かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:バッハ世俗カンタータ全曲演奏シリーズ3

今月のお買いもの、8月に購入したものをご紹介しましょう。BCJのバッハ世俗カンタータ全曲演奏シリーズの第3集です。

収録されていますのは、BWV173a、BWV202、BWV36c、そしてBWV524です。当然ですが、BCJのアルバムですからこれらが並ぶのは意味があります。作曲年代?世俗カンタータはあまりそれにこだわっていません。これらの作品は最後の物をのぞいて、すべてパロディなのです。

まずBWV173aから参りましょう。「いとも尊きレオポルト殿下よ」という題名のカンタータで、その名の通りケーテン公レーオポルト殿下の1722年の誕生日用に書かれたという説が有力ですが、それ以前に成立したという説もあります。

そして、aが付いているということは何かの原曲になったということを示しており、これは以前取り上げましたBWV173の原曲となった作品なのです。

マイ・コレクション:BCJバッハ教会カンタータ全曲演奏シリーズ20
http://yaplog.jp/yk6974/archive/1053

この原曲でも、やはりレチタティーヴォから入っています。あーさてさてという感じですが、それほどわざとらしいわけではなく、むしろ厳かな感じすらします。いきなり歌い始めるという形式が複数あることから、バッハが機会音楽としての効果を十分狙っていることがよく分かります。となると、パロディになった教会カンタータBWV173も、同様の効果を演奏上狙ったと考えるのが自然でしょう。そしてそれは教会カンタータBWV173とセットでの演奏機会が多かったBWV184にも言えるのではないかと思います。

次に「しりぞけ、もの悲しき影」BWV202です。1730年という記載が直筆譜にはあるので成立年はそれで流布していますが、恐らく原曲はもっと前に成立したであろうとされている作品です。ただ、その原曲は今日では失われ、この世俗カンタータとしての結婚カンタータのみが残されています。恐らく、このBWV202が成立した時に原形をとどめることなく改訂されたのでしょう。前奏付きのアリアから入っていること、そして編成が小さいことなどから、バッハの身近な知人の結婚式用に成立した作品だろうといわれています。

3つ目が、「喜び勇みて羽ばたき昇れ」BWV36cです。これも以前教会カンタータでBWV36を取り上げていますが、その一番最初の原曲になります。

今月のお買いもの:BCJ バッハ カンタータ全曲演奏シリーズ47
http://yaplog.jp/yk6974/archive/735

上記エントリで「もともとは1725年に作曲された世俗カンタータ」と述べているのがこのBWV36cです。じつは二つにも共通点があります。それは、ともに誕生祝賀用であるということです。

では、二つに分ける必要はないじゃないか、という意見もありそうですが、まず、教会カンタータというのは使用する場所が教会であり、それ以外を世俗カンタータと呼ぶのですと以前申し上げたことがあるかと思いますが、この二つもその違いがまずあります。そして、BWV36cはシンメトリーであるのに対し、BWV36はそうではありません。ですから分けるのです。

ただ、このBWV36cからは教会カンタータも含め3つの作品へ転用されましたが、基本的な内容が似ているんですね。天に上るというのがキーワードになっていることから、バッハはBWV36cをそういった晴れがましさを意識して作曲したということが指摘できるでしょう。

最後に、このアルバムで私がもっとも素晴らしいと思うのが最後のBWV524です。これは「クォドリベッド」と呼ばれ、自由に歌うというものです。歌詞の内容から鈴木氏は流布通り結婚式用として演奏していますが、では、結婚式のどんな場面でとなると、皆さんならどう想像しますか?

