかすると実際の演奏上はこのアルバムのように演奏された可能性もあります。実際、第3曲目と第4曲目は協奏曲として全く遜色ないばかりか、こちらが本来だったのではと思わせるくらいの自然さがあります。
バロックに関しては、こういった様々な楽器に置き換えて演奏するというスタイルを、現代においてもしてもいいのではないかと私はこの演奏を聴いて思います。そもそも、バロックという時代は様々なアレンジを楽しむ時代でもあったわけですから、ピリオドで演奏するというだけでなく、たとえばモダン楽器で楽譜とは異なる、しかしスコアリーディングから言えば決して可能性としてなくはないという独奏楽器の置き換えをしてみるというのも面白いと思います。
実際、これは貧乏合唱団がやる方法ですが、たとえば、オケをピアノに置き換えるということはよくやれていることですし、また、リストがベートーヴェンの交響曲をピアノでということもやっています。それはけっして苦し紛れではなく、むしろバロック以来の伝統に基づくとも言えるわけなのです。
演奏レヴェルも、BCJとそん色ないですし(逆に言えばそれだけBCJのレヴェルは高い)、各人の基礎がしっかりしているのだということに敬服するしかありません。
いやあ、バロックはこれからどんどん面白い演奏が出て来そうですね〜。研究が進んで過去の演奏実態が明らかになるにつれ、演奏技術がより進んだ現代において、それをよみがえられせる時、どんな様子になるのか、注目だと思います。それを私たちに率直に語りかけてくる演奏です。
聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
オルガン、オーボエ、弦楽及び通奏低音のための協奏曲(BWV1052、146及び188から復元)
ハープシコード、オーボエ、弦楽及び通奏低音のための協奏曲(BWV35と1059から復元)
ヴィオラ・ダ・ブラッチョ、弦楽と通奏低音のための協奏曲(BWV1055から復元)
3台のヴァイオリンと2つのオーボエ、バスーン、弦楽及び通奏低音のための協奏曲(BWV1064から復元)
ジョルジョ・サッソ指揮
インシエメ・ストゥルメンターレ・ディ・ローマ
(Brilliant Classics 94340)
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地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。