神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はグールドの「ゴルトベルク変奏曲」をご紹介します。
グールドと言えば、当然ピアノ演奏という事になるわけですが、私は様々なヴァージョンを持っており、すでにチェンバロ版とオルガン版をご紹介しています。
マイ・コレクション:曽根麻矢子のゴルトベルク変奏曲
http://yaplog.jp/yk6974/archive/794
今月のお買いもの:バッハ ゴルトベルク変奏曲・オルガン版
http://yaplog.jp/yk6974/archive/757
実は、元々持っていたチェンバロ版よりも、オルガン版の方を先にご紹介してしまっているんですよねえ。これも時系列上仕方なかったとはいえ、本当は曽根女史の演奏の方を先に取り上げたかったのが本心です。
で、実はこのグールドの演奏は、オルガン版よりも先に借りてきています。オルガン版を紹介した時に、こう書いたかと思います。
「実はもともと、私はこの曲をまさしくチェンバロ版で持っています。その後図書館でピアノ版(現代で通常演奏されるヴァージョン)とピアノ三重奏版を借り、そして今回、オルガン版を買ったというわけなのです。」
図書館で借りたピアノ版というのが、まさしくこのグールドなのです。どちらかと言えば原典主義(それは史学科卒業生として卒業大学の「実証主義」に基づくものですが)だった私が、ピアノでもいいねと方向転換するきっかけになったのが、グールドでした。
すでに、平均律クラヴィーア曲集の演奏を取り上げているかと思いますが、その平均律クラヴィーア曲集の演奏がきっかけとなり、このゴルトベルクも借りることとしたのです。そしてこの演奏は、さらに様々なヴァージョンを借りるきっかけとなり、上記オルガン版や、まだご紹介していませんが弦楽三重奏版も借りたり買ったりすることにつながったのです。
それほど、この演奏は曽根女史の時同様、衝撃的なものでした。
さて、グールドはゴルトベルクを2度録音しています。一度目はデビューした1956年、そして2度目は1981年。この音源はそのうち2度目の1981年の録音です。
グールドは超絶技巧という印象が強いかと思いますが、この演奏は平均律クラヴィーア曲集の第1巻と第2巻よりも更に超絶技巧的ではなくなっています。勿論、超絶技巧的な部分もありますが、もっと伸びやかに堂々と演奏しています。デビュー当時の肩肘張ったような印象はなく、むしろ達観したかのような、透明で伸びやかな演奏が目につきます。
チェンバロ版かのようなピアノである一方、リタルダンドの多用やppからffまでのダイナミックレンジの広さなど、まさに現代のピアノを縦横無尽に操って、まさしく練習曲でもあったこの作品を、変奏曲の楽しさや美しさ、内面をずばり暴き出して余りあります。
特に、第1変奏のゆったりとした演奏は衝撃でしょう。グールドと言えば超絶技巧というような印象が強い中、それを跳ね返すかのようなゆったりとした演奏は、まるでチェンバロです。もしかするとチェンバロよりもゆっくりかも・・・・・
それが変奏を重ねるにつれて、だんだんと速くなっていく様は、やはりピアノ演奏だという印象を与えます。チェンバロでも可愛く美しく、かつ人の内宇宙を表現したかのように思われましたが、ピアノでは更になのだということを、強く感じます。
グールドがこの演奏を録音した時、実は精神を病んでおり、処方薬もかなりの量だったようです。そうなるとその副作用として様々なものが服用している本人に現われるわけで、それは苦しいものなのですが、そんな中でそれまでの演奏を見つめ直すかのような、明るく伸びやかで、かつ堂々としている演奏は、何かグールドの心の中が吹っ切れたようです。
何か、腹が据わったと言うか、超絶技巧で驚かせてやろうと言うよりは、自分の心の声に耳をかたむけながら、しかし愚直に自らの表現する武器である「ピアノ」というものを十二分に使って、自らの心の声を素直に表現しているような印象です。本来、自分はそんな超絶技巧を目指していたんじゃないんだ、ただ自分の内面を素直にピアノで表現しただけなんだ、と言わんばかりに・・・・・
それを表わす一つの証拠に、この演奏には何と!グールドの肉声が収録されているのです。何かを語っているのがボーナストラックに入っていたのか?と思う方もいらっしゃるかと思いますがそうではなく、演奏中にグールドが唸っているのが収録されているのです。
唸っていると言えば、日本では指揮者の小林研一郎氏が有名で、CDにも収録されていることがしばしばですが、グールドもこの音源では唸り声も一緒に収録しています。それはまさしく、すべてをなげうって、ただ音楽を自らの心と対話しながら、ひたすら正直に表現しようとしていることの表れでもあります。
何かに囚われるのではなく、自らの信念に基づいたこの演奏は、ピアノという楽器が発展してきたその能力をフルに使うのではなく、ピアノという楽器が発展してきたその結果という素晴らしい果実を使って、何物にもとらわれずに演奏した記録なのです。それはまさしく、グールドがゴルトベルク変奏曲という素材を使った、私達に対するメッセージなのです。超絶技巧でなければ物足りないですか?でも、それは何かに囚われていませんか?という・・・・・
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
ゴルトベルク変奏曲BWV988
グレン・グールド(ピアノ)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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