かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:ビゼー カンタータ「クロヴィスとクロティルド」、テ・デウム

今月のお買いもの、平成26年11月に購入したものをご紹介します。今回はディスクユニオン新宿クラシック館で購入しました、ナクソスビゼー声楽曲集をご紹介します。

ビゼーは何と言っても「カルメン」で有名な作曲家ですが、このブログではそれ以外の声楽曲をご紹介しております。フィルハーモニックコーラスさんの定期演奏会です。

コンサート雑感:フィルハーモニック・コーラス第4回定期演奏会を聴いて
http://yaplog.jp/yk6974/archive/1228

実は、このCDを買うきっかけになったのはこの演奏会でした。1プロにビゼーのテ・デウムを持ってきたからです。それを聴いて、素直にいい曲だなあと思ったのがきっかけなのです。

そうです、カップリングがテ・デウムだからこそ買ったのです。ところが、1曲目のカンタータも、また素晴らしい作品なのです。

ビゼーは19歳の時にローマ賞を受賞していますが、実はその時の作品が、1曲目のカンタータ「クロヴィスとクロティルド」なのです。

ジョルジュ・ビゼー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%93%E3%82%BC%E3%83%BC

タイトルとなっているのは人名であり、5世紀にフランスを統治したフランク王国の王、クロヴィス1世とその妻クロティルドが、キリスト教に改宗する物語です。

クロヴィス1世
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%B91%E4%B8%96

フランク王国
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E7%8E%8B%E5%9B%BD

このCDでは歌詞がないのが残念です。歌詞さえあれば、もっと素晴らしい盤でしたでしょうに・・・・・

お気づきかと思いますが、このナクソスの編集は、「ローマ賞」なのです。であるならば、もう少し踏み込んでみたいのが人情というものです。

つまりは、「クロヴィスとクロティルド」は、フランス革命後、フランスが国民国家として成立していくその過程で作曲された作品である、ということなのです。それを明確に示すのが、取り上げた題材がフランク王国最初の王とその妻であった、という事なのです。

この作品が作曲された1857年という時期は、実はフランスは共和制ではなく、ルイ・ナポレオンによる第二帝政の時代です。特に、イギリスとの植民地競争真っ盛りの時代で、その影響は日本にも及び、フランス陸軍が江戸幕府の軍事顧問となったり、長州藩による下関事件の報復である、四国艦隊下関砲撃事件が発生し、フランスも英国に負けじと参加しています。その長州藩の事件は、この作品作曲後6年後の1863年です。

フランス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9

下関戦争
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%96%A2%E6%88%A6%E4%BA%89

フランスという国は基本ラテンですが、実は最初に国を興したとされるのは、ゲルマン人の王、クロヴィスだとされています。しかも、その王はキリスト教に改宗し、ヨーロッパにキリスト教を広める一翼を担いました。ヨーロッパを作ったと言われるのは、特にキリスト教布教が大きいとされています。

つまり、この作品を作曲するということは、フランスがヨーロッパの中心という考えが強くある訳です。時代は帝国主義。この「帝国」というのは王政という意味ではないですが、さらにフランスはまさに「帝国」だったわけです。ちょうど、パリの近代化もルイ・ナポレオンの時代ですし、正にこの作品は「帝政フランス」の国威発揚にぴったりの作品だったと言えます。私の推測が正しいならば、それが受賞の理由だと言えましょう。なぜなら、ローマ賞における音楽部門は、審査員に音楽関係者が少なかったからです。

ローマ賞
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E8%B3%9E

勿論、だからと言ってこの作品が音楽的に未熟だとか言いたいのではありません。様式としてはメンデルスゾーンが「エリア」で完成させた、劇的な作風を踏襲した作品で、音楽的にダイナミクスやクライマックスがきちんとあります。だからこそ、歌詞が知りたいわけですが、当時審査した人たちは必ずしもそういった音楽様式に詳しいわけではなく、だからこそ政治的な理由がそこに反映されてもおかしくないということが言いたいわけです。

同じ理由で、フランスは日本へと来航し、しかも下関砲台を占領し、街を焼き払った、というわけなのです。そのテクストで、この作品は四国艦隊下関砲撃事件とも、全く無関係ではないという事になるのです。

フランスはその後、迷走します。第二帝政が失敗に終わったあと、第三共和政が始まりますが、これは第二帝政よりもさらにナショナリズムを強めます。そういった時代に作曲したのが、その後の世代である、サン=サーンスドビュッシーと言った作曲家達です。ただ、彼等はコスモポリタン的な部分もありました。フランスナショナリズムが反映された運動は、六人組、つまり新古典主義音楽であると言えるでしょう。新古典主義音楽を私が語る時、ナショナリズムが出てくるのはそのためなのです。

勿論、それはやがて退潮します。二つの世界大戦の悲劇は、それが必然であったことを示しています。ナショナリズムが頂点に達したことが何をまねいたのか・・・・・ヨーロッパは焦土と化したことで知ったのです。

ビゼーが「クロヴィスとクロティルド」や、テ・デウムを作曲した時代は、ナショナリズムがようやく勃興し始めた、まだ幸せな時代であったと言えるでしょう。曲にも悲壮感はあまりなく。明るい旋律が支配しています。特にローマ賞の翌年に作曲されたテ・デウムは伸びやかで、宗教色とオペラティックが見事に融合した作品で、フランスの明るい未来を語っているかのようです。確かにそれは、新古典主義音楽が勃興したあたりまでは当たっていたことでしょう。しかし、第1次世界大戦を分水嶺にして、カタストロフィーへと向かっていくのです・・・・・

現在、フランスとドイツとの外交関係は比較的良好で、なおかつ中欧の雄として手を携えることを両国とも隠しません。それは両国がまずフランク王国では同じ国家であり、なおかつ19世紀から20世紀においては敵国として戦ったことが招いた悲劇を踏まえたものなのです。この二つの作品はその意味で、現在の日本に、強烈なメッセージを持っています。実は新古典主義音楽に私が興味を示すのには、そういった背景があるのです。

演奏は、とにかくのびやかです。特に「クロヴィスとクロティルド」ではppからffまでのダイナミクスさが顕著で、ナクソスとしては珍しいほどです(大抵はもう少しなだらかで、それほど差がある訳ではないこともあるからです)。フランスのオケ、合唱団という事もあるのでしょう。丁寧に演奏することに傾注しつつ、激しさも持っていますし、荘重さも充分です。フランスナショナリズムを冷静に見つめ、その上で端正に表現したこの演奏は、現在の日本に住む私としては、うらやましい演奏です。




聴いているCD
ジョルジュ・ビゼー作曲
カンタータ「クロヴィスとクロティルド」
テ・デウム
カタリーナ・ヨヴァノヴィッチ(ソプラノ)
フィリップ・ドー(テノール
マーク・シュネイブル(バス)
パ・ド・カレー合唱団
ジャン=クロード・カザドシュ指揮
リール国立管弦楽団
(Naxos 8.572270)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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