かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:大木正夫 交響曲第5番「ヒロシマ」・日本狂詩曲

今月のお買いもの、平成26年9月に購入したものをご紹介しておりますが、今回はナクソスの大木正夫の作品集をご紹介します。ディスクユニオン新宿クラシック館での購入です。

まず、このブログでは初めて出てきました、大木正夫という作曲家をご紹介しましょう。20世紀日本の作曲家ですが、元々はエンジニアだった人です。社会人になってから独学で作曲の勉強を初め、奉職した長野県を描いた作品交響曲第4番で広く認められた人です。

大木正夫
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%9C%A8%E6%AD%A3%E5%A4%AB

作風が右から左へという人ですが、元々のスタンスはおそらく左だったのではないでしょうか。戦前ではそれが許されなかったので、仕方なく右を向いていたのではないでしょうか。自分の好きな作品だけを作曲できるような時代でもありませんでしたし、それ故右を向かざるを得なかったのでしょう。それはウィキよりもCDのブックレットのほうが詳しく書かれています。

そんなことをうかがわせるのが、第1曲目の日本狂詩曲です。1938年にNHK東京放送局から委嘱されて作曲した作品ですが、祭の旋律が全体を支配しています。まるで民衆が踊り狂っているような熱気を感じます。

実は、この日本狂詩曲はNHKが意図した「国民詩曲」の一つなのです。国民詩曲とは、国民が親しみやすい作品を創ることで、連帯感を生み出し、ナショナリズムに貢献するという側面をもった芸術です。つまり、当時の社会を色濃く反映した作品であるといえます。当時大木自身もそのナショナリズムに傾倒しており、この作品に関しては決していやいやではなかったようです。

それでも、彼は自分のスタンスを反映させる、誠に民衆的な作品に仕上げました。どこを切ってもお祭り騒ぎのような旋律。激しいリズム。ある意味、現在でいえばロックのような激しさと平易さを持っています。

それが戦後は一転、自らの罪にさいなまれながら、彼は左へと舵を切ります。それが2曲目の交響曲第5番ヒロシマ」です。彼は東京で暮らしていましたから、直接広島の惨状を見たわけではありません。丸木夫妻の有名作である「原爆の図」を見て書いた作品です。

http://www.aya.or.jp/~marukimsn/top/genindex.htm

未だ私はこの絵を直接見たことはありませんが、映像などで見たことはあります。その、記録映画のような迫力は、見るものを圧倒させます・・・・・

広島の原爆資料館には行ったことがありますが、その資料を見た時の衝撃たるや、ここで語るには長すぎてしまうので割愛しますが、なぜ丸木夫妻が「描かなければ」と思ったのかの一端を、知ることが出来たことは今でも収穫であったと思っています。

さて、この交響曲は8つの楽章から成っており、初めは交響的幻想と呼ばれていました。8つの楽章の内、序奏と最後の「悲歌」を抜いた6つが原爆の図とリンクしており、楽章も同じ順番で並んでいます。第5部の「少年少女」までは楽章の名称と同じですが、第6部「原子野」は「原子砂漠」と変えられています。これはわかりやすいようにと大木が変えたものと思います。実際、広島の原爆資料館に行けば、そう変えた理由はすぐわかります。

だれでも、映像などで被曝直後の広島を見たことがあるかと思います。何にもなくなってしまって、草木もない、まるで砂漠のような土地が現出します。それを「原爆砂漠」というのです。そこに、まるで第1部「幽霊」で描いたような人々が「浮遊」するかのように、歩いている・・・・・そのグロテスクさは、当時救護活動をしていた丸木夫妻にとって、どれほど衝撃だったことでしょう。

資料館で原爆砂漠を見ただけで、私などは衝撃を受けたのですが、夫妻が受けた衝撃は更なるものだったことでしょう。ですから、絵画では「原子野」と表現され、大木はさらに音楽で表現した時には「砂漠」という表現を使ったのであろうと思います。実際、被爆直後の広島は、砂漠のようになってしまったのですから・・・・・

広島市への原子爆弾投下
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%83%E5%B3%B6%E5%B8%82%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%AD%90%E7%88%86%E5%BC%BE%E6%8A%95%E4%B8%8B

この曲では、徹底的に「原爆の図」が持つ、グロテスクな説得力を音楽で表現しています。それゆえに、不協和音が前面に出され、古典的な旋律線などみじんもありません。絵画を描いて自然とそうなったのでしょうが、原爆がすべてを破壊するということを、古典的な旋律線を破壊するということで表現したとも取ることが出来ます。それは大木氏が意図したものかはわかりませんが・・・・・

指揮は湯浅卓雄。他の日本人作品も指揮している、ナクソスではおなじみの指揮者ですが、オケは新日フィルと、ナクソスでは珍しいオケの登場です。新日フィルという在京の力のあるオケだからこそ、練習中に気分が悪くなって倒れる人もいるという、交響曲第5番を、明快な解釈で演奏できているのだろうと思います。プロオケ故の素晴らしいアンサンブルだからこそ、私達に明確に、丸木夫妻が描いた被爆直後の広島が、眼前にあるかのように迫ってきます。もしかするとこの作品を聴いて気持ち悪くなる人もいらっしゃるかもしれませんね・・・・・

勿論、広島交響楽団を選択することもできたでしょう。しかし、それでは政治的という批判も出る恐れもあるでしょうし、残念ながら実力なら新日フィルが上。ならば、新日フィルを選択するかなと思います。最後まで救いがないこの作品を、徹底的に引いて、冷静に演奏することで、かえって作品が持つエネルギーが、聴き手に十分に伝わってきます。

後期ロマン派にありがちな、感情移入しまくりという演奏も時として感情が動かされるものですが、この演奏では知的で冷静な姿勢だからこそ、被爆者たちの救いのない悲劇が、作曲者の想いと共に、胸に迫ってくるのです。




聴いているCD
大木正夫作曲
日本狂詩曲
交響曲第5番ヒロシマ
湯浅卓雄指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
(Naxos 8.557839J)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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