神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はビゼーの交響曲を取り上げます。
ビゼーと言えば、カルメンで有名な作曲家でですが、管弦楽作品も優れたものを作曲しており、我が国でアルルの女が常に紹介されていますが、交響曲はあまり聴かれないかと思います。それもそのはず、本国でも歴史的に評価され始めたのは、20世紀に入ってからと言ってもいいからです。
ジョルジュ・ビゼー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%93%E3%82%BC%E3%83%BC
交響曲 (ビゼー)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2_(%E3%83%93%E3%82%BC%E3%83%BC)
ウィキでは単に交響曲とだけありますが、実際にスコアには「第1番」と書かれているそうで、この音源では「第1番」と記載されています。
ビゼーは明らかに複数交響曲を作曲しようとしたと考えられるでしょう。そして、実は事実上は2曲残しています。この音源ではそのもう一曲の組曲「ローマ」が収録されています。交響曲が1855年、そして「ローマ」が1860年から8年ほどかかって完成されています。
第1番はビゼーの習作とも言える作品ですが、ブルックナーなどと異なり、第1番としたところに自信のほどがうかがえます。グノーの影響もあるのではと言われますが、そうでもないように私には思えます。
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たしかに、この第1番は古典的とも言えますが、少なくともスケルツォを採用している点で、グノーよりははるかに時代に即した様式を取っているので、決してまねとは言い切れないでしょう。その先進性ゆえに、ビゼーは「第1番」としたようにすら思えます。
そして、ローマ賞のために書いた「ローマ」は、よりロマン派的であり、旋律的にはまだグノーの影響下にあるかもしれませんが、様式的にははっきりとスケルツォを採用していますし、組曲とするという点からは、むしろ後年のリムスキー・コルサコフなどにも影響を与えたとも言えるだけの先進性を持っていると言えます。
シンフォニアの祖国フランスであるにも拘らず、そのフランスで交響曲があまり評価されずオペラだけというのは、当時の国際関係も関係しているのでしょう。フランスは常にドイツ(3楽章形式を4楽章形式として「交響曲」として育て上げた国)と戦争状態にあったため、ナショナリズムの強い19世紀という時代では、不遇だったのでしょう。そこに風穴を開けたいというビゼーの、若き血潮が様式からは見え隠れしますし、確かにそれは、後にナショナリズムだからこそ、「オルガン付」を作曲したサン=サーンスに受けつがれていったと言えるでしょう。
むしろ、この作品からは、ナショナリズム(国家主義)とは一線を画し、パトリオティズム(愛国主義)へと傾倒するビゼーが見えます。グノーが目指したものが、フランス・バロックの復権だとすれば、それは確実に後にドビュッシーへと受け継がれていきますが、それは所謂国民楽派とは一線を画すものです。その延長線上に、第1次大戦後新古典主義音楽が誕生するのですから。
そう考えれば、このビゼーの二つの作品は、実に時代を切り開いていくきっかけになった作品と言えますし、それは巡り巡って、日本の戦後クラシック音楽へと繋がっていきます。
この二つの作品を、指揮者ガルデッリとミュンヘン放送管は端正に演奏していきます。この二つの作品はことさらにフランスを声高に叫ぶものではないためです。しかし、その端正な演奏が実に、作品の魅力を弾きだしています。フランスの交響曲でありながらもともに4楽章制であること、そしてドイツの交響曲に匹敵する内容を持っていることが、聴いていて如実に表れるのです。
ことさらに叫ぶものではないということは、そういった作品が好きな人にとっては物足りないということを意味しますが、それはおそらく、作曲したビゼーも同じだったことでしょう。しかし、ここからが出発点なのだと言う、強い意志を感じるのですが、その意思が、端正な演奏だからこそ明確に聴き手に伝わってきます。もう少し生き生きとしていればよかったかなと思いますが、ようやく再評価が始まったビゼーの交響曲は、これから様々な演奏がなされることでしょう。イタリア風とも異なる、新しいフランスの音楽を作り出そうとする息吹が伝わる、瑞々しい演奏だと思います。
聴いている音源
ジョルジュ・ビゼー作曲
ローマ組曲(交響曲「ローマ」)
交響曲第1番ハ長調
ランベルト・ガルデッリ指揮
ミュンヘン放送管弦楽団
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