一応、ヤフー知恵袋で回答があったようなので、信用できると思いますので挙げておきます。

クォドリベット
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1246884897

これからすれば、式典?と思ってしまいますが、鈴木氏はそう判断しませんでした。鈴木氏は披露宴、或はその後の1次会や2次会あたりと判断したのです。

クォドリベッドはバッハの作品ではゴルトベルクでも使っている様式ですが、このアルバムの歌い方は、明らかにヴィラネッラやモレスカの歌い方なのです。

マイ・コレクション:ラッスス ヴィラネッラとモレスカ集
http://yaplog.jp/yk6974/archive/808

つまり、この作品はラッススの、庶民を取り上げたような作品をルーツにしていると、鈴木氏は判断しているわけで、演奏では終始おどけまくっています。それは、それ以外の前3曲とは全く異なります。

マチュアオーケストラの方は共感、あるいは理解できるかと思いますが、練習、あるいは演奏会が終わって打ち上げや、疲れを吹き飛ばすためにちょっと一杯やろうよ!という機会があるかと思いますが、まさしくそんな時に歌われるのがこのクォドリベッドなのです。そんな時に真面目くさって話しします?勿論、そんなケースもあるかと思いますが、酒がまわってきた時でも真面目くさいですか?

恐らく、オルフの「カルミナ・ブラーナ」の「酒場にて」のように、どうしようもないぐだぐだな状態がほとんどではないでしょうか。BCJの解釈はまさしく、その一歩手前の、いい具合に酔いが回ってきた状態を表現しています。それはまさしく、鈴木氏がそんな状態にこそ歌われたであろうと判断しているという現われです。

一応、バッハ事典によればこの作品の成立年代は1707年とされていますが、それ以前に成立した可能性もあり、また他の人の作品をバッハが編曲しただけという意見もあります。もし編曲であればこれも立派なパロディということになり、収録全作品がパロディということになります。私は一応、その可能性ありだが、現在の所は信義定かではないのでバッハの作曲としておきたいと思います。直筆譜は残っているためです。

また、演奏の顔ぶれも教会カンタータとはまた一味違い、テノール桜田亮が復活し、カウンターテナーに再び国産(という表現が適切かわかりませんが)の青木洋也を起用するなど、ソリストは一新しています。またホールも教会カンタータで長らく使用してきた神戸松蔭女子大チャペルではなく、しらかわホールに変更するなど、フレッシュです。

http://www.shirakawa-hall.com/

名古屋にあるこのホールはとても小さく、こういったカンタータを演奏するのに適していると思います。このアルバムでのBCJの編成も実はとても小さく、一つのが楽器で一人くらいです。それは先週取り上げたバッハ・コンチェルティーノ大阪とほぼ同じです。

神奈川県立図書館所蔵CD:280年ぶりによみがえった結婚カンタータ
http://yaplog.jp/yk6974/archive/1226

となると、おそらくBCJも取り上げるであろう、BWV216も非常に小さい編成で演奏されることが予想され、BCJファンとしては興味深いところです。さて、どんな演奏になるのでしょうか・・・・・

クォドリベッドの、はっちゃけおどけまくる演奏と、その対極である通常の世俗カンタータの演奏とふたつ聴いてしまいますと、興味は尽きることがありません。こういった点が、バロック音楽の素晴らしいところなんですよね〜

ただ、こう書いてしまいますと後期ロマン派が好きな方からはお叱りを受けるのですが、決してバロックが素晴らしくて後期ロマン派がくだらないと言っているわけはないのです。バロックにはその時代背景からしての楽しみ方が、後期ロマン派はその時代背景からしての楽しみ方があるということを言いたいのです。BCJはそういった「異なる視点」を常に私たちに与え続けてくれています。




聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
世俗カンタータ「いとも尊きレオポルト殿下よ」BWV173a
世俗カンタータ「しりぞけ、もの悲しき影」BWV202
世俗カンタータ「喜び勇みて羽ばたき昇れ」BWV36c
クォドリベッドBWV524(断片)
ジョアンヌ・ルン(ソプラノ)
青木洋也(カウンターテナー
桜田亮(テノール
ローデリック・ウィリアムズ(バリトン
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS BIS-2014 SACD)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